第28話:僕の物語はハッピーエンドで終わらない

 僕は姉嵜先輩と助手と三人で幼馴染だったことを思い出した。別れ際にさよならを言えなかった僕はそのことを強制的に記憶から消していたみたいだ。それだけ、このことは僕にとって辛い思い出だったということだろう。


 姉嵜先輩こと、お姉ちゃんは突然僕がいなくなったショックで髪の毛の色が抜けて銀髪になったとのこと。


 助手こと、妹ちゃんは周囲の人間を遠ざけるために目つきを鋭くしたらしい。あの猛毒の毒舌と半眼ジト目は僕が原因だった。


 でも、それだけじゃ、あの授賞式に実在しないはずのAIである「愛衣」が来るわけがない。僕は愛衣の存在は誰にも言ってないからだ。


 察して僕を救ってくれるなんて、そんなことが可能なはずがないのだ。


「その……、AIのことを友達には話していただろう? 親友とも言っていいくらいの……」


 姉嵜先輩が少しもじもじしながら言った。


 僕にそんな仲の良い友達なんていない。僕はこれまで転校転校で友達を作るのが大変だった。しかも、努めて作らないようにしていたところがある。もう、悲しい思いをしなくていいように。


 ……いや、いた。1人だけ。何でも言える友達。


 リアルじゃないから、ある意味何でも言えた。ゲーム仲間の「AAA」だ。


「もしかして、『AAA』って……」


「わたっ、私の……知り合いだ」


 姉嵜先輩が少し目をそらしながら答えた。


「先輩! 騙されないでください。きっと、それは姉嵜先輩そのものだから!」


「え?」


 助手が姉嵜先輩を指さしながら言った。


「ち、ちがっ! いや、いつかは言おうと思って……」


 あーーーーー。「AAA」は姉嵜先輩っぽいな。たしかにヤツにはAIで表紙を描いたことを言った。周囲にべらべら喋るヤツじゃないと思ったから話したと思う。ヤツが周囲に言わないんだったら、姉嵜先輩が「AAA」でないと話が合わない。


 ちょっと待て……。僕と「AAA」との付き合いはどれくらいだ? 1年とか2年じゃないぞ……。一体いつから……。


「お姉ちゃんは、昔からストーカー気質があって、お兄ちゃんが飲んだ後のストローとかこっそり持って帰ってたし、部屋に行った時もベッドに顔を付けてニオイも嗅いでた!」


「え?」


 待て待て待て。僕の中の「姉嵜先輩」のイメージと全く違う。生徒会長キャラで曲がったことが許せないタイプじゃなかったのか⁉


「渉くんが……生徒会長キャラが好きだっていうから……」


 そう言えば、昔「AAA」にそんなことを言った気がする。だから、姉嵜先輩は生徒会長キャラだったのか。それもステレオタイプの。ここにきてキャラ変とかズルすぎる。


「最近の先輩は、『AMI』のキャラクターの様な女の子が好みなんです」


 助手がふんす、と姉嵜先輩に言った。なぜ、ここで敵対心を燃やす?


「……ちょっと待て。それは、今年からだろう? 妹崎くんが少しずつ洗脳して行ったんだろう!」


 姉嵜先輩が、謎の決めつけをしたので助手の方を見たら、助手は明後日の方向を見て吹けない口笛を吹いていた。


 ……こっちもなんかあるの?


「大体、『AMI』って昔からきみがイラストを描いているときのペンネームだろう!」


「え⁉ 『AMI』って助手⁉」


「あー! もう、バラしちゃった!」


 そう言えば、助手のツイッターのフォロワーを見せてもらったことがあった。えげつない数のフォロワーがいたんだ。あれなら、たとえ一般人だとしても、超人気者の一般人だ。


 助手がAMIだと言われたら納得も行く。そして、僕に一切イラストを見せてくれなかったことにも合点がいった。僕は、イラストを見られるのが恥ずかしいのだと思って無理に見ようとしなかったんだ……。


「さては、あの手この手で渉くんに『AMI』のイラストを見せて、好きにさせていったんだろう!」


「うっ……」


 ダメージを受ける助手。そうなの? それが事実なの?


「そもそも、『AMI』って私のイラストに憧れて私の下の名前を付けたペンネームだったじゃないか!」


「うぐっ!」


 姉嵜先輩の指摘にまたも、ダメージを受ける助手。そうなの?


 ちょっと待てよー。片やネットの友だち「AAA」に成りすましていたストーカーな姉嵜先輩と、知らない間にイラストを通して僕の好みを洗脳によって変えて来た助手。


 僕のヒロインたちはどうなってるんだ⁉ 僕は訳が分からなくなり、その場で頭をガシガシ掻いた。


 日ごろから僕は助手のことが好きだと思っていた。


 それなのに、吊り橋効果もあったのか、あの姿の愛衣にすっかり心を奪われている。


 そして、助手だと思い込んでいた愛衣は助手ではなく、姉嵜先輩だった。


 冷静になって考えると、本当に僕が好きだったのはどっちだ!? 片方に心が決まりそうになったら、また迷わされる。完全にラブコメだ。


「姉嵜先輩はどう考えても、ライバル枠じゃないですか」


 助手があの無表情で言った。


「誤解もあったようだから、私は本来の姿で接することにした。もう、この銀髪も隠さない。渉くんの理想の姿をしている私こそ真のヒロインではないだろうか」


 姉嵜先輩が助手に応戦した。


「その理想は私の絵が大きく影響しています。それは私自身の投影となっています。姉嵜先輩のはただのコスプレで、私こそ真の理想です」


 普通、小説の中でこれだけ色々な事実が明らかになったら、最終回の時だろう。それなのに、僕の目の前の物語はここにきて新キャラ登場だし、それが僕の理想だし、既に告白まがいのことまでしてしまっている。


 そして、それまで好きだと思っていた助手のことが嫌いになったかというと、全くそんなことはない。それどころか、過去のことを思い出してもっと好きになっている。


 幸か不幸か、僕は二人から好意を向けられているみたいだし、二人ともタイプは違うけど僕の理想通りだった。


 僕のラブコメはまだまだ終わらないみたいだ。

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