第20話:僕の執筆活動には仲間がいない!

「西村先生、なんかamazonでランキングを上げる方法ってないですかね?」


 僕は放課後の部室で顧問の西村綾香先生に質問していた。kindle本の売れ行きがよくなかったので、ランキングさえ上がれば売り上げが伸びるのではないかと思っていたのだ。


 先日から、助手と姉嵜先輩がツイッターで紹介してくれたりして、あるジャンルの3位までは来ていた。あと一息なのだ。どうせなら1位を取りたい。


 もはや僕はどんなことをしてでもランキングをあげたいと思っていたのだ。


「ありますよ? 昔からの古い手が」


「え? そんなのあるんですか?」


 僕は興味津々だった。適当な席に座っていた先生の席のすぐ前に移動して前のめりに聞いた。


 助手も興味があったみたいで無言のまま僕の席の隣に移動してきた。


「それはですね……作者が自分の本をまとめて買うんです」


「え?」


「100冊とか200冊とか、まとめて」


「えー……」


「新人作家なんかは、ほとんどやってたみたいですよ? amazonのランキングを上げるために」


「……『やってた』ってことは最近ではあまりやってないってことですか?」


「やってないこともないでしょうけど、kindleみたいな電子書籍が出てきて『できなくなった』と言うのが正解かもしれませんね」


「……と言うと?」


「kindleは一人1冊しか買えません。一度買うと、販売ページにその本は○月○日に既に購入済みです、みたいなメッセージが表示されているでしょう?」


「あ、そうかも。たしかに出ますね」


 そうなのだ。間違えて同じ本を2度も3度も買わなくていいようになったので、読者としては嬉しいと思っていたけど、作家としてはズルができなくなっていた。


 要するに、kindleでは1冊しか買えなくなった。そして、アカウントは複数持てない。一人1冊しか買えないのだ。


「じゃあ、今では作者が自分の本をまとめて買うことはないんですね?」


「紙の本ではまだあると思うわ。私の知っている作家さんでも自分で100冊買ったって言っていたもの」


「そうなんだ。あれ? じゃあ、kindleの方では、仲間を作ったらどうですかね? 発売と同時に本を買うための仲間」


「そうね。作者が自分の本を買うことはamazonの規約に違反しないし、本を買ってとお願いするのも違反じゃないわね」


「本の購入代金を渡すのはどうですかね?」


「特に問題ないと思うけど……お金をもらった人がちゃんと本を買うかは別の話ね」


「ああ! そうか!」


 意外と難しいようにできていた。


 仮に「お金を出してくれたら本を買いますよ」と言う人が現れても先にお金を渡してしまったら、何に使うか分からないんだ。


 逆に先に買ってもらって、後からお金を渡すとしてもちゃんと買ったか確かめる術がない。


 大手の出版社に個人で対抗すると考えてみたら、大手は初版で1万部刷るというし、kindleで同じくらい対抗すると考えても、1万人も買ってくれる人がいる訳ない。


 仮に、個人で1万部売るような人がいるとしたら出版社は見逃さないだろうな。その人の本を売れば確実に1万部超えるんだから。でもなぁ……。


「1万人のグループ……絶対そんなのできないや……」


「あら? なんか壮大なことを考えているみたいですね。そんなにたくさん売れなくても大手の出版社で本を出すより収益を上げる方法がありますよ?」


「え? そんな方法があるんですか?」


「そうねぇ……、例えば、発売と同時に100冊売れるとします。それは紙の書籍じゃなくて、kindleで」


「はい」


「そしたら、きっとランキング上位に行くと思います」


「そうなんですか!?」


「そうねぇ、『ライトノベル』みたいな大きな括りのジャンルだったら200~300冊くらい必要かもしれないけど、他のジャンルだったら100冊も売れれば1位になる確率が高いわ」


「そうなんだ!」


 僕の本は70冊くらいしか売れてないのでそんな話は全然知らなかった。


「そして、ランキング上位に入れれば、ランキング効果である程度本は売れるわ」


「なるほど!」


「まあ、そのあと売れ続けるかは、本の中身がおもしろくて評判が良くないとだめでしょうけど。多分、最初に100冊売れれば、月に200~300冊くらいは売れるんじゃないかしら」


「そ、そうなんだ……」


 1万冊とか言うと、異次元の冊数だったけど、100冊ならなんとか頑張れば行けるような気がしてきた。


「そして、印税を考えると、大手出版社の場合は本の価格の3%前後って言われているわ。対して、kindleは条件こそあるけど70%をロイヤリティとして受け取れる」


「3%と70%⁉」


「そうね。仮に本が1000円だとしたら、大手の作家さんは1冊売れるごとに30円もらえることになる。そして、1万冊売れたとしたら、30万円が取り分になるわね」


 あれ? 思ったより少ない印象? 本って売れたらもっと印税がどばーっと……。


「30万円じゃ不満って顔ね、九十九くん」


 僕はまた顔に出ているらしい……。


「有名な作家さんの場合は100万部とかいくから、販売も100倍、そして、印税も100倍……ってね。そして、ある程度売れるって分かっている作家さんの場合、10%くらいまで印税が上がるって言うし、そしたら九十九くんが思っている様な感じになるかもね」


「なるほど……」


 野球で言うと、大谷翔平を夢見て野球選手になるとしても、大谷は世界のトッププレーヤーだ。そこと同じ収入を期待するなら、そこと同じか、それ以上にならないといけない。


 夢の印税生活は遠そうだ。


「一方で、kindleの場合は70%がロイヤリティとしてもらえるわ。仮に本の価格が1000円としたら、700円が利益ってことね。」


「すごい……」


「大手から出版した時の23倍以上の印税、ロイヤリティだから個人なら435冊売れば大手出版社で1万部発行した時と同じ利益を得ることができる計算ね」


「え? たった435冊⁉」


「そうよ? 1万部÷の23で考えたら、434.8冊でしょ?」


「……ほんとだ」


 僕は一応スマホの電卓アプリを立ち上げて計算してみた。


「まあ、kindleの場合大手出版社よりも安く出している人が多いから、半分の500円にしたとしても、870冊売れば大手出版社の1万部と同じ収入になるわね」


「す、すごい……。そんなことが! じゃあ、絶対個人でやった方がいいじゃないですか!」


「そうね。収入の面だけ見たら、ね。その代わり、編集も校正も挿絵も表紙もプロモーションも全部自分になるけどね」


「そうか! 出版社ならそれぞれのプロがいるのか!」


 意外と個人での販売も凄いと分かったけど、一長一短ある事も分かった。


 でも、発売と同時に100冊売れれば……つまり、発売と同時に100冊買ってくれる100人の仲間が必要……。そんな人間がいれば、出版社も見逃さないだろう。


 発売直後に確実に100冊を買ってくれるなら、その作者の本は毎回発売と同時にamazonのなんらかのジャンルで1位になるのだから。出版社としては喉から手が出るほど欲しいだろうなぁ。


 流行りものを最初に買う人のことを、たしか「イノベーター」って呼ぶんだ。そして、その次の段階に買う人のことを「オピニオンリーダー」。オピニオンリーダーは流行に敏感で自ら情報を収集して、情報発信力が強い人……。


 つまり、ツイッターでフォロワーが多いような人のこと。僕の周囲で言えば、助手とか姉嵜先輩だ。


 僕もツイッターのフォロワー数を増やす方法を習ってフォロワー数を伸ばそう。そして、本の発売と同時に100冊売れる様にするんだ。


 僕は家に帰ってから「AAA」にも次のkindle本を発売したら買ってくれるように頼んだ。


 そして、WEB小説サイトでも発売の1か月前から告知を始めた。


 新たに新刊のために編集を始めたこと、推敲を始めたこと、以前とは文章を書き直していること、購入特典で短編を入れることなど、現在連載している小説を公開しつつ、近況ノートで情報を開示していった。


 それと同時に、AIを使って次の表紙絵のための「神絵」生成のために、日々ガチャを繰り返したのだった。


 その後、1か月して僕の渾身のkindle本が完成することになる。

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