04

「ざぁこっ」


 満面の笑みで、テントに入ってきたのは、T19だった。P03も、眠そうな表情で手を引かれている。


 飴の奪取については、T19も知っていたようだ。

 失敗したS08とG45をバカにするように笑っては、夜中だというのに喧嘩を始めそうだ。


「ここで喧嘩するなよ」


 巻き込まれないよう、P03にこっちに来いと手ぶりをすれば、素直に走ってきて、牧野の腕の中に収まった。

 元気が有り余っている三人に比べて、すっかり瞼も閉じてしまっている。


「というか、お前ら全員裸足か」


 フル装備でなくてもいいが、せめて靴くらい履いてほしいものだ。


「はぁ……もう今日はここで寝ろ。明日も早いんだ」


 靴なしで歩かれたり、もう一度彼らのテントで作戦会議をされても面倒だ。

 ここで一緒に寝てしまった方が、作戦は丸聞こえだろうし、幾分か気も楽になる。


「じゃあ、俺、Pとマキノさんの間!」

「うわ……もうP寝てんだから、空気読みなよ」


 G45の要望を、冷静に否定したT19だが、そのほとんど寝ているP03の手を引いて、無理矢理連れてきた張本人の言える言葉ではない。

 しかし、G45は「確かに」と納得すると、P03の隣に寝転がった。


「じゃあ、僕、こっち」


 G45の場所が決まると、T19とS08も、すぐに牧野の背後に位置取り、横になった。

 決して、G45の寝相の悪さを考慮した上で、決めた位置ではないと思いたい。


 寝転びながら、こちらを薄ら笑いを浮かべながら見上げているT19を、見なかったことにして、その隣のS08へ目をやる。

 眠るにしては、S08の目は開いたままで、じっと一点を見つめている。


「S。その飴は、P03のために用意してるんだ。だから、盗む必要はないからな」

「…………」


 納得していない。どう見ても、納得していない。


「明日、いくつか渡すよ。あくまで、非常時の食料だからな」


 S08は、決して頭が悪いわけでもないし、我欲が強いわけではない。T19のように、快楽的に飴を無駄に食らうことはしないだろう。


「別に、全員に分けてくれてもよくない?」

「よくない」


 ニタニタと、薄ら笑いを浮かべているT19。

 このまま、よく回る舌が回り出しても面倒だ。


「お前らに配分する分は、まとめてSに預けるから、そこから好きに分けろ」

「げっ……」


 予想通りのT19のくぐもった声を背中に聞きながら、ようやく瞼を閉じた。


*****


 昨夜の作戦は、どうやら成功したらしく、S08からの殺意の高い視線は収まった。

 壊れた壁も、半分ほどの高さまでは積み上げられてきている。応急処置としては十分だろう。


 表向きな任務としては、戻ってもいい頃合いだが、久留米を含めた駐屯地の状況が気になる所だ。


「G、S。狩りのついでに、以前デカいムカデと戦った電波塔のところに行って来てくれないか?」

「いいけど、なんで?」

「Tの奴が派手に壊したから、向こうにも修理班が来てる。こっちと違って、専門的な資材を使う分、運び込みやら補給が来てるはずだ。だからそいつらに『補給が来てるなら、主食を分けてほしい。可能なら、米を希望する』って伝えてくれ。覚えたか?」


 牧野の質問に、しばらく牧野の事を見つめていたG45だが、少し離れたところで待っていたS08へ顔を向けた。


「S! 覚えた?」

「メモ渡すから、ちょっと待ってろ」


 要件を書いたメモをG45に渡す直前、少しだけS08に目をやり、迷った末、G45へ渡した。


「落とすなよ」

「落とさないよ!?」

「内ポケットのチャックのついてる……そう。そこにいれとけ」


 普段の狩りよりも少し遠いが、戦闘面については心配はない。

 心配があるとすれば、こちらの意図が通じないことだ。


 G45やS08に意訳されて伝わった言葉が、電波塔修繕部隊に伝わらなくては意味がない。

 その点、メモを渡せば、無くさない限り不安はない。

 無くさなければ。


 内ポケット、しかもチャックを閉めたことまで確認したのだ。さすがに無くすことはないだろう。


「そんなに大切なのか? 食料は問題ないだろ」

「大切だ。穀物は、なかなか取ってこれないからな」

「……」


 探るように牧野を見上げるS08へ、牧野は少しだけ困ったように眉を下げた。


「頼むよ。S」


 隠し事をしている大人に、良い印象なんてないだろう。

 だが、口にできないことはある。


「…………わかった」


 顔を逸らし、吐き捨てるように答えたS08に、牧野は頬を緩めた。


「ふたりとも、狩りにいくの?」

「うん。Pもいく?」


 走り寄ってきたP03に、G45は一緒に行くかと誘うが、すぐにS08から否定された。


「今日は遠くまで行くから、Pがいると困る」

「えー……足遅くても、別に大丈夫だって」

「なんか大丈夫じゃなさそうだから、留守番してるよ」


 少しだけ不貞腐れたようにG45が、頬を膨らませたが、「いってらっしゃい」と手を振るP03に、ふたりは手を振って、森の中へ入っていった。

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