02
P03は、何も言わず、ベッドに顔を俯かせていた。
意識を向こうに飛ばしているのだろうか。
それとも、自分のことを気にしているのだろうか。
こんな時、P03の能力があれば、簡単にわかるのだが、無いものは仕方ない。
「P。起きてる?」
「……」
問いかければ、こくりと頷かれる。
「情けないとこ見せて悪いな」
髪が左右に揺れる。
「アイツらは? あのままほっといたら、ひどい喧嘩しそうだっただろ。落ち着いたか?」
狩猟の時もだが、彼らはそれなりに連携が取れていた。
今回も、連携が取れていたといえば取れていたが、悪い点といえば、お互いが信頼し過ぎている点だ。
『きっとあいつなら大丈夫』という確証のない信頼で、無茶をする。
大抵の場合、うまくいってしまうことが多く、結果的に相手を怒らせる。
T19がいい例だ。
宥めるのをP03に任せる前提で、電波塔を破壊していた。
結果が、掴み合いの喧嘩だ。
「…………今は、喧嘩してない」
「そりゃよかった」
「みんなこっちに戻ってきてる。だから、マキノは気にしなくていい」
「そっか」
ようやく少しだけ顔を上げて、こちらに目をやるP03を見ていると、徐々に思考に霞が掛かってきて、慌てて目を覚ますように意識を強く持つ。
P03は、心が読めるわけではない。
ただ感情の色や揺らめきが見えるだけ。そしてそれを少し変えることができる。
つまり、牧野がP03が自分のことで落ち込んでいるのか、他のヴェノリュシオンたちの元へ意識を飛ばしているのか探ろうとして、P03へ気遣っているのを勘違いすることだってある。
「P」
牧野は、P03の脇へ手を通すと、自分の体の上に置いた。
「少し、話をしないか?」
「してるよ?」
「そうなんだが、なんていうかな……Pは、感情がわかるから、俺より数段先の会話をしてるんだ。そうなると、理解が追い付けないんだ。だから、少しだけ言葉で伝えてほしい」
「…………」
不満そうに見下ろすP03は、じっと牧野を見下ろしながら呟いた。
「マキノだって、何も言わないくせに」
「俺は……そうだな。お互い様だ」
任務の関係上、隠していることは多い。
自分たちだって、隠し事ばかりをしている人間を信用できるかと言われれば、答えはノーだ。つまり、それを相手にばかり、望んではいけない。
「じゃあ、俺から言うよ。俺が倒れたのを、Pが自分のせいじゃないかって思ってるんじゃないかと心配したんだ。自意識過剰みたいでかっこわるいだろ?」
「でも、私のせいだし」
「そこは、まぁ、Pの能力に俺が耐えられないってことに気が付かないで、連れて行ってもらったのも悪いしな。でも、知れたことは大きい」
次回以降は、連れて行ってほしいとは言えないことが理解できた。
これが一番の収穫だ。
「前の時はなんともなかったのにな」
以前の時は、そもそも死にかけていたからだろうか。
「あの時は、周りにみんながいなかったから」
そう言いながら、P03は牧野の隣へ体を倒していく。
「本当は、私もみんなの感覚共有し過ぎると、疲れるの。内緒だよ」
その言葉は少し意外だった。
ヴェノリュシオンたちは、どこか全員繋がっているように感じていたから。
しかし、P03が瞼を重そうにしている様子は、嘘をついているようには見えない。
いくら、大脳を改良しているとはいえ、五感全てが鋭敏であり続けるのは、負担が大きいということか。
このことを伝えたなら、橋口たち研究部隊は喜んで調べてくれるだろう。
新たな人類を作り出すための基礎研究のデータに実際のサンプルなど、簡単には手に入らないだろうし、この先、人類が生き残るための貴重なデータになりえる。
「じゃあ、お互い秘密だな」
「お互い?」
「俺が倒れたのも、アイツらに内緒にしといてくれ。ほら、T19とO12は絶対からかってくるだろ?」
「…………言っちゃった」
とても小さく呟かれた言葉に、牧野は少しだけ顔を天井に向けた。
「からかってきたら止めるね」
「頼む」
報告は点滴が終わった後でいいだろう。
むしろ、他のヴェノリュシオンたちが戻ってからの方がいいだろうか。
そもそも、破壊されたヴェノリュシオンたちの代わりの部屋をどこにするべきか。この部屋は、いくら何でも狭い。
暴れられたら、今度は自分たちで部屋を破壊してしまうことになる。
今は杉原が配慮してくれているとは思うが、処置室から中尉が出てくる前に片付けないことが多い。
いっそT19の姿をチラつかせて、処置室から出てこられないようにするか。
「…………」
点滴はずいぶんゆっくり落とすように設定しているらしい。
「はぁ~~……」
やらないことが多くて、嫌になる。
静かな隣へ目をやると、すっかり眠ってしまっているらしいP03。
その頭をそっと撫でると、牧野も少し眠るかと目を閉じたのだった。
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