第7話


 翌日の放課後。


 俺は校門近くの駐輪場に身を潜め、出ていく学生を監視しながら配信を開始する。


 <お、きた

 <ここどこだ?

 <駐輪場?

 <学校のじゃね?

 <おい氷華ちゃんはどうなった?


 俺は小声で話す。


「こんにちは。ただいま、氷華ちゃんを待ち伏せている最中です」


 <え、待ち伏せ?

 <ナンパ退治に行くんじゃないの?


「そうです。退治へ行くにしても場所がわからないので、後ろからつけることにしました」


 <wwww

 <まごうことなきストーカーで草

 <おまわりさん、この人です!


「仕方ないじゃないですか。場所わからないんだし」


 <そうだぞ、仕方ないぞ。こいつはただ彼女を守りたいだけなんだ。勝手にボディガードやって何が悪い

 <コメ欄にヤバイやついて草

 <どうしようもないな!


「まあ、何もなかったらすぐ撤退するので、大目に見てください」


 <通報は待ってやる

 <まあ襲われるのは確定してるしな

 <世界の神ですらお前を止める権利はないぞ

 <あ、後ろ


 後ろ? なんだろうか、と振り向く。


「あ、なっちゃん」


 自転車をバックさせているなっちゃんがそこにいた。


 うわあ、見るからに、声かけられて嫌そうな顔してる。


 <おい、なっちゃんと話せ

 <なっちゃんで間を埋めろ

 <なっちゃんに嫌われてて草


「何?」


 <怪訝な顔してて草

 <なっちゃん、ヘルメットかぶるんだ。可愛い

 <とりあえず、口説け

 <いいね、口説いてよ

 <とりま口説いとこう


 いや、口説くとか無理だろ。


 まあでも、やるだけやってみるか。


「あー、ヘルメット似合ってるね」


「急に怖」


「まるで、王女のティアラみたい」


「ヘルメットをティアラに例えられて嬉しい人いるの?」


 <ひどすぎて草

 <こいつ、ラブコメ知らない以前にダメなんじゃね?

 <仕方ないな、ひと肌脱ごう。俺のコメを読み上げろ


「もう帰っていい?」


「待って。今から読むから」


「は? 読む?」


 <おい、なっちゃん。過去の恋に囚われるな。人間誰しも失恋くらいある。大切なのは過去に目を向けて、目の前が疎かになることだ。顔を上げて前を見ろ、そう。俺がいる。


「おい、なっちゃん。過去の恋に囚われるな。人間誰しも失恋くらいある。大切なのは過去に目を向けて、目の前が疎かになることだ。顔を上げて前を見ろ、そう。俺がいる……っていうのはなし」


「あ、良かった。なしで、心底良かった。さぶいぼ立ってたわ」


 <おいそこは貫けよ

 <冷めることすんなよな!

 <キモすぎてわろける

 <恥ずかしくて草


 コメ欄は非難轟々だけれど、あのまま言い切ってたら、俺は噂を広められて死んでたかもしれない。


「で、本当のところは何?」


 <もう俺らは知らん

 <勝手にやれ

 <頑張って


 リスナーがヘソを曲げちゃったので、仕方なく適当な言葉を並べる。


「あー、その。昨日はさ、あんなことがあったけどさ、誰にも言うつもりもないから」


「あ、うん。それはありがと」


「だからさ、もし辛かったら、俺知っちゃてるし、愚痴の吐き出し口にはなれるから、抱えきれなくなったら声かけてよ」


「……花ノ木くん。ありがとう、実は結構辛かったんだ」


「そうだったんだ」


「うん。ごめんね、ヤバイやつとか言って。花ノ木くん、良い人だったんだね!」


 <おっ、いい雰囲気

 <まじか、好感度あがったぞ

 <て、何だこの美人!?

 <おい、あれが氷華ちゃんじゃないか!?

 <絶対そうだ! 追え追え!


 騒がしいコメ欄に振り返ると、校門には目的のヒロイン、氷華ちゃんがいた。


「花ノ木くん、じゃあ早速、愚痴を……」


「ああ、ごめん! 行かなきゃ!」


「え、どこに?」


「わからない! とりあえず、尾行しないといけないんだ!」


「ええ……やっぱヤバ」


 俺はなっちゃんを置いて、氷華ちゃんの尾行に入った。

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