第6話


 配信を開始すると、すぐに視聴者が100人を越えた。


「あーどうも、こんにちは」


 <きた

 <待ってた

 <あれからどうなった?


「いや、今日は特に何もなかったです」


 <なっちゃんは生きてる?


「なっちゃん、目は死んでたけど、元気ですよ」


 <草

 <元気で何より

 <それで、この配信は何配信なの?


「ああ。実は、次のヒロイン候補を見つけたので、皆さんにアドバイスをもらう配信です」


 <任せろ! 今度こそラブコメさせてやる!

 <嘘つかないから安心しろ^^

 <で、一体、どんな子なんだ?


「え〜、可愛い子知らないって聞いて、なっちゃんが言うには……」


 <なっちゃんに聞いたのかよw

 <なっちゃん、よく答えてくれたなw

 <間違えてプロポーズした人に、可愛い子知らないって聞かれたらどんな気分になるんだろ?

 <本当に答えてくれたのか


「あぁうん、この人ヤバって言ってきたけど、ちゃんと答えてくれたよ


 <なっちゃん、優しくて草

 <はよ、どんな子か教えろ


「うん。じゃあ話すね」


 俺は、なっちゃんに教えてもらったことを思い出しながら話す。


「その人の名前は凍野氷華(とうのひょうか)」


 <はい。氷姫か氷の令嬢って呼ばれてます

 <はい。冷たい態度で男を何人も振ってます

 <はい。孤高を気取ってるぼっちです


「え……何でわかったの? 俺、まだ名前しか言ってないんだけど……」


 <あたりで草

 <名前からバレバレなんだわ

 <テンプレすぎて草

 <もう勝ったわ。余裕すぎ


「勝ったわ……ってどういうこと?」


 <そりゃもう落ちるパターンなんて一個しかないしな

 <そうそ、もう飽き飽きするくらいのワンパターン

 <よかったな、氷華ちゃんはチョロいぞ


 どうやら楽勝ムードみたい。今回はちゃんとラブコメできそう。配信的には困るが、こういうのは本気でやらないと冷めてしまう。


 ラブコメ出来たら出来たで、そのとき、と考えよう。


「そうなんだ。なら、どうやれば俺は氷華ちゃんとラブコメできる?」


 <ナンパから助けろ

 <ナンパから守れ

 <ナンパから救い出す一択


「は? ナンパ? いや、それくらい、助けるまでもなく大丈夫でしょ」


 <おい、そういうこと言うなよ

 <これだから、ラブコメ知らない奴は


「ええ……。というか、惚れられるのわかった上で、ナンパから助けるってさ、実質ナンパじゃん。ナンパと一緒じゃない?」


 <おい! 馬鹿!

 <やめろ! やめろ!


「ってか、惚れられたいがために助けるってさ、人の善意を冒涜してない? それにナンパから助けてもらった程度で惚れるわけがなくないか? 普通に話してて楽しいとかの方がまだ惚れる理由になりそう……やめて! 低評価入れないで!」


 や、やばい。低評価がぐんぐん伸びていく。登録解除も増えていく。


 <ラブコメの定番に、俺らの妄想に、ケチをつけるなんて無粋も無粋

 <そういう奴は、もはや今生に救いはないので、死を持って償え。

 <失望しました

 <おうちどこぉ? 

 <殺し屋に依頼するためにクラファン立ち上げました


 殺意高めなので、冷や汗かいて笑う。


「な〜んて、冗談だよぉ〜。あはは〜」


 <こっちも冗談だよぉ〜

 <プロレス楽しかったね^^

 <あくまでプロレス……だからね?


 俺は危ないことは二度と言わないことを心に決め、話を戻す。


「あぁ、まあ、惚れられる方法はわかったよ。でもさ、そんな都合よくナンパされるかなぁ」


 <大丈夫だ、100%だ

 <電車で痴漢のパターンもある

 <じゃあ98%

 <いやナンパされるから確実に


「確実なんだ、じゃあ場所は?」


 <え……

 <場所?

 <あ


「いや、場所がわからないんじゃ、助けに行きようがなくない?」


 <ああいうのってどこで襲われてんだ?

 <読んできたけど、描写薄すぎてわからなかったわ

 <多分、人気のない場所だろ?


「ひとけのない場所にナンパっている? 普通、人通りの多い場所でやるんじゃない?」


 <たしかに

 <それはそう


「それに人通りの多い場所で、助けが必要なくらいのナンパってされないんじゃない?」


 <……うっせえ!

 <されるんだよ!

 <とにかく、人気のない場所でされんだよ!

 <こっちはナンパから助けて惚れられてえんだ! 細えこと気にすんな!


 ええ……とは思ったけれど、怖いのでまあそういうことにしておく。


「わかった。じゃあ氷華ちゃんが人気のないところに入って、ナンパが現れたら助けに入る。これでいい?」


 <うん!

 <それでいいんだ!

 <よし、これでラブコメ出来るな


 どうやら、それでいいみたいなので、実行することに決める。


「いいみたい。なら、明日決行するから、今日は配信ここできるね。ナンパ対策に防犯セット買いに行かないといけないし。じゃあチャンネル登録よろしく」


 <え……

 <素手で戦わないの?


「そらそうでしょ。言葉で引いてくれなかったら、俺格闘技とかやってないし、ボコされるだけじゃん。じゃあね」


 と配信を切って、俺はリサイクルショップに向かった。




 ————その日の夜。


 氷姫マニアの動画リンク付きのツイート。


『ナンパに完全装備決めて戦いに行くやつを生み出してしまった』


 その投稿のリツイートは500を超えた。

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