外領域3
リムチャンピオン杯。
モンスターの襲撃が少ない時期に行われる、模擬弾を使ったガランドウの決闘大会は、外領域における数少ない大規模な娯楽だ。そのため外領域限定とはいえ大々的にテレビで放送されるし、地位や名誉、賞金を目当てに多くのパイロットが押し寄せる。
幸いなことにリムの街は軍事的な理由で発展したため、軍の宿舎として使われていた施設が多く大人数を収容できるし、大規模な軍事演習場もあったので開催での混乱は起こらない。筈であった。
(どこの最前線から帰ってきた奴だよ。頭がやられて最前線連中は出場できないって暗黙の了解まで忘れちまったのか?)
チャンピオン杯に出場する選手の極一部が、街中で見かけた明らかな死神であるジャックに対し悪態を吐いていた。
というのもリムチャンピオン杯は、外領域で俗に言われる1.5軍のプロまでしか出場できないという暗黙の了解が存在しており、最前線で活躍しているスーパースターは出場を辞退していた。それなのにジャックがリムチャンピオン杯の開催まで間もないタイミングでやって来たものだから、彼を見た一部の出場パイロットがピリついていたのだ。
そして今日は組み合わせが発表される日。一対一の決闘で貧乏くじを引くのは誰か分かる日でもある。
が。
(知らない名前……なくね?)
(ないじゃん……)
(知ってる名前しかないぞ?)
(休みで見に来ただけかよ!)
(驚かすな馬鹿!)
出場パイロットの全員が、知っているベテランパイロットの名前しかいない組み合わせを見て、ジャックが出場者でないことを知った。
そもそもジャックに出るつもりがあっても、盛り上がって出場パイロットが集結している時期なのだから、とっくにエントリーの期間は終了しており出場できなかったが。
ただし興味はかなり持っていた。
「外領域のガランドウ、兵装、パイロットの腕前、戦術。これをタダで教えてくれるんだから見ない手はない」
買い物を終えて元シューティングスター、現ビーハイブに戻ったジャックは綺羅星のそう力説した。彼は実に兵士らしく、自分の戦闘機動を見られるのは嫌だが、現地の戦力を見せてくれるなら喜んで見るの精神を宿していた。
そしてジャックが興味を持っているなら、自らもそれに対し興味を持つのが綺羅星達であるが……妙なことになっていた。
「なにこのガランドウ!? 見て見てミラ!」
「え? な、なんですかこの正面装甲しか考えてない機体……」
「すっごいよね! 前は壁みたいなのに後ろはスカスカ!」
キャロルがじゃれるように、椅子へ座っているミラの後ろから抱き着くと、手元の端末を見せて驚きを共有した。
その端末にはリムチャンピオン杯に出場する選手と機体の特集が映し出されていたが、はっきり言って馬鹿げていた。正面は非常に重装甲なのに、裏は配線とスラスターが剥き出しであり、装甲の“そ”の字もないのだ。幾ら歪んだ常識を持っているキャロルとミラでも、その機体が変なのは分かる。
「なんと言ったか……そう、加工されているコラ画像というやつか?」
「ああ、なるほど。確かに加工されている画像ですね」
モノクル越しに目を細めているヴァレリーと頷くアリシアの端末には、角ばった上半身と丸みを帯びた下半身がドッキングしたかのような、明らかに規格がちぐはぐな機体が映っている。
実はこれ、二人が加工されている映像だと判断するのも当然だが、なんと実際に違う規格を無理矢理合わせた機体だった。
「ひょっとして外領域の機体って独自改造しまくりで、妙なのしかいない感じ?」
「あり得ますね」
ベッドの端に座るジャックの膝に乗るへレナ、彼の後ろから抱き着いているケイティの端末には、通常では考えられない虫のような四脚を持つガランドウが映っていた。
「噂には聞いていたが実際見るとヤバいな……」
ヘレナとケイティに包まれているジャックは、彼女達の持つ端末を覗きながら外領域の機体に頭を痛めていた。彼は噂程度で外領域の機体は独自改良が蔓延っていると小耳に挟んだことがあるが、実際に端末で見る機体のどれもが訳の分からないものばかりであり、軍人としての常識にひびが入りつつあった。
「態々神器搭載機は出ないとの注釈がありますね」
「殺傷力が高すぎるからな。ステルスミラーの鏡片だって手加減できるようなものじゃないだろ?」
「まあそうですね」
ジト目の割にはジャックに甘い吐息を吹き込むケイティが、彼の言葉に同意した。
外領域の極一部の人間は、綺羅星のように専用調整された人工物ではなく、天然物として神器を起動できることが有名である。
しかし、なんでも溶かしてしまうサプライズの火力や、貫通力のありすぎるステルスミラーの鏡片など、神器搭載機は手加減とは程遠い存在であり、もし出場すれば興行の大会なのに死者が続出するだろう。それ故に神器搭載機の出場が禁じられていた。
「機体のことは一旦置いておこう。とりあえず大会を観戦するくらいの余裕はあるから、それまで少し羽を伸ばすとしよう」
『カメラで確認しなくても分かるわ。周りを見て見なさいな』
『あーあ』
ジャックが大会までゆっくりすることを言々すると、フラーとエイプリーが呆れたような声を漏らす。
なにせ綺羅星全員の目がギラリと光っていたのだから。
April Fool・巨大幻想世界~敗戦の責任を取らされて生贄に選ばれましたが、付き合ってられないので部下の強化人間達と逃げ出します。え? ヤンデレ?~ 福朗 @fukuiti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。April Fool・巨大幻想世界~敗戦の責任を取らされて生贄に選ばれましたが、付き合ってられないので部下の強化人間達と逃げ出します。え? ヤンデレ?~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます