3.前にはアレ、後ろにはコレ

「うおおおおおおお!! やべえ、こっち向いて睨んでんぞ、アイツ!!」

「もう、ザクトール!! とっとと逃げるわよっ!!」


 ああ。理性を失ったミィアンが、機械虫を薙ぎ払って。こっちを睨みつけて迫ってくる。その様子を見て唖然としている俺の頭を、マキアンがひっぱたいて。

 そのタイミングで、俺達は機械神殿の奥に向かって逃走した。


「おっかけてくる! マキアン! アイツ追っかけてくるよ!!」

「うるさい、ザクトール! もう私たち、匂いを覚えられているのよっ!!」

「どうすんだよ!! 何か敵味方が判別できていないみたいだし!! 俺達食われちまうのか⁈」


 ノシノシと音がするわけじゃない。ミィアンの体は小さい。だが、纏っているオーラの重厚さと、動き方の重厚さが半端じゃない。なにか、そのような音をさせるような動きで、ゆっくりと歩いてこっちに寄ってくるミィアン。


「お、もっと奥に逃げるんだな⁈ よし、逃げよう! でもよ、逃げてどうすんだ? ここ、出入口一つだぜ?」

「頭を使いなさい、ザクトール!! 機械神殿の奥には何がいるの⁈」

「……今回のクエストのターゲットの、マシンギガント。っ……⁈ ってお前マキアン? えげつないこと考えるな⁈」

「しょうがないでしょ? マシンギガントのランクはAAAランク! 如何にあのミィアンちゃんが、ファイヴスホーンオーガの血を持っていても、彼女はまだ子供!! 戦ったらマシンギガントに敗れるか、もしくは相打ちか! 多分それで正気取り戻すから! そうなったところで、私が神聖術で治癒かける!! とにかく、今のままだと私たちがやられるわよ!!」

「よ、よし!! そのアイデア採用―――――っ!! 走るぞ、マキアン!!」

「マシンギガントが出る、機械王の間まで、GO―――――――――っ!!」


 俺とマキアンは、息を切らしてひたすらダッシュをし続ける。きっつ!!


   * * *


「うげっ!! なんてこったよ!!」


 俺は、機械神殿の中央、機械王の間まで辿り着いて。

 終わったと思った。

 機械神殿ってのは、旧世紀の遺物がまだ生きている、厄介な神殿で。

 ここから出てくる機械兵器共の生産能力は、定期的に機械設備をぶち壊さないと落ちることはない。壊したとしても、マシンリザレクションというオートルーチンシステムで、時間が経てば勝手に修復される。

 それで、だが。

 ギルド兼酒場に貼ってあった貼り紙の、今回のクエストでの依頼のマシンギガントの退治の詳細には。


『マシンギガントが1体生産される頃合いだ』


 と書かれていたんだが。

 何と言う事か、マシンギガントが2体。

 何の不思議もないかのような様子で立っていやがる。


 後ろからは、あのファイブスホーンオーガと人間のハーフ、ミィアンが狂暴化して迫ってくるし。前には、マシンギガントが二体。

 完璧終わった。

 俺の魔導の腕は自分でもほれぼれするほど確かな物だが、魔導魔法一切無効の機械野郎に歯向かう力にはならない。

 相棒のマキアンを見ても。


「ふん! つまんないところで終わっちゃうのね、私ってば!! こんなオチ、アリかしら!!」


 っていって、恐怖を感じないでキレているように見えるが。

 マキアンの恐怖感情は、こういう形で出ると言う事を俺は知っている。


「マキアン、こんなことなら一回くらい。俺と寝ておけば良かったな?」


 俺は、ほろ苦い口調でそう言った。


「ザクトール。私とアンタはね? そう言う仲じゃないから、快いの。わかっているのかしら全く!!」


 そう、この色気女。全くもって、俺に身を許さない。もう相当に長い付き合いなんだがな。


「それより、考えなさいよ!! どうやって切り抜けるのよ、今!!」

「俺は諦めた」

「がー!! このヘタレ無能!! アンタそんな風に男らしくないから! 私はアンタをそう言う風に見れないのよ!!」

「……そんなこと言ったってよ……。ミィアンとマシンギガントを相打ちさせてっていう、お前のアイデア。マシンギガントの方が、力がありすぎて。ミィアンがやられて、その次に俺達もやられるオチで……む、そうか!!」

「! どうしたの、ザクトール? 名案⁈」

「わからん、だが。やる価値はある!! マキアン、お前。少し体張れ!!」

「? 助かる可能性があるのね⁈」

「ああ、お前、ちょっと通路戻って。ミィアンをここまで誘導してこい!!」

「? どういう?」

「いいから!!」

「わ、わかった!!」


 マキアンは、機械王の間から通路に出て行って、ミィアンの嗅覚エリアに飛び込み、ものの数分後。

 今だ狂暴化したままのミィアンをこの間に引きずり込んできた。

 マシンギガントは、今はまだ動いていない。

 この機械神殿の機械知性は、今はこのマシンギガントに指令を出してはいないようだ。

 だが、ある距離まで接近すると、マシンギガントは自律防衛機能を発動して脅威を排除する。

 それが、一体ならば。

 動き始めても、あのとんでもなく強化されている状態の狂暴化ミィアンと、いい勝負だったんだが。

 二体となればそうはいかない。一体だけを動かしてミィアンを退け、一体には止まっていてもらうという都合の良いようにはならず。

 必ず二体同時に起動する!!


 だが、だから。

 おれは、あるアイデアを実行するために呪文の詠唱に入った!


『腕力強化!!』

『速力強化!!』

『体力強化!!』


 超速度詠唱で、三連強化魔導術をミィアンにかける!!


「あ!! その手があった!!」


 マキアンが驚いた声で言う! そうだ、俺が思いついた、切り抜ける方法は!!

 敵が強いから、それにぶつけるミィアンの正気が無かろうが、強化して退けさせる!!


 そう言う事だ!!

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