夜警

夜警での事件。


あたしは、これを、上手く語れないと思う。あまりにも受け入れ難く、頭が混乱して、物語としては、整った形にできない。


だから、説明が不十分なところもあるかもしれないけど、このようにしか、話せないのだと、了解してほしい。


あたしたちは、夜の8時に、ある広場に集まった。いくつかの班に分かれて、街中を巡回する。レジスタンスが現れなければすんなり終わる、単純なこと。


私は、ローザ・フォン・ハイデンベルクとその取り巻きたちのいる、非常に不愉快な班に組み入れられていた。


場は色めき立っていた。武装で一際目立つ、見知らぬ一団がいたのだ。それを誰かが、「あれは罪人騎士団よ」と言った。髪の毛の長い男と、巻毛の女。そして、その下に連なるらしい数名の男女。


「俺たちが出張る必要があるのか?」


髪の長い男が言う。背中に差した両手剣の柄を癖のように触った。


閣下マイ・ロード、これはあたしたちへの締め付けですよ。何かと枠から外れるあたしたちですから」


そうして、巻毛の女は笑顔を作った。その物々しい装備。左右両腰には2本の長剣と2本のナイフ。背中には、片手でも両手でも使えるように作られたバスタードソードが2本。背が高くもない女は、武器に埋もれているように見える。


「まあ、つまり、つまらん仕事を割り振られただけだろうよ」


そして、大声で笑った。その豪快さに長髪が逆立つようなイメージを、持ってしまう。


「俺たちは学生の指導だとさ。不良に任せていいもんかね?」


不敵に口角を釣り上げた長髪の男は、部下に指示を出した。


「あなたたちのリーダーをすることになる、『教授プロファソーア』です。部隊ではこれで通ってるから名は名乗りません」


あたしたちの前に現れたのは、長めの髪の毛にパーマをかけた、女の戦士だった。腰には突くことに特化した剣、レイピアを下げている。年齢はあたしたちとそう変わらないように見えた。この人も犯罪者なのか。


「こんな即席の集まり。……敵が出てきたのなら、あたしたち『罪人騎士団』を頼って」


教授プロファソーアは、にこりともしない。あたしたちの剣技に期待するなどとのお世辞もなかった。


そしてあたしたちはそれぞれ、街道を歩き、見回る。


電燈の下の街は、静かなものだった。ローザは、太鼓持ちたちとベラベラと喋っていた。それで安心してたけど、急にこちらを向く。


「エリカなんてのに与してると、泣きを見るわよ」


なんて、直球な悪口。あたしは、黙って、教授プロファソーアの後ろを歩く。


その態度に、顔を歪めるローザ。彼女の顔は、憤激のあまり、真っ赤になっている。思い通りにならないことに耐えられない、そんな未熟さ。


「聞いてるの!」


あたしの肩をローザが掴んだ時、「レジスタンス!」と前方から声が聞こえた。


先行してるのは、エリカの班だ。


あたしは、駆け出した。教授プロファソーアが鋭く何が叫んで、あたしの前に出る。ローザたちも後ろから走ってきている。


そこには、あの、ハンスと呼ばれていた男がいて、生徒たちに囲まれている。エリカが間に立って、何か言っている。


「武器も持っていない人を斬るなんて、騎士としてふさわしくないわ!」


エリカは、ハンスを守ろうとしている。ローザが大声で言った。


「レジスタンスの肩を持つの? 総統に弓引く発言だわ!」


彼女は、エリカを威圧するかのように、顎を高々と上げて、彼女の前に立った。取り巻きたちがエリカを囲んだ。


「騎士として? あたしが、ヴァルキュリアの騎士として裁定を下す! 私刑よ!」


ローザの目はらんらんと狂気に輝いていた。あたしは、いきなり始まった舞台の上に立てないまま、まるで夢の中のように、劇は、勝手に急速に進んでいく。


常にエリカから差をつけられていたローザは、復讐の機会に、飛びついたのだ。


彼女の、エリカを見る、演出のようにさえ見えるあからさますぎるほどに相手を見下した視線が、左右に走った。


それが指示だったのか、取り巻きたちが、エリカを抑える。彼女は身をよじるが、相手の数が多かった。


そして、ローザは焦るように素早く剣を抜き、エリカの、華奢な右腕を、肩口から、斬った。

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