別の顔

その少女をどこかで見たと思った。


大きなレンズのメガネをかけている。髪の毛を後ろで2つの三つ編みにしている。白いレザーのような質感のハンチング帽を被り、若緑のカーディガンを着て、だぼっとしたパンツは山吹色。


追われていた。


夜だった。あたしは、眠れずに孤児院を抜け出して散歩をしていたのだ。


「待て!」


鋭い男の人の声が聞こえた。


少女との距離はかなり近い。もう捕まる。その時、さっと振り返った少女は、両足を少し開いて石畳の道をしっかりと踏んだ。


剣を、抜いた。男も、剣を鞘から引き出した。あたしは、慌てて、2人の間に入り、男の方を向いた。


これは、暴漢か? そんなふうに思い、あたしも剣を、構えたのだ。


「大丈夫よ」


少女はそう言うと、あたしの前に出る。その声は、聞き覚えのある声だ。


わずか、数回の剣戟の交差。男は胸を刺されてその場に倒れた。


「もしかして、エリカ……?」


こちらを振り向いて、メガネのレンズ越しに、彼女はバツが悪そうに笑った。


「あ……」


あたしは、男を見る。確実に絶命していた。その視線に気づいた彼女は、儚い目を一瞬したが、すぐにそこに強い光が宿った。


「シスナ。わたしは、やらなければならないことを見つけたの」


言い訳みたいなことを、彼女は口にしなかった。


「いつからなの?」


あたしは、ただ、突っ立って、困惑した目を向けるだけ。


何を言っていいかわからなかった。


街灯が、ふっと消えてまた灯った。何度かそのように瞬いて、急に強く光った。


「あの日、フーベルトゥスを埋葬してから、次の日かな」


なら、もう、1週間前ほどだ。


「いま、あるレジスタンスの連絡係をしてるの。色々、言えないけど……。あ、急いでるんだ。明日、学校でね」


そうして、彼女は走り出した。


小さくなっていく足音に、あたしは遠い目を送っていた。

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