KAC「賀来家の日常」6.祖母の華

凛々サイ

祖母の華

「うわー! 7匹も生まれたよ!」 


 まだ私が幼かった頃、飼っていた犬から7匹の子犬が産まれた。出産を目の当たりにし、小さな命の誕生に私は目を輝かせた。まるでぬいぐるみのように丸っこくてころんとした小さな生き物達はとてつもなく可愛かった。だけど数日後、突然全ていなくなってしまった。母いわく、飼いたいと言う人達にそれぞれ引き取ってもらったという。子供ながらに7匹の犬達全てをこの家で飼うことは不可能だと感じていた。だから私はとても安堵した。あんなに可愛い子犬達を大切に育ててくれる人が近くにいるのだと。


 だけど私は大人になって気が付いてしまった。


 想像とは違う場所へ連れて行かれたのだと。


 あの7匹の子犬達にとって、それはとてつもなく無念な最期だったはずだ。だけど私の家族がとった行動は責められるものでもなかった。仕方のなかったことだと分かっていた。我が家は7匹全てを飼う経済力も時間もなかったのだから。だけどもし私があんなに子供じゃなくて、もっと大きな大人で、その真実を当時知っていれば、自分自身が必死になって、飼い主を一匹ずつ見つけ出すことが出来たかもしれない。自らの手で新たな飼い主へ子犬を引き渡すことも出来たのかもしれない。悔しかった。だけどもう、あの7匹の可愛い子犬達は帰ってこない。二度と。どうしようもないと分かっていても涙が溢れた。大きな大人時代を過ぎ去り、腰が曲がって少し小さな人間に戻った今でも、それを時々思い出しては、罪悪感に苛まれた。


 だからあの日、この子に出会った時、もしかしたら私は救いを求めたのかもしれない。


「この子、7番目に生まれた末っ子なんです。足に少し障害があって、引き取り手もまだいなくて……」


 保健所の女性が少し低めな声で言った。


 あの日から今日も縁側に一人と一匹。

 お日様の暖かな抱擁に優しく包まれている。


「ラッキー、今日もいい日だね」


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