第39話 待つ身も辛い

 カクヨムコンの期間が終了してから中間選考の結果発表までは一ヶ月以上。例年発表は三月十六日だから、その間は何も情報がないまま待つことになる。期間は終了したものの自分の作品を読んでくれる読者はいて、期間中ほどではないもののPVが増えた。中には星やフォローをくれる読者もいて……できれば期間中に欲しかった、なんて思うのは贅沢かな。


 カクヨムコン8の実績から考えれば、最終的な自作の星、及びフォロー数で選考は通る可能性が大きいんだけど、やっぱり結果を見なければ安心できない。とは言え何かできるわけでもなく、期間中とはまた違った不安な気持ちに苛まれながら日々を過ごした。期末が近いこともあって仕事が忙しかったのは不幸中の幸いかな? 仕事をしている間は小説のことを気にせずに済むからね。


 もう一つ不安……と言うか気になっていることがある。それは詩織さんのこと。詩織さんは元々カクヨムコン9を楽しむために下界にきて僕の部屋に転がり込んだわけだけど、カクヨムコンの期間が終わったら帰ってしまうのだろうか。直接彼女に聞けばいいんだろうけど、怖くて聞けなかった。数週間詩織さんに会わなかっただけで死ぬほど寂しかったのに、帰ってしまうとなると……耐えられる自信がない。それぐらい『家に帰ると詩織さんがいる』生活が当たり前になってしまった。


 相手はかなり格の高い神様だけど、現状恋人同士の様な状態……そう思っているのは僕の方だけかも知れないけれど。そもそも詩織さんは僕のことをどう思っているのだろうか。神様と人の考え方は違うから、僕が予想もしていない様な捉え方なのかもしれない。このままの状態が続くのなら黙っていればいいのかな? それとも、ちゃんと詩織さんと話した方が気持ち的にもスッキリするのか? うーむ、これは非常に悩ましい問題だなあ。


 会社の休憩室で缶コーヒーを買って、そんなことを考えながらボケーっとしているとバシッと背中を叩かれた。


「イテッ!」

「また悩み事? 遠藤くんはすぐ顔に出るから分かりやすいわね」

「課長!?」


 僕の隣に座って足を組むと、ブラックの缶コーヒーのプルタブを開ける課長。一口飲んで、ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。


「カクヨムコン9が終わって、急にやることがなくなったから放心してたのかしら?」

「ま、まあそれもありますけど……期間中は考えてなかった周囲のことも色々気になりだしたと言うか……」

「周囲のこと? ああ!」


 今、僕の心を読みましたか!? いや、読むまでもなく僕の悩んでそうなことぐらい、課長ならすぐ分かっちゃうか。


「よし、私が相談に乗ってあげるから、今夜飲みに行くわよ!」

「え!? あ、はい!」


 課長の勢いに押されてつい返事をしてしまったけど、相談せざるを得ない状態になってしまった。仕方ないので詩織さんには遅くなる旨を連絡して、課長と飲みにいくことに。


 定時後にいつもの居酒屋へ。個室だから相談には持って来いだけど前回もここだったから、ちょっと尋問を受けてる様な気分にもなる。課長も神様だから相談できるのは有り難いことなんだろうけど、こういう時の課長は妙に楽しそうなんだよね。課長ってひょっとして恋愛の神様だったり!?


「それで? 遠藤くんは詩織と今後どうなりたいわけ?」


 最初のビールジョッキを一気に飲み干して、いきなり核心を突いてくる課長。


「そ、そうですね……今の状態がずっと続くといいとは思います」

「それだけ?」

「うーんと、詩織さんがいつ帰っちゃうかも分からないし、僕のことをどう思ってるのかもイマイチ分からないし……」

「もう、煮え切らないわねえ。あなたたち、ヤッたんでしょう?」

「ブッ!」


 いや、そういう関係ですけど、ストレートにそんなこと聞かれると恥ずかしいじゃないですか! ちょっとビールをこぼしてしまって、慌てておしぼりでテーブルを拭く。


「詩織ほどの神と関係を持って、逃げられると思ってるの、遠藤くん?」

「そ、それはどう言う……」

「よく考えてみなさい、相手は人間の少女じゃないのよ。詩織があなたに自分の『匂い』を付けてるのはなぜだと思う?」


 最近は会社の人も何も言わなくなったので気にしてなかったけど、もうずっと『祟られている』状態らしい。でもそれって、詩織さんお得意の『面倒くさい』から、もう力を抑えなくなっただけなのでは……


「つまり、僕が詩織さんのお気に入りってことですか?」

「フフフ、そんな生やさしいモノじゃないわよ。お金の管理もしてくれるし、料理はしてくれるし、神として敬遠するわけでもないし……遠藤くんの部屋は自分の社以上に居心地がいいのよ、きっと」

「まるで使用人の様な……」

「神にとって人との関係は人間同士のそれとはちょっと違うけど、人の言葉で表すなら『好き』になるわね。だからあいつのことでそんなに心配しなくても大丈夫よ。遠藤くんがちゃんとケジメを付けたいなら、そう伝えればいいわ」


 ケジメ……それはつまり結婚ってことですか!? 以前神様との結婚の話を聞いていたから、詩織さんとの結婚を考えなかったわけじゃない。でも格の高い神様だし、周りの先輩方の反応を見てると詩織さんと結婚なんて畏れ多くてあり得ないとも思ってたんだよね。


「言いにくいなら、私から言ってあげようか?」

「だ、大丈夫です!」


 またニヤニヤしながら課長が言うので、慌てて否定した。そんなことまで課長にお世話になったら課長からも詩織さんからも呆れられてしまいそうだから。でも、いきなり言うのはちょっとなあ……何かきっかけでもあれば……きっかけ、きっかけ……そうだ! よし、決めた!

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