第37話 初詣

 年末は仕事も忙しくなるけど小説の続きも書かなければならず、且つ順位を気にしながら読む『活動』も……と、多忙な日々を過ごす内、あっと言う間に大晦日を迎えていた。クリスマスイブに課長も呼んで三人でパーティーをしたのは多少遅延要素となったけど、小説はなんとか最後まで書き終えることができた。推敲はまだまだ必要なものの、目標としていた『年内に二作目を書き上げる』ことは達成!


 『活動』の成果なのか、SNSでも地道に宣伝していたからか、一日のPV数は徐々にアップしていて、星やフォローも予想以上に貰えている。コンテストじゃない平常時では考えられないことだけど、それだけ多くの人がカクヨムコンに参加しているってことなんだろうな。順位は『現代ファンタジー』ジャンルで三十~五十位ぐらいをウロウロしている。有り難いことにカクヨムに投稿している人の中に、カクヨムコン参加作品の星やフォローの累計を毎日アップしてくれている人がいて、その人のデータも毎日確認する様になった。累計で見ると少し順位が上だけど、安心できるほどじゃないんだよなー。


「このペースで行けば、中間選考も大丈夫じゃろ」

「そうですかねえ。でも、一月からまた新規に投稿してくる人もいるって話だし、安心できないなあ」

「聖也は心配性じゃのう。ならばこれからもこのペースで投稿と活動を続けるのじゃ。ほれ、人事を尽くして天命を待つというじゃろう?」

「天命って神様が与えてくれるってことですよね? 詩織さんが何かしてくれると助かるんですが……」

「フォフォフォ、実際、神は何もせんがの。神のみぞ知る、なんて言うが、神が何でも知ってるわけではないぞ」


 またそんなことを神様自身が言っちゃうんだから……いや、しかし、確かに誰かに頼ってどうにかなるものでもないし、来年も地道に続けていかなければ!


 大晦日は年越しそばを食べた後、詩織さんと一緒に紅白を観ながら過ごす。そして日が明けて二〇二四年。一人暮らしの時はお節なんて食べなかったけど、今年は通販で注文して昨日の内に受け取っていた。二人分だから、ちょっと豪華なものを注文してみた。お雑煮も用意しましたよー。


「ん? これはぜんざいか?」


 小豆を煮て甘く味付けしたものに、電子レンジで柔らかくした丸餅を入れたもの……まあ、ぜんざいですね、一般的には。


「ウチの実家の辺りでは『小豆雑煮』と言って、これをお節と一緒に食べるのが一般的なんです」

「ほう、それは面白いのう!」

「じゃあ、改めまして……明けましておめでとうございます!」

「明けましておめでとう、聖也。今年も宜しく頼むぞ。それよりもお節じゃ! 豪華じゃのう!」


 もちろんお酒も用意してありますよ。お正月は熱燗ですかね。お節を頬張りながら幸せそうな詩織さん。彼女のそんな顔を見ていると、こっちも幸せに思えてくる。お節を食べた後にささっと本日分の小説をアップロードして、二人で初詣に出かけることに。神様は初詣に行く必要はないかと思うんだけど……目当てはやっぱり出店らしい。


 初詣はいつもお花見宴会の会場横にある神社に行っているので、今年もそこへ行くことに。いつもの洋服で行くのかと思いきや、今日は晴れ着の詩織さん。


「着物ですか!?」

「どうじゃ、似合っておるか?」

「とてもキレイです!」


 なんでも雑誌で見て一度着てみたかったらしい。髪もしっかりセットされていて……こういう時、神様のこの技は便利だよな。残念ながら僕は着物なんて持ってないので洋服で。


 神社に着いてみると大勢の人で賑わっていて、詩織さんお目当ての出店も沢山並んでいる。そう言えばここにも神様がおられるはずだけど、詩織さんがこうやって参拝にきて大丈夫なのだろうか……


「安心せい、ここには神はおらん」

「えーっ!? そうなんですか!?」

「正確にはおらぬわけではないがな。ここはお主の会社の管轄ゆえ、神崎の様に常駐しておるわけではないのじゃよ」


 ウチの会社の管轄なの!? 僕以外神様だからそれでいいのかも知れないけど……じゃ、じゃあ願い事とかどうなってるんだろう。


「何人かには聞こえておるじゃろうな。しかし、ほとんどの者が願いだけを言いおるからのう」

「それじゃダメなんですか?」

「顔も知らん者に願いだけ言われてものう……住所と名前を言えば、誰か特定できるので助かるんじゃがな」


 それが本来の参拝方法らしい。神社の息子だけど、ずっと願い事しか言ってなかったな、実家だからそれでも良かったのかも知れないけど。でも会社の人に聞かれているのはちょっと恥ずかしいから、今回も名乗らずに願い事だけにしておこう。もちろん願いは、カクヨムコン9の中間審査突破だ。あれ? 詩織さんも願い事ですか? 神様なんだから神様に祈っても仕方ないのでは……


「詩織さんは何をお願いしたんですか?」

「私か? 美味い酒でも持って訪ねてこいと、七緒に伝えておいたわ」

「ハハハ、そんな電話代わりみたいに」


 冗談だと思ってたけど、その後屋台を回って楽しんだ後に部屋に戻ると、ドアの前で酒瓶を持った課長が!?


「ちょっと! 神社から連絡なんてしてくるんじゃないわよ、びっくりするでしょう!」

「ハハハ、行ったついでじゃ」

「まったく……明けましておめでとう、遠藤くん」

「おめでとうございます、課長。今年も宜しくお願いします」

「こちらこそ。カクヨムコン9もお互い頑張りましょうね。あと一ヶ月だし」

「はい!」


 夕飯の準備の間、詩織さんと課長はお節の残りを肴にお酒を飲み始めていた。今夜は魚介系だしの鍋ですよー。

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