第36話 とにかく気になる

 十二月も半ばになると、各ジャンルの週間ランキング上位は動きが少くなってくる。初日に同時に登録したハズなのに、どうしてそんなに星やフォローが!? ああ、そうか以前詩織さんが言っていた『他のサイトで人気だった人がファンを引き連れて参加してる』ってことなのか。でも、それだけ内容も面白いってことだろう。悔しいから読まなかったけど。


 各ジャンルのランキングで大体二十位以下は入れ替わりや変動が激しい。中には星やフォローの数が僕の作品より全然低いものもあるのに……と思ってると、これは初投稿にシステムが『ゲタ』を履かせてくれているとのこと。つまり、初投稿から一週間ぐらいはこの『ゲタ』によって週間ランキングの上位に位置するので、そこで星などを稼げる様になっているんだとか。なるほどなあ。


 日を追う毎に自分が現在どれぐらいの順位なのか気になり始めて、暇さえあればスマホで状況チェック。週間ランキング直近一週間の順位で毎日深夜0時に更新されるみたいだから、寝る前にチェックしてみたいり……作品の続きを書く時はなんとかランキングのことを忘れて集中していたけれど、それ以外の時間は常に自作の評価が気になって仕方がない。これが課長の言っていた『大変』の意味か!?


 当初順調に増えていた星やフォローも、なかなか付かなくなってきた。これは『活動』を疎かにしているからに他ならず、作品の続きを書いている現状ではどうしても読む量が減ってしまう。それでもなんとか少しずつ『活動』をこなして、コンスタントとはいかないまでも星やフォローは増えている。でも、ランキングは思ったように上位には行けてないなあ。中間選考を突破するためにはとにかくやることが多くて、もう一人、二人自分の分身が欲しいぐらい。肉体的にも、精神的にも徐々にストレスが溜まっていくのが分かる。


「ふぅ……」

「だいぶまいっておる様じゃのう。あまり根を詰めるでないぞ」

「そうですね、まさか祭りがこんなにハードなものだとは」


 詩織さんが最初に書いてくれたスケジュール通りにこなしていれば、十二月はもう少し楽だったかな? いや、それでも順位が気になることには変わりないだろうから、精神的には似たようなものか。


「書く方は進んでおるのか?」

「はい、なんとか。大体八割ぐらいは書けてるんですが」

「なら、たまには息抜きも必要じゃな」


 それもそうですね。明日は土曜日だし、最近全然出掛けてないので一緒に出掛けますか? そう聞くと二つ返事でオーケーしてくれた詩織さん。どこに行くかと言う話になり、色々話している内に映画を観にいくことに。


「詩織さんは映画館に行ったことは?」

「前回下界に来た時に行ったぞ。白黒じゃったがのう」

「アハハ、一応あったんですね、映画」


 だとすると、今の映画技術を体感したら驚くだろうなあ。よし、普通の映画館では面白くないから、IMAXにしよう。詩織さんは新しいもの好きだから、きっと喜んでくれるに違いない。


 朝から二人で出掛けて映画館へ。最近は並んで歩く時に詩織さんが腕を組んでくるんだけど……彼女のあまりの美人さに周りがチラチラこちらを見てくるのも、だいぶ慣れちゃったな。きっと『なんであんな冴えない男があんな美人を!?』とか思われているに違いないんだけど。


 映画館に着くと、その雰囲気にもう興奮気味の詩織さん。


「これが映画館か!? まるで劇場じゃのう!」

「中に入ったらもっと驚きますよ、家のテレビで映画を観るのとはわけが違いますからね」


 巨大なスクリーンを前に席に座る。流石にシートも上等だ。興奮からか落ち着かない感じの詩織さん。神様なんだから、もう少しどっしり構えていてくださいよ!


「興奮するなと言う方が無理な話じゃ! こんな巨大なスクリーンに映像を映したら、画像が荒くならんのか?」

「最近のデジタル技術は凄いんですよー。音も家のテレビとは天と地ほどの差があるんです。前からも後ろからも音が鳴りますからね」

「あー、ワクワクするのう! 早く始まらんかのう」


 やがて照明が落とされて、本編前の予告などが流れる。本編じゃないんだけど、その映像と音響の迫力に詩織さんは既に圧倒され気味だった。そして本編。今回観た映画は詩織さんの要望でアクションものだったけど、詩織さんは瞬きを忘れてるんじゃないかと言うぐらい大きく目を見開いて集中してて、時々僕の手を握って前のめりになってた。神様でもこんなに興奮するんだ……あ、神様の力は抑えてくださいよ!


 映画が終わるとしばらく呆然とシートに座ってた詩織さん。


「そろそろ出ましょうか?」

「ああ」


 ストーリーに入り込み過ぎて疲れたのかな? でもその目はキラキラしていて、満足してもらえたのは明らかだ。映画館を出て昼食のために近くのレストランに入ったけど、詩織さんのお喋りが止まらなくなっていた。映画の感想もそうだけど映画館自体についても感動したらしく、必ずまた観に行く約束をする。


 食事の後はショッピング。クリスマスが近いので街は赤と白と緑で埋め尽くされていて、日本の神様である詩織さんには関係ないのかと思いきや、詩織さんの中ではクリスマスも『祭り』らしい。じゃあ、クリスマスは課長も呼んでパーティーでもしましょうか!

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