第35話 祭り(カクヨムコン9)の始まり

 二作目の小説は十五話で一旦手を止めて、冒頭から数話分の推敲を優先した。先頭から三話は初日に投稿するから、一週間分で九話の推敲は終えている。あと十分で十二月。ノートパソコンの前でジリジリしながらその時を待つ。


「ピピピピッ! ピピピピッ!」


 0時を告げるアラームと同時に『新しい小説を作成』のボタンを押し、入力を開始! 多分日本中で多くの人が一斉に同じことをしているだろうから、システムが重い。やっと画面が表示されたのでタイトルやジャンル、キャッチコピーなど、予め決めておいたものを入力して、コンテストの『第9回カクヨムWeb小説コンテスト』を選択した。いよいよ、祭りの始まりだ!


 第一話は予約せずにすぐに投稿し、残りの八話の予約投稿も済ませる。さあ、もう後戻りはできないぞ!


「投稿しました!」

「うむ、いよいよじゃな! うーん、ワクワクするのう! やはり祭りはリアルタイムで楽しまねばな!」


 そう言えば詩織さんはこの祭りを楽しむために下界に来たんですよね。神妙な気分で不安すら覚えている僕とは対象的に、詩織さんは昂ぶる気持ちを抑えられない、そんな表情だ。


「おー! 大量じゃのう! これほどまでに多くの物語が一時に開始するなど、普通はありえんからの!」


 タブレット片手に早速読む小説を漁っている詩織さん。カクヨムコンの期間中だけ開設されるランキングのページの『新着』を見てみると、さっき投稿したばかりなのに僕の小説はもう下の方に行ってしまっていた。それでも既に読んでくれた人もいるようで、作品フォローとハートが十以上付いてる! PVが一気に百を超えるなんて今まで経験したことないよ!


「この短時間でこんなに!?」

「やはり祭りの期間中は特別なのじゃ。特に初日は皆テンションが高い。どれ、七緒の作品も見てみるかのう」

「僕は近況ノート書こうかな」


 いよいよカクヨムコンが始まって、そこに参加した旨を近況ノートに書き投稿すると、こちらにもあっと言う間に『いいね』してくれる人が。第一作目の間にフォローしてくれた人たちかな? 今までこんなにリアルタイムに反応をもらったことがなかったので、とにかく嬉しい。


 その日はちょっと夜更かしをして、詩織さんと一緒になって『この作品はどうだ』とか『あの作品が面白そう』とか意見を交換する。自分の作品投稿も大事だけど、『活動』用に『読む』方も頑張らないとな。詩織さん曰く、各作品とも日を追う毎に話数も増えていくので、まだ話数が少ない内から読み進めておけるのはメリットがあるらしい。『祭りは初日から参加してなんぼ』なんだって。


 翌日会社に出勤してからも順位やら評価やらが気になり、休み時間などにチラチラ。それはどうやら課長も一緒だったらしく、彼女も時々スマホを覗いていた。最初は順位など気にしても仕方がないらしいけど、それでも気になるものは気になるんです! お昼の時点で二話投稿していて、詩織さんと課長、それに一作目からのフォロワーさんが星をくれたので既に十二個程星が! これは嬉しい。一話目ほどではないけれど、予約投稿した二話目のPVとハートも順調に増えてる感じ。でも、よく考えたらまだ初日だから順位は出ないんだよね。


 『他の人と比べても仕方ない』とも言われていたけど、ついつい課長の小説の状態も見てしまう。彼女の小説は『恋愛』ジャンルで、僕は結局『現代ファンタジー』にした。課長の作品、PVが僕以上にある……やっぱりカクヨムコン8を通過しているだけのことはあるし、フォロワーの数が多いのもあるんだろうな。身近で同じ祭りに参加している人がいるのは心強いけれど、色々数字を見てジェラシーを感じてみたり。


 金曜日と言うこともあり、その日の夜は久々に課長が部屋にきてくれる。十月、十一月は僕が出張だったりお互いに執筆が忙しかったりで部屋に来なかった課長。十二月になって夜はだいぶ冷え込む様になったので、今夜は鍋にしますよー。詩織さんお気に入りのキムチ鍋です。


「やはり鍋は大勢で食べた方が美味いのう」

「あんたはお酒があればなんでも美味しいんでしょう? それで? カクヨムコンに参加してみた感想は?」

「そうですね、思ってた以上に目まぐるしいと言うか、平常時と全然ペースが違って驚いてます」

「私は次々読むものが湧いてくるので大満足じゃな」


 今日も一日中参加作を読んでいたと言う詩織さん。過去作での参加や、作品途中からの参加もあり、その中で気に入ったものは最初から読んでいるらしい。そうだ、詩織さんは『文芸の神様』でしたね。最近、忘れてました。


 三人で鍋をつつきながら小説の話や、先日の神在月の話などで盛り上がる。


「遠藤くんは最後まで頑張れそう?」

「はい! まだ書いてる途中ですが、書く方も読む方も頑張ります!」

「フフフ、まあ自分のペースで頑張るといいわ。これから色々大変だろうけど」

「大変?」

「そうよ。でも、仕事は疎かにしないでよね」

「はい……」


 課長の言う『大変』の意味が気になったけど、その場はそう答えておく。そして祭りの期間はゆっくりと過ぎていき……十二月半ばになって、『大変』の意味が徐々に分かってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る