第19話 読まれてない
翌朝は普通に出社。電車の中からスマホを使っていよいよ処女作の公開だ! 何となく不安になって再度読み直し、ドキドキしながら公開ボタンを押した。さ、さあ、誰か読んでくれ! 結果をずっとウォッチしていたいところだけど、一日目の結果は家に帰るまで見ないと決めてたんだよね。予想以上に読まれていればよし、逆なら……まあ、その時はその時かな。
仕事をし始めると小説のことはなんとか忘れることができて昼休み、今日は先輩方に誘われてのランチ。当然話題は詩織さんがメインだ。
「ねえねえ、遠藤くんは詩織様と同居してるんでしょう? 詩織様は部屋の中でどんな感じなの?」
「どんなと言われましても……普通?」
「そうじゃなくて、なんかあるだろう! 服装とか、何やってるかとか!」
「ああ、服装は外に出かけるとき以外ジャージですね。近所ならジャージのままだし。あと、家にいる時は基本タブレットでネットみたり小説読んだりしてますね。あとはテレビみたり……そうそう、最近はゲームにハマってます」
「……」
引きこもりのような生活をしているその様子に、皆さん絶句。なんだろう、もっと華やかな、それこそ神々しい生活を想像していたのだろうか。
「ま、まあ詩織様もこちらに来られるのは久しぶりらしいし……」
「そ、そうだな。それで、お前、夜はどうしてるんだ?」
「一緒に寝てます」
「はぁ!?」
皆立ち上がりそうな勢いで身を乗り出して、若干怒ってる!?
「手は出してませんからね! 別々に寝てても、朝起きたら詩織さんが隣に潜り込んでるんです!」
「お前、人が詩織様に手を出したらどうなるか分かってるんだろうな!」
「……ど、どうなるんですか!?」
「そりゃお前、俺たちが容赦しないと言うか……」
ファンの神様たちが黙っていないと!? 神々的に炎上とか怖すぎて笑えないんですけど!
「先輩たちも僕みたいにアパートとかマンション住まいなんですよね? 実家があるわけでもないだろうし」
「そうよ。下界に来ている神々は大体そうね」
「なら、詩織さんを引き取ってくださいよ! 僕の部屋はそんなに大きくないし、それに神様同士の方が住みやすいんじゃないですか?」
「それはちょっと……」
えっ!? 何で皆さん露骨に嫌そうなんですか!? 詩織さん、ひょっとして嫌われてる? いや、ファンクラブがあるんだからそんな訳ないか。
「お前、考えてみろ。明日から超人気アイドルと同居しろって言われたどうだ?」
「うーん、無理ですね。どう接していいか分からないし、大炎上だろうし」
「だろ?」
あぁ、そう言うことですね。畏れ多くて逆に一緒に居づらいと。結局沙織さんと同居してくれそうな神様は見つからず、暫くは僕の部屋に居続けそうだ。代わりに、沙織さんの様子をグループチャットに(頻繁に)流すように言われた。できれば写真付きで。
仕事を終えて帰宅準備に入る。帰ってカクヨムサイトをチェックするぞ! ……我慢しきれずに電車の中で見ちゃいそうだけど。ワクワク、ドキドキしながら駅までの道を歩いていると、グイッと腕を引っ張る人が……課長だ。
「おめでとう、遠藤くん。カクヨムに投稿したんでしょう?」
「はい! あ、でもまだ結果は見てないです。帰ってから確認しようかと……」
「じゃあ、今日は投稿記念の宴会ね!」
いや、昨日も宴会で沢山飲んでたし、一昨日もウチで飲んでたでしょう!? あ、そうだ。課長なら詩織さんと同居しても大丈夫なのではないだろうか?
結局いつものように近所のスーパーで買い物をして、課長と二人で部屋に帰る。美味しそうな魚が手に入ったので、今夜は和食にしてみます。
「おー、焼き魚か。酒に合いそうじゃのう!」
「詩織さんも課長も、何でもお酒に合うんじゃないですか?」
「そんなことないわよ! まあ、飲めと言われれば飲むけどね」
あんまり飲んだら肝臓悪くしますよ……と言う注意は神様には無用なんだろうな。料理してる間も既にビール飲んでるし。
夕飯を三人でワイワイ言いながら食べて、その時の話題は詩織さんとの同居の話。神様たちに聞いたら断られたことを話したら、当然だと言われた。
「なんじゃ、お主、私を追い出そうと言うのか?」
「部屋も狭いし、それに一応男女じゃないですか。間違いが起こる前に神様同士で生活してもらった方がいいと思ったんです」
「私は別に『間違い』が起こっても構わんのだぞ」
やめてください。そんなことになったら僕が先輩方の神罰を受けますので。
「私だって詩織と同居は無理だからね!」
「えー、課長なら同居できるんじゃないですか? 昔からお知り合いなんですよね?」
「生活費は一世帯で三十万なのよ。二人以上で住んでる神なんていないからね」
「あー、そう言うことですか」
先輩方とは別の理由だったけど、まさか生活費の問題だったとは。
「あれ? でも課長は会社から給料も貰ってるんじゃないですか?」
「まあ、課長だから多少多くは貰ってるけど、ベースは三十万よ。その他の副業で稼ぐのは自由だけど」
「神々の金に関する感覚は人間とは少し違うからのう。それにしても皆軟弱じゃな。私と同居もできぬとは」
「あんたとこうやって生活できてる遠藤くんが奇跡なんですからね」
僕、奇跡だったんだ!? なんか非常にツイてる気がしてきた。よし、気分が乗ってきたのでこの調子でカクヨムのサイトもチェックしよう!
「お! いよいよサイトのチェックじゃな?」
「は、はい。緊張します……」
「最初はそうよね。私も一番最初は凄くドキドキしたもの」
「で、では、見てみます!」
恐る恐るスマホでカクヨムの自分のページを開く。処女作の一話目のPV数は……十五……十五!? これは多い……のか? ちなみに作品フォローは六、ハートは二個で星はゼロだった。
「……」
「まあ、そんなもんじゃろ。洗礼を受けたな。ちなみに私はちゃんとハートを付けておいたぞ。星はこれからの話を見てからじゃな」
「私も同じね」
じゃあ、二個のハートは詩織さんと課長ってことですね。これはお情けと考えて実質ゼロ……予想外に厳しい結果だった。
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