Episode 2 求愛

なんて不細工なんだろう。


目は小さい一重まぶただし。鼻は低く、広がって大きいし。

口は薄すぎる、色も悪い。顎も嫌だ。頬も、額も。

最近の写真修正技術はすごいが、所詮は写真でしかない。画面上でいくら綺麗になっても、現実でステキにならなくては、意味なんてないのだ。

美しくないと。可愛くないと。

もっとステキでないと。鏡を覗き込みながら言う。


「まずは目ね。そう、もっとぱっちり開いてる方がいいわ」


ぱっちり開いた目。まぶたの部分、綺麗に入った二重の線。

目が大きく見える。

あぁ、少し綺麗になった。


「次は鼻かしら、もう少し高く。もう少し小さく。」


すっと通った小さな鼻。でもきちんと高い。ちょうど良い鼻。

まあまあね。

もう少し唇が厚い方が良いわ。

ふっくらした唇。ふっくら、ね。厚すぎてもいけないもの。

それならもう少し顎が細い方が良い。小顔にしましょう。

口角が上がっていくのを感じた。

もうすぐ完璧になるわ。


「ママ」

少女。十二、三ほどの、中学生くらいの女の子が母を呼んだ。

その右目は眼帯に覆われ、肌は薄っすら赤いところ、青いところとまだらに腫れたりアザになったりしている。

それでも子だった。少なくとも、顔の上半分は。

目はぱっちりと開いた二重で、鼻はすっと高い。ただバランスが悪いというか、なんというか。カワイイ子には違いないのに、ひどく不自然アンバランスな感じのする顔だった。

少女は涙目になりながら口を開いた。

「痛いよ、ママ。全部が痛い。」


面倒そうに母親は手をひらひらと振った。

「薬ならそこにあるでしょう」

その手にあるのはスマホ。液晶画面に映るのは整形外科のホームページ。

少女の顔が痛々しくひきつった。


「もう痛いのはやだよ。ママ、私もう」

ダンっと拳が机を叩いた。


「猿は、いらないの。」


ヒュッ、と少女の喉が鳴る。母親の声は恐ろしく冷たかった。


少女の怯えに気づいたのか、母親は穏やかな笑みを浮かべ言った。

「あのね。全部あなたのためなの。」

検索履歴は有名クリニックでいっぱい。貯金は全て一人の少女に消えていく。

愛おしそうに、母親は製作途中の作品に目を向けた。

みにくいよりカワイイ方がいいわ。痛くたって今だけよ。我慢しなさい。あなたはこれからになるのよ。」


「………はい。」

少女はそれ以上、何も言わなかった。


あぁ、ようやくできた。

目はぱっちり、鼻は小さくて高い。唇はふっくら。顎は細く、顔は小さい。



ようやくできた。私の理想むすめ

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