第36話 刃物って危ないよな

 ―栞菜かんな視点―


「おーい。頼まれていたアンパンと牛乳買ってきたよー」

「遅いよ。栞菜二等兵! もたもたしてると、ターゲットが逃げちゃうんだから」

「誰が二等兵よ……」


 ったくもう……急に呼び出されたと思ったら、龍君を尾行するから、アンパンと牛乳買ってこいってさ。私のとこ暇だと思ってるでしょ。


「隊長。ターゲットの様子はどうですか?」

「今のところ特に大きな動きはないな。だが、やつは必ずしっぽを出すはずだ。見逃すなよ、音葉おとは隊員!」

「ロジャー!」


 はぁ……参ったなぁ。今日はアラタ君もボケに回ってるのかぁ。

 てか、そもそもこれどういう状況なの? 私、まじで何も聞かされてないんだよね。いい加減、状況説明してくれないかな。


「あ、隊長っ! 動きましたよ!」

「よし、追うぞ!」

「ロジャー! ほら、栞菜二等兵も行くよ!」

「だから二等兵じゃないっての……」


 ――――

 ――


「さて、どう思う? 音葉隊員?」

「これは完全にクロですね」

「なるほど。栞菜二等兵は?」

「同じくクロだと思います。アラタ隊長」

「よし。では、証拠の写真を撮ってくれ」

「了解です!」


 さてさて。龍君を尾行しながら、2人に事情を聞いた私が1番最初に思ったこと。

 それは――めっちゃ面白いことになってるではありませんかぁ! だった。

 これは私も全力で乗っかるしかないよね。

 そして今は、女性専門の服屋に来ている。しかも、それなりにお高めなのが揃っているところだ。そこで龍君は、一緒にいる女の人と仲良く服を選んでいる。

 傍から見ると完全にデートって感じだね。


「あ、移動するっぽいね」

「よし。追うぞ」

「「了解!」」


 因みに女の人は何着か服を購入していた。ちらっと値段を確認したけど思わず、おぉ……って声が出ちゃうくらいの値段だった。あの人、お金もってるなぁ。

 まぁ……私も買おうと思えば買えるんだけどね。ただあんまり服とかにお金を使いたくないだけであってね。


 ――――

 ――


 ―アラタ視点―


「お、おぉ……」

「まじかぁ……」

「これは完全にクロだね……」


 次に龍達が来たのは、赤ちゃんの服とかおもちゃを取り扱っている赤ちゃん用品店だった。


「え、えっと……どうする?」

「ど、どうしようね……?」

「一応、写真だけは撮っておこうか……」

「だな。璃亜りあちゃんに報告するかどうかは保留として」


 やばいなこれは。さっきまでの楽しい雰囲気は一転して、何とも言えない感じになっちゃったよ。いやまぁ、仕方ないんだけどさ。


「うわぁ……しかもいっぱい買ってるよ」

「おいおい……まじかよ龍」


 しかし参ったなぁこりゃ。これ、どう璃亜ちゃに説明したものかな? ありのまま伝えるにはちょっとヘビー過ぎるしなぁ。

 てか、璃亜ちゃんって今こっちに向かってるんだよな? あの感じだと、めちゃくちゃ怒ってるのは確定なんだけど、この現場見たら龍殺されちゃうんじゃなか?


「なぁ1つ提案なんだが」

「なに?」

「見失ったってことにして、今のやつは見てないってことにしない?」


 流石にこっからはお遊びじゃ済まなそうだし、なかったことにするのが1番だろう。

 見て見ぬふり、世の中で生きていくうえで、そこそこ大事な技術だ。


「うん。賛成かな。栞菜は?」

「私も賛成」

「よし。そうと決まれば帰るか」

「へぇ……どこに帰るの?」

「「「え……?」」」


 あ、あれぇ? 今、1番聞きたくない人の声が聞こえたぞぉ〜?

 いやいや。今のはきっと空耳だよな。うん。そうに違いない。


「とりあえず、こっち向きな」

「「「はい……」」」


 あ、終わったわ。

 これ絶対に逃げられないやつだわ。


「音葉とアラタ君。尾行お疲れ様」

「う、うん……」

「お、おう……」

「栞菜も居たんだね。音葉が呼んだのかな? まぁとにかく、栞菜もやってくれたんだよね? ありがとう」

「あ、うん……」


 いやいや……やばいって。璃亜ちゃんの顔は、めっちゃいい笑顔なのに、目が全然笑ってないよ。これが目は口ほどに物を言うってやつなのですかね? ははは……勉強になります。


「ふーん。あの女かぁ」

「あ、あの……り、璃亜?」

「うん? どうしたの音葉? それよりもさ、証拠写真撮ってくれてたんだよね? 見せて」

「あ、いやぁ……どうだったかなぁ」

「み・せ・て」

「はい……」


 璃亜ちゃんの圧に負けて、音葉はガタガタを震えながら、証拠写真を収めた自分のスマホを手渡す。

 うん。音葉、お前はよく頑張ったよ。ナイスファイト!


「ふぅん。うん、だいたい分かった」


 何が分かったんだろうなぁ。すごく怖いなぁ。


「あ、そうだ3人とも。私ね、さっきすっごくいい買い物したんだ」

「えっと、何買ったの?」

「これだよ」


 あー……何か出てくる物が予想できちゃうのが嫌だなぁ。


「じゃじゃーん! 包丁〜!」


 やっぱりかぁ。だよね。出てくるよね包丁。

 王道も王道。超ド真ん中火の玉ストレートって感じだね。


「見て見てこのキャッチコピー。『刺す斬る刻む何でもこれ1本!』だってよ!」


 わぁお。なんて危ないキャッチコピーなんでしょう。本当に料理するために作られた包丁なのかな?


「そして見てよこの包丁の名前! 『殺人包丁・血飛沫』センスあると思わない?」

「「「……」」」


 ある意味センスしかないわ! ネーミングに殺意しか感じられんわ!

 なに? 作ったやつ殺人鬼か何かですか!? てか、よくそんなもん売ってたなおい! 作ったやつもだけど、売ってる店も相当やべぇぞ!


「ってことで、ちょっと行ってくるね」

「「「待て待て待てーーー!!!」」」

「ちょちょ、璃亜落ち着いて!」

「そうだよ! 流石にシャレにならないから!」

「一旦その包丁しまいな。な?」

「3人とも、そこどいて」

「いやいや! 絶対に無理だろ!」


 このまま、はいどうぞって通したら、まじで龍殺されちゃうから。それどころか、あの女の人までやっちゃう勢いだよ。


「えっと……何してんの? お前ら?」

「は?」


 え? 嘘でしょ?

 何でよりによって、今このタイミングでお前がここに来ちゃってんの?


「あ、龍君! よかった。こっちから行く手間が省けたよ」

「龍逃げろ! 殺されるぞ!」

「そうだよ! 璃亜は私達が抑えているから!」

「出来るだけ遠くに! 彼女さんも!」

「え、いやちょっと待って。話が全く見えないんだけど?」


 今は見えなくていいわ! そんなことより、さっさと逃げろよ! 何ボケっとしてんだよ!

 てか、お前どこか他人事だなおい! 誰のせいでこんなことになってると思ってんだよ!


「あーっと、璃亜ちゃん。とりあえず、それしまったら? 危ないよ」

「バカかてめぇは!?」

「は? 何言ってんだよ、アラタ。街中で包丁出してる方がよっぽどバカだろ」

「火に油注ぐんじゃねぇ!」

「あはは。面白いこと言うね、龍君。そんな面白い龍君は殺してあげるよ」

「え? 龍君、殺されるの? やばいじゃん」


 彼女さん呑気っすね!?

 てか、何でこの状況見てそんなに落ち着いてられるんすか? メンタルバケモンなの?


「安心してよ。龍君の次はあんただから」

「えぇ〜それは困るなぁ。龍君、何とかしてよ。この子、君の彼女なんでしょ?」

「へぇ……私が龍君の彼女だって知ってるんだ」

「うん。いつも龍君から聞いているからね」


 もうこの人なんなの!?

 お願いだからもうやめてもらっていいですか!


「絶対に殺す……」

「てかさ、璃亜ちゃん何でそんな怒ってるの?」

「そんなの浮気したからに決まってるでしょうがー!」

「は? 浮気? してないけど」


 いやいや、この状況でそれはないだろ。言い訳するにしても、とぼけるにしても無理があり過ぎるって。


「じゃあその女はなんなのさ!」


 うわっ、あっぶね!

 急に包丁振り回さないでくれよ。今顔面スレスレのところ通って行ったぞ。てか、包丁を人に向けちゃいけませんよ!


「あ、この人? この人は兄貴の嫁さんだよ。つまり、俺の義理の姉さん」

「どうも〜龍君の義理の姉さんで〜す」


 ってことは……獅雄れおさんの結婚相手か! 初めて見たわ!

 え? てか待って、こんな美人なの? まじで?

 あの歩くR18禁、性欲の権化、キングオブエロの獅雄さんがこんな美人と結婚したの? そんなことあるの?

 って、いやいや……まずはそんなことよりもだ。


「つまりあれか?」

「龍君の浮気大事件は」

「全部私達の」

「誤解だったってこと?」

「よく分からねぇけど、多分そうなんじゃね?」

「「「「ま、まじかぁ〜」」」」

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