第35話 大当たりからのミッション発令

「うわぁ〜すごい音だねぇ」

「大丈夫か?」

「うん。全然大丈夫だよ。それよりアラタ君、早くやろうよ!」

「へいへい」


 俺と音葉おとはは、朝イチから近所の大型パチンコ店に来ていた。要は開店凸ってやつだ。


「あ! あったよ、アラタ君! ちゃんと空いてる!」

「まぁ、今開店したばっかりだからな」

「にひひっ! 楽しみだね!」

「何でもいいけど、程々にしとけよ」

「分かってるよ」


 やれやれ……本当に分かってるのかねぇ。実に心配だ。

 音葉はうっきうきで、目的の台であるPシカロボ『反逆の開戦』に座った。


「で? これはどうやってやるの?」

「ここに金を入れればいいんだよ。んで、このボタンを押せば玉が出てくる。あとは、ハンドルを捻って、ここに玉が入れば抽選が開始される」

「ほうほう。なるほどね」

「ま、百聞は一見にしかずだ。とりあえず、やってみ」

「うん! にっひっひ、さぁパチンコデビューだ!」

「頑張れー」


 しかし、まさか音葉がパチンコやりたいって言うとは思わなかったな。

 昨日2人でYouTubeを見ていたら、このシカロボの新台の広告が流れてきた。それを見た音葉がやってみたいと言って、ここに来ることになった。

 ちなみに今日俺は大学があったんだけど、これに付き合わされたかはサボりだ。はぁ……大学サボってパチンコ打つとか……クズ学生と一緒だな。

 ただ……この罪悪感っいうの? 最高に気持ちいい〜! クセになりそうだ。


「早くアラタ君もやりなよ」

「分かってるよ」


 俺もサンドに1万円を入れて打ち始める。

 一応言っとくと、この金は俺の自腹だ。来る前までは、契約だからと音葉が俺の分の金も出すよって言ってたが、流石にそれは全力で拒否った。いくらなんでも流石にそれはダメだ。俺はプライドなど持ち合わせてないけど、これは最後の一線ってやつだ。


「ねぇねぇ、これはいつ当たるの?」

「さぁな。運が良ければすぐ当たるけど、悪ければ永遠に当たらん」

「うぬぬ……厳しいんだね」


 Pシカロボ『反逆の開戦』。スペックは大当たり確率199分の1のライトミドルタイプ。初当たり後3Rのボーナスを消化後、時短1回、残保留4回の抽選が行われそこで当たると、7回のST獲得するタイプだ。突入率は51.2%継続率は81%。最大出玉は1300玉。遊タイムなし。特図2の大当たり振り分けは4R45%、6R3%、7R2%、10R50%か。

 うん。まぁそこまで悪くはないかな。個人的には好みのスペックだ。


「わっ! 何か震えたよ!」

「まじか! それレバブルじゃん!」

「レバブルって何?」

「この台の激アツ演出の1つだよ。そのレバーが震えると高確率で当たる」

「本当に!? やった!」


 俺は自分の台を打つのを一旦やめて、音葉の台を見る。

 12回転目でレバブルか。これがビギナーズラックってやつなんだな。


「おぉ! 突撃シカと盾神シカの戦いだ! 原作通りだよ!」

「この台で2番目に強い演出だな。しかも、タイトルとセリフが赤文字だ。いけるぞ!」

「えっと、突撃シカが勝てば当たりなんだよね?」

「あぁ。音葉、その真ん中のボタン長押ししてみろ」

「んっと、これ?」

「そう。それそれ」

「分かった」


 音葉が真ん中のボタンを長押しすると、液晶が白く光り出す。そして、青から緑へ最後には赤に変化していく。


「これは?」

「裏ボタンだ。これで信頼度がだいたい分かる。赤くなったから、かなり信頼出来るぞ」

「おぉ!」

「よしっ! そのままいけ!」

「頑張れ! 突撃シカ!」


 演出が進み、最後のジャッチメントボタンの演出に突入する。


「よしっ音葉決めろ!」

「うん! いっけー!」


『キュインキュインキュイーン!』


「「やったーー!!」」


 結果は見事大当たり。台に付いている役物が激しく動いて、脳がバカになりそうな確定音が鳴り響く。


「き、気持ちいい……」

「ほら、右打ちだぞ」

「うん」


 主題歌を聞きながら3Rのボーナスを消化して、STを獲得するかどうかの激闘決戦に突入する。


「本番はこっからだぞ。これに勝たなくちゃ意味がない」

「分かったよ。絶対に勝つ!」

「おう!」


 アタッカーに保留を貯めて演出が進む。青、青、緑、青、緑。

 ち、弱いな。ただ、こっから昇格すればまだある。


「これ大丈夫かな?」

「諦めるな。信じるんだ」

「うん」


 1回戦目負け、2回戦目負け、3回戦目負け。やばい何もない。4回戦目負け……いや、これは次の演出が強くなる負け方だ。


「あ、レバー震えた!」

「おしっ!」

「わっ! 画面が暗くなったよ!」

「昇格だ!」


 プッチュンからの暗転。そして、台の役物が激しく動きだし、主題歌が流れ出す。

 きたきた! 共闘だ!


「よしっ、いけ!」

「任せて! おりゃ!」


『キュインキュインキュイーン!』


「「よっしゃー!」」


 激闘決戦を勝利して大当たり。しかも、図柄揃いが7だから10R確定だ。


「やったよ! アラタ君!」

「おう! このまま連チャン続けていけ」

「うん。やってやるよ!」


 おーし。俺も負けてらんねぇな。やってやるってばよ!


 ――――

 ――


「いやぁ〜勝ったねぇ」

「あぁ大勝利だ」


 結果は、音葉が1000円投資の5万2500円回収。俺が3000円投資の4万5000円回収の大勝利だ。まさか、お互いに万発出すとは思わなかったな。


「てか、お前引き強いな。俺、全回転なんて初めて見たぞ」

「あ〜あの演出はよかったねぇ。原作屈指の名場面であの挿入歌! 熱くなるよ!」

「原作愛を感じられたよな。台を作ったやつは絶対に原作ファンだな」


 まじでいい仕事してるぜ。是非とも、シカロボについて熱く語りたいね。


「はぁ……パチンコって面白いね。ハマっちゃいそう」

「程々にしとけよ。あれはハマると大変なことになるから」

「分かってるよ。あくまで遊技の範囲でするから」

「そうしとけ。パチンコで人生がダメになるってのはよく聞く話だからな」

「うん」


 のめり込み過ぎはダメ。あくまで遊技。無理のない範囲で楽しく遊びましょうだ。


「そうだ。せっかくだから、何か美味しいものでも食べて帰ろうよ」

「そうだな」


 ちょうど今日は、世話に来てくれている栞菜かんなちゃんと璃亜りあちゃんが来れない日だ。だから、飯は自分で用意しなくちゃいけなかったしな。


「音葉は何がいい?」

「うーん。そうだなぁ。しゃぶしゃぶとかどう?」

「いいね。賛成」

「じゃあ決まりだね。早速行こう」

「おう」


 しゃぶしゃぶかぁ。久々だなぁ。最後に食ったのいつだっけな?

 まぁ、今日はたらふく食うとするか。なんせ金はあるんだ。それに昼から食うしゃぶしゃぶとか贅沢過ぎて楽しみだぜ。


「ん? あれって」

「どした?」

「ほら、あれ」

「ん? あ、龍だな。何やってんだあいつ?」


 この時間はまだ大学に居るはず何だけどな。もしかして、あいつもサボりか?


「こんなところで何してるんだろうね?」

「さぁな。でもまぁ、オシャレしてるし、この後、璃亜ちゃんとデートでもするんじゃね?」

「え? それはないよ。だって璃亜、今日は実家に用事あるから帰ってるはずだもん」

「まじで?」

「うん」


 んじゃ、あいつまじで何してんだ? いやまぁ、あいつにも色々とあるんだろうけどさ。でもちょっと気になっちまうよな。


「え……」

「あ……」


 まじかあいつ。めっちゃ美人なお姉さんと話してるぞ。

 あー……しかも、仲良さそうに2人で歩き出しちゃったよ。


「アラタ君、見た?」

「見た」

「私、写真撮った」

「仕事が早いな」

「んで、璃亜に送った」

「それは早すぎるな……」

「既読ついた」

「あいつ終わったな」

「電話かかってきた」

「とりあえず出てみろよ。あ、俺にも聞こえるようにスピーカーで」

「了解。もしもーし」

『あとをつけて。絶対に逃がさないで』


 怖っ……声のトーンがガチ過ぎるって……。


「あの〜私今から、アラタ君としゃぶしゃぶに行く予定何だけど……」

『殺されたいの?』

「誠心誠意任務を全うします」

「右に同じく」

『よろしい。とにかく、私は今すぐ帰るからそれまでよろしく』

「「イエスマム!」」


 てなわけで、龍の尾行ミッションが開始されるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る