第33話 風呂と電話

「ふ、風呂って……お、お前……な、何言ってんだよっ!」

「大丈夫だよ。ちゃんと水着着るから」

「いや、そういう問題じゃ……」


 あ、でもそれだったらOKなのか? そういや、ラブホで会った時は、こいつ全裸だったもんな。それに比べたらワンチャンあり?

 って違うわ。そもそもまず、何でいきなり一緒に風呂に入ろうってことになってるんだよ。


「にひひ〜、もしかして、アラタ君ってばビビってるの〜?」

「び、ビビってねぇし!」

「んじゃ、大丈夫だよね?」

「問題ねぇよ! いや、でもさ、何でいきなりそんなこと言い出すんだよ?」

「え? だってさ、左手使えないと体とか洗えないじゃん?」

「確かに」


 そういや、その辺のことは全く考えてなかったな。頭はギリなんとかなるかもだけど、体はしんどいよな。


「ってことで、入ろっか!」

「ま、まじで言ってんの?」

「まじまじ。マージ・マジ・マジーロ!」

「いや……えぇ……」

「アラタ君。据え膳食わぬは男の恥だよ」

「それはお前が言うことじゃないからな」


 それにまぁ、音葉おとはの言う通り、今の状態で風呂ってのは中々しんどいのは確かだ。それによくよく考えたら、これって俺に何のデメリットないんだよな。むしろメリットしかない。

 いやだってさ、考えてみ? 合法的に音葉の水着姿を拝めるだけじゃなく、体も洗ってもらえるってことだよな。エロい意味で考えるなら、専門のお店でお金払ってやってもらう領域だ。

 しかも、音葉ほど美人でスタイルも良ければ中々高級になってくるだろう。それが無料ときたもんだ。

 つまり、俺が何を言いたいかと言うと、このビッグウェーブにっ! 乗るしかないってことだ!


「よしっ、すぐ行こう! 今すぐ行こう!」

「おぉ……急に乗り気になったね。どったの?」

「俺の魂が……いやソウルがっ! 滾っているんだ!」

「つまり?」

「「震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!! おおおおおっ 刻むぞ血液のビート! 山吹色の波紋疾走!!!」」


 ふっ、決まったぜ。さすが音葉だな。分かってらっしゃる。


「てなわけで、行こうぜ!」

「あ、うん。オッケー。とりあえず私は先に着替えちゃうから先に行ってて」

「ん。了解」


 ――――

 ――


 さて……


「何言ってんだ? 俺は……」


 完全にやらかした……バカ過ぎだろ。

 意気揚々と左手にビニール袋を被せて、風呂場に来たはいいが冷静になってみると、やっぱこの状況やばいでしょ……。

 色々といけないことをしているよね? 絶対にさ。だって、言い逃れ出来ないくらいのエロエロシチュエーションだぜ? これなんてエロゲだよ。

 どうする? どうするよ桜木アラタ? ここはいっちょ逃げるか? はたまた流れに任せていい思いしちゃう?

 ちくしょう。つい数分前の俺だったら間違いなくいい思いしちゃってたところ何だが、ここに来て、童貞モードが発動してビビっちまってるよ。正直な話、6、4で逃げたい。


「お、お待たせ〜」

「お、おう……」


 まじか……すっげぇ可愛い。

 大きな胸が強調された水色のビキニ姿で、上半身はセクシー系かと思いきや、下半身にはフリフリが付いていて可愛いらしい。まるで音葉専用に作られたんじゃないかってくらい似合っている。いや、似合い過ぎてるって言ったほうがいいかもしれない。


「その……私から言ったことだけど、何か照れるね……」

「いや、まぁ……なんだ。実は俺もさっきはあんなこと言ってたけど、今は結構緊張してたりする……」

「に、にひひ……アラタ君もかぁ」

「あ、あぁ……」


 そっか。音葉も同じだったんだな。音葉から誘って来たし、かなり乗り気だったからあんまり緊張してないのかと思った。


「てか、アラタ君も水着を着たんだね」

「まぁ一応な」


 流石に俺だけ素っ裸って訳にはいかないしな。最低限のマナーってやつだ。


「とりあえず、やることだけやっちゃおうか」

「そうだな。んじゃ、よろしく頼むよ」

「うん。任せて」


 にしてもあれだな。髪は美容院とかに行った時に洗ってもらう機会はあるけど、体ってないよな。


「えーっと、髪と体どっちからにする?」

「うーん。どっちでもいいよ。任せるよ」

「んじゃ、髪からにするね」

「ん。了解」


 お? おぉ〜。音葉、以外と洗うの上手いな。気持ちよくていい感じだ。


「痒いとこない?」

「うん。大丈夫」

「そかそか。にひひ」

「なんだよ?」

「いやさ、まさか私がアラタ君のお世話する日が来るなて思わなかったからさ」

「あー確かにな。普段は逆だもんな。てか、そういう契約か」

「そうだねぇ。でもさ、何か最近はその契約のこと忘れてたかな」

「そう……だな」


 初めのうちは、契約だからって感じでやってたけど、いつからか、これが普通になっていた。音葉がいるのが当たり前で、音葉が何かしらやらかして、それを俺がやれやれって感じで世話をする。そこに契約ってのは頭になかった。当然、嫌だって気持ちは欠片もない。

 あぁそうか。俺は音葉とのこの生活が気に入ってたんだな。


「なるほどなぁ……」

「ん? どうしたの? アラタ君」

「あぁいや。何でもないよ」


 さすがにまだ言えないか。


「泡落とすから瞑ってね」

「あいよ」

「よし。次は体だね」

「ん。よろしく」

「うん。任せてよ」


 ――――

 ――


「う〜んっ。さっぱりしたねぇ」

「だなぁ」


 音葉に体を洗ってもらってから、2人で風呂に20分ほど浸かり上がった。その間、特にエロいことはなく、いつものように中身のない会話をしていた。


「この後どうする?」

「うーん。とりあえず、少しYouTubeでも見てから寝るかな。音葉は?」

「私は溜まってるアニメ消化しようかな。最近は作曲とかしてて全然見れてなかったし」

「あー確かに俺も結構溜めてたな。ちょうどいいし、俺もそっちに変更するわ」

「あ、じゃあ一緒に見る? アラタ君も私と同じやつ見てたよね?」

「あぁ。んじゃテレビに映して一緒に見るか」

「うん」


 えっーと、スマホスマホ。スマホはどこに置いたっけなぁ。お、あった。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、風実歌ふみかから着信入ってた」

「風実歌ちゃんから? 急ぎかもしれないし、すぐにかけ直したら」

「だな」


 それに1件だけじゃなくて複数入ってるしな。確かに急用かもしれないな。


「あ、風実歌? どうしたんだ?」


 風実歌に電話をかけると、ワンコール目で出た。もしかしたら、俺がかけ直してくるのを待ってたのかもな。


『…………』

「……? 風実歌?」

『すぅー……』

「ん?」

『あにぃのバカァーーー!!!!』

「ぬおわっ!」


 な、なんだぁ!?

 風実歌のやついきなり怒鳴ってきやがった。しかも、スピーカーが音割れするくらいの大音量でだ。おかけで耳がキンキンする。鼓膜破れてないよね?


『もうっあにぃのバカバカ! 大バカ! ボケナス! スットコドッコイの童貞! 粗チン!』

「こら、童貞はやめなさい。傷つくだろ。後、お兄ちゃんは粗チンじゃありません。しっかりと立派なものがついてます」

『うっさい! 口答えするなボケナス!』


 悲しいかな。可愛い妹がいつの間にか悪口マシーンになってしまった。お兄ちゃんはそんな風に育てた覚えはありませんよ。


『あーもうっ! ほんとにもう!』

「とりあえず、落ち着いてくれ。いったいどうしたんだ?」

『どうしたもこうしたもないよ! あにぃ、結婚するってどういうこと! 話が違うじゃん!』


 うわぁ……もう知られてんのかよ。ちっ……どうせクソ兄貴が言ったんだろうな。余計なこと言いやがって。クソめんどくせぇな。


『ちょっとあにぃ! 聞いてるの!?』


 あーうん。めんどくさいから切っちゃえ。


「えい」

「え? 切っちって大丈夫なの?」

「いや、だってさ。風実歌のやつ、めっちゃヒステリック起こしてるんだもん」

「あらら。ヒスってるのかぁ」

「そうそう。ヒスってるの」


 女が1度ヒスるとまじでめんどくさいからな。話は通じないし、何しでかすか分かったもんじゃない。こういう時は、下手に刺激せずに逃げの一手が最前だ。

 まぁ、適当に時間置けば落ち着くだろ。うん。


「あ、今度は私の方にかかってきたよ」

「まじで?」

「うん、まじまじ。マージ・マジ・マジーロ」

「うげぇ……」

「どうする?」


 くそ。どうやら、風実歌の怒りは限界突破してるっぽいな。音葉に無視させるのは簡単だけど、その後が怖いな。


「一応、出てみてくれ」

「了解〜」


 頼むから余計なこと言わないでくれよ。いや、待てよ。だったら俺が出た方がよかったじゃん。あーやらかしたわ。


「うん。うん。え? それ本気で言ってるの? うん。分かった」


 うわぁ……もうめっちゃ嫌な予感しかしないわ。


「ねぇアラタ君?」

「お、おう……」

「とりあえず、そこに座りなよ。話はそこからかな」

「いや……もう座ってるぜ……?」

「口答えしない」

「はい……」


 あー……どうしよ、これ?

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