第27話 ルミナス

「はぁ……帰りたくない……」

「んなこと言ったって仕方ないだろ。文句言うな」

「分かってるよ。そんなこと」


 分かってるなら、そんな不満たっぷりに頬を膨らませるなよな。まったく。

 とりあえず、この生意気に膨らんだ頬は俺様が直々に潰してやるとするか。あらよっと。


「ぶー。何するのさ、あにぃ」

「んー? むくれっ面でブサイクだったから、可愛くしてやったんだよ」

「ブサイク言うな」

「はいはい悪かったよ」

「もぅ……あにぃのバカ」


 ありゃりゃ……更に機嫌が悪くなっちまったな。ふむ、流石にブサイクは言いすぎたかな?


「アラタ君。あんまり妹をいじめるのは良くないと思うよ」

「そうだよ! 音葉おとはさん。もっと言ってやって下さいよ!」

「こ〜らこら風実歌ふみかちゃん。あんまり調子に乗っちゃいけませんよ〜」

「いたっ、痛いよあにぃ。ほっぺ抓らないで」

「離して欲しければ、ごめんなさいと言え」

「ごめんなさい」

「よろしい」


 やれやれ……やっぱ最後の最後まで風実歌とはこのノリなんだな。ま、大抵のことはいつも通りがいいって言うしな。それに変に湿っぽくなるのもあれだしな。


「ほら、そろそろ時間だぞ」

「うん、分かった」

「そんな顔すんなって。そのうちまた遊びに来い」

「うん。それじゃ行くね」

「おう。またな」

「バイバイ。風実歌ちゃん」

「はい。音葉さん、あにぃのことよろしくお願いしますね」

「任せてよ」

「じゃあね。あにぃ、音葉さん」


 そう言って、風実歌は実家に帰って行った。


「行っちゃったねぇ」

「だなぁ」

「にひひ、ちょっと寂しいんじゃない?」

「うるさいなぁ」

「まーまー、そんなに落ち込まないでよ。私がよしよししてあげるからさ」

「いらん」

「ありゃまバッサリ」


 当たり前だろ。妹が帰ったくらいで、女の子によしよしされるとか、いくらなんでも情けなすぎるわ。


「まぁいいや。寒いし帰ろうぜ」

「あいあーい」


 あー……しかし今日は寒いなぁ。地元は雪が降って寒いけど、こっちはまた別の寒さがあるな。

 こういう日は、早いとこ家に帰っておこたでぬくぬくするに限るね。


「あ、そうだ」

「うん?」

「今日、晩御飯いらないからね」

「ん、了解」


 ライブの打ち上げ以外では、基本的に外食しない音葉が珍しいな。


「気になる?」

「まぁ、少しね」

「今日は、知り合いのライブがあるんだよ。それでその後に、その人達とご飯食べることになっているんだよね」

「なるほどね」


 ま、そういう理由だったら仕方ないか。

 んじゃ、今日は久々にジャンキーな晩飯にしちゃおうかな。ハンバーガーとかたまにはいいかもな。


「そのライブって、アークエンジェルでやるのか?」

「ううん。別のライブハウスだよ。タービンズっていうんだ」

「聞いた事ないな」

「まぁ本当に小さいライブハウスだからね。でも、実力のあるバンドがいっぱいいるんだよ。あそこから、有名になったバンドもあるんだから」

「へぇ」


 ちょっと興味出てきたな。音葉が認めるってことは、実力は間違いないんだろうしな。今度、龍と一緒に行ってみるか。


「因みにオススメのバンドは?」

「やっぱり、ルミナスだね」

「ほう」

「とにかく、演奏技術がすごいのが特徴だね。そして、歌詞がハートに響くんすよ〜」

「ほーん。何か、音葉達のバンドに似ているな」

「お、嬉しいこと言ってくれるね。でも正確には私達が似せているんだよね」

「ん? どゆこと?」

「私達はルミナスに憧れてバンドを始めたんだ。だから、自然と似ちゃったんだよ」

「なるほどな」


 つまり、ルミナスがAGEのルーツってことになるのか。何か更に興味が出てきたな。


「じゃ、今度連れて行ってくれよ」

「もちろんだよ。アラタ君もきっと気に入ると思うよ」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

「うん。さて、早く帰ろっか。私、ゲームの続きしたい」

「別に構わないけど、ゲームしてる時間なんてあるの?」

「少しくらいだったら大丈夫だよ」

「そっか。まぁとりあえず、遅れないようにしなよ」

「大丈夫だいじょ〜ぶ。私を信じてよ」

「うわぁ……欠片も信用出来ねぇ」



 ―音葉視点―


「お待たせシマウマ〜」

「遅いっ」

「どったの? 栞菜かんなめっちゃ怒ってるじゃん」

「それは! 音葉が! 遅刻したから! でしょうが!」

「なるほど。それは由々しき事態だね」

「音葉が言うな!」

「もぉ〜そんなに怒ると血圧上がっちゃうよ」

「ああぁームッかつく!」

「栞菜もう諦めなよ。このテンションの音葉に何言っても無駄だよ」

「そうそう。璃亜りあの言う通りだよ、栞菜」

「……」

「あ、あはは……」

「にひひ」


 うんうん。今日も2人共いつも通りだね。良きかな良きかな。


「とりあえず、入ろっか。ライブが始まっちゃう」

「そうね。まったくもう……音葉が遅れなければ、ライブの前に控え室に挨拶に行けたのに」

「私のことは気にしなくてもいいのに。師匠達はそんなことで文句言わないって」

「身内の恥を晒したくないのよ!」

「ほうほう。納得」

「納得したなら遅刻しないでよ……」

「いやぁ、これには深いわけがあったのだよ」


 あのボスは強かった。まさに激闘と呼ぶに相応しい戦いだったね。


「はいはい! 音葉も栞菜もその辺にしときな。本当にライブ始まっちゃうから」

「はーい」

「はぁ……分かったよ」


 おぉ! 結構フロア盛り上がってるじゃん。でもまぁ、ここに出ている人達はレベルが高いから当然か。

 あ、丁度演奏が終わったね。てことは、師匠達の出番は次か。師匠達の演奏を聞くのは随分と久しぶり。きっとあの頃と同じようにすごいんだろうな。

 お、出てきた。


「今日は来てくれてありがとう! 最後まで楽しんで行ってね!」


 あぁ……やっぱり師匠達はかっこいいな。ただ出てきて、一言マイクで喋っただけなのに引き寄せられる。華があるっていうか、カリスマ性があるっていうか分からないけど、とにかくすごいや。


「それじゃ、早速1曲目いくよ!」


 ――――

 ――


 師匠達のライブが終わって、私達は楽屋に来ていた。


「師匠、おつかれ〜」

「ねぇ音葉。その師匠っての辞めてって言ってるでしょ」

「えぇ〜嫌だよ。師匠は師匠だもん」

「ったく……」

「ははは……すいません、絢香あやかさん。音葉は昔っから成長しないんですよ」

「栞菜ちゃんが謝ることじゃないよ。まぁこれが音葉だもんね」

「そういうことなんだよぉ〜」

「いや、音葉? 褒めてないからね?」


 この人はルミナスのリーダー香川絢香かがわ あやかさん。担当は私と同じギターボーカルだ。黒髪のショートボブに赤色のメッシュを前髪に入れた、ちょっと目つきが悪いのが特徴的だ。

 音楽経験ゼロの私に1からギターを教えてくれた人だ。

 そして、ベース担当の藤堂アーリャさん。お父さんが日本人でお母さんがアメリカ人のハーフだ。金髪のストレートロングの髪とコバルトブルーの瞳が特徴的な人だ。ついでにおっぱいも大きい。因みに日本語も英語もペラペラだ。

 最後にドラム担当の立花夏鈴たちばな かりんさん。黒髪おさげにしていて、おっとりとした大きな目に黒縁メガネを掛けている。この優しそうな見た目に反して、実はめちゃくちゃ口が悪いのが特徴的な人だ。


「それにしても、皆久しぶりだね。元気してた?」

「はい。それなりに」

「そりゃなによりだ。お前らがくたばってなくて安心したよ。ゴミカス共め」

「にひひ、夏鈴さんの口の悪さも相変わらずだね」

「まぁな。音葉も相変わらずだな」

「そりゃ人はそう簡単に変わらないからね」

「言えてるな」


 まぁこんな感じで、夏鈴さんは口は悪いけど、なんだかんだでいい人なんだよねぇ。


「それで? 珍しく私達をライブに呼んだ理由はなんなんですか?」

「なぁに? 璃亜ちゃんは私達のライブに来るの嫌だったの?」

「ちょ、誰もそんなこと言ってないじゃないですか。それよりもアーリャさん、くっつかないで下さいよ」

「はいはい。文句言わないのお弟子さん」

「私、音葉と違ってそのノリ嫌いなんですけど……」


 相変わらず、アーリャさんは璃亜にべったりだねぇ。璃亜も、うざったくしてるけど、なんだかんだでアーリャさんのこと好きだもんなぁ。


「ほーら、アーリャ。璃亜ちゃんが困ってるからやめなさい」

「はーい」

「ま、その話は打ち上げの時に話すよ」

「うん。わかったよ」

「よし、決まり。それじゃ行こっか。場所はいつもの居酒屋だから」


 あー、あそこか。

 そういえば、随分と行ってなかったなぁ。あそこの〆鯖美味しいんだよねぇ。


「師匠、ゴチなります!」

「はいはい」

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