第26話 お風呂場での女子会
―風実歌視点―
人間、不機嫌になると自然と顔に出るものだ。現に私の顔も、もめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしているだろう。
何で不機嫌なのか。それは、せっかく金髪に染めた髪を黒に戻しているからである。
「いつまで、膨れっ面でいるんだよ」
「だってぇ」
「仕方ないだろ。明日にはあっちに帰らないといけないんだから」
「分かってるよ。そんなこと……」
年が明けてしまえば、冬休みなんてあっという間に終わってしまう。明日の昼に新幹線で帰って、その次の日はもう学校が始まる。
私の通ってる学校は校則で髪を染めることは禁止されているから、黒に戻さないといけない。
「ガッツリブリーチしてるからなぁ。定期的に黒染めしないとダメだぞ」
「じゃあ、もうさ金髪のままでよくない?」
「ダメに決まってるだろ」
「ちぇ……」
あーあ……これ気に入っていたんだけどなぁ。
てか、今どき頭髪のことでグチグチ文句言うなっての。別に金髪だからって、成績が下がるわけじゃないんだからな。
「そういやさ」
「うん?」
「ここ数日の
お? 流石あにぃだね。こういうのには、すぐ気がついちゃうね。
「うーん。分かんないなぁ。てか、そんなに変わったかな?」
「いや、そんなに大きくは変わってないかな。ただ、前より少しだけ距離感が近くなった感じがする」
「ふーん。それっていつからなの?」
「年明けからだな」
ビンゴ。やるじゃんあにぃ。
音葉さんがあにぃに接し方を変えた日まで、ばっちりあってるよ。
「あにぃはそのことについて、どう思ってるの?」
「うーん。特になにも。ただ単純に急にどうしたのかなってくらいだな」
「え? あにぃそれマジで言ってんの?」
「マジだけど」
おおう……マジっすか。こりゃ、予想外の答えが返ってきたなぁ。
「大丈夫あにぃ? 童貞拗らせ過ぎて性欲死んじゃったの?」
「バカ言うな。俺の性欲はまだまだ現役バリバリだ」
「えぇ……じゃあ何でそんな回答がくるのさ」
「簡単に言っちまうとさ、慣れちゃったんだよなぁ」
「慣れた?」
「そ、慣れたんだよ。そりゃ最初は俺もかなりドキドキしましたよ。あのデッカイおっぱいを押し付けてくるわ、風呂上がりはTシャツ1枚でうろつくわ、下着はその辺に脱ぎ捨てるしな。でもさ、流石にそんな生活が半年近く続けば慣れちゃうんだよ」
あー……なるほどねぇ。うん。確かにそうかもね。
しかも、音葉さんの下着を拾って洗濯をするのもあにぃだし、Tシャツ1枚でいる音葉さんの、びちゃびちゃの髪を乾かすのもあにぃだ。
そりゃ慣れても仕方ないよね。
まさか、音葉さんのダメ人間っぷりが、こんな所でデバフになるなんてね。
「あ、でも勘違いするなよ。一応、音葉のことは異性として見てるぞ」
「それを聞けて安心したよ」
ははは……流石に異性として見られてなかったら、音葉さんが可哀想過ぎだよ。
でも、これは参ったなぁ。音葉さん、こりゃ頑張んないとやばいですよ。
「うし。後は洗い流すだけだな」
「うん。もう1人で大丈夫だよ」
「んじゃ、俺はあっちに行ってるから、ちゃんと洗い流せよ」
「あいあ〜い」
それにしても相変わらず、あにぃって本当に器用だよねぇ。美容院でやってもらったみたいな仕上がりだよ。この感じだと、ムラなく綺麗に染まりそう。
そんなことを思いながら私は、髪を洗いながら大晦日の夜のことを思い出していた。
――――
――
「さて、まずはどこから話しましょうかね」
やっぱり私達家族のことからだよね。ここから話さないと、何も始まらないしね。
「私の家は、言い方は悪いですけど、かなりお金持ちです。父親はデカい会社の社長で、母親はその秘書をやってます。ほら、サクラレコードとか聞いたことないですか?」
「有名な音楽会社だよね?」
「はい。そこはうちの会社の一部です。他にも、サクラハウスとかサクラジェラートとか色々ありますね」
うちは、娯楽関連や建設、音楽やブランドといった、色々な事業に手を出している。そのほぼ全てで大成功を収めている。
「私はそんなことの長女で、あにぃは次男です」
「そうなんだね」
「気付いているかもしれないですけど、私とあにぃは家族仲が良くないです」
「やっぱりそうなんだね。何か理由があるの?」
「まぁ簡単に言ってしまうと、毒親ってやつなんですよ。クソ親父は、私達のことを都合のいい駒くらいにしか思ってないんですよ」
ははは……自分で言ってて悲しくなるなぁ。でもまぁ、事実だから仕方ないっか。
「えっと……お母さんの方は?」
「似たようなものですね。クソ親父が私達にしていることに何も言わないですし、同じ考えなんじゃないですかね」
「……そっか」
実際のところ、クソババアに関しては本当に何考えているのか、未だによく分からないんだよね。そもそも、あれ以来まともに会話した覚えがないな。
分かってるのは、私とあにぃのことを嫌ってるのは確かってことだね。と言っても、嫌っているのはお互い様か。
「
「あぁ……すいません。ちょっとぼーっとしてましたね」
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まぁ、そんな感じで、私とあにぃは親に嫌われているんですよ。好かれているのは、出来のいいクソ兄貴だけです」
「あ、そっか。アラタ君は次男って言ってたもんね。えっと、そんなに優秀な人なの?」
「えぇ、そりゃもう優秀ですよ」
ま、優秀ってことくらいしか、いい所がないクソ兄貴なんだけどね。それ以外は親譲りの毒人間だ。
「私達3人は、勉強や習い事を強制されてきたんですよ。そして、求められるのはどれもトップの成績です。私は運動とかはそれなりでしたけど勉強はからっきしダメでしたね。あにぃは、それなりにこなしていましたけど、まぁ平均より少し上くらいって感じでした。クソ兄貴は何をやってもトップの成績でしたね。模試では常に5位以内は当たり前、大会に出場全国すれば表彰される。そんな人です」
おかげで、私とあにぃはよくバカにされて、見下されていた。あーあ……思い出しただけで、イライラしてきた。
「優秀なクソ兄貴はクソ親父の後継者として扱われ、期待に応えられなかった私とあにぃは、どうでもいい存在として扱われました」
「そう、なんだ……」
「まぁ、私もあにぃもそうやって扱われた方がよかったんですけどね。勉強も習い事も辞められて、そこそこ自由に遊ぶことが出来ましたしね」
おかげで、ドラゴン達とも出会えて楽しくやれてこれた。だからまぁ、全てが悪いとは言うつもりはない。
「それなら何で、家出して来たの?」
「私の将来で揉めましてね」
「反対されたってこと?」
「そんなところです。普段は私達のことなんて、存在しないかのように放置しているくせに、こういう時だけ口出してくるんですよ」
どうせ放っておくなら、徹底的にしてくれればこっちも楽なのに。そういうところが余計にムカつくんだよなぁ。
「因みに風実歌ちゃんは何になりたいの?」
「声優です」
「おぉ! なら将来はアラタ君の作品に出る感じかな?」
「あ、いえ。声優は声優でもエッチなゲーム方のです」
「あぁ〜エロゲ声優ってやつだね」
「はい。トップ目指してます」
「なるほどねぇ。うん、いいと思うよ。応援するよ」
「ありがとうございます」
てか、意外と驚かないんだね。あにぃはちょっと驚いていたのに。さすが音葉さんだね。器が大きい。
「それでですね。このことをあにぃに相談したら、何とかしてやるって言って、クソ親父に電話したんですよ。そしたら、あっさり許可をもらってきたんですよね」
「え? アラタ君何したの?」
「それが分かったら苦労しないですよ……」
「だよね……」
はぁ……ほんと何したんだろう? とりあえず、私のために何かしらの犠牲を払っているのは、まず間違いないよね。
本当に私はバカだなぁ。あの場では何も考えず喜んじゃった。少し考えれば、あのクソ親父がすんなり許可する訳ないって分かるのに。
でも、今さらなかったことにしてって言っても、あにぃは絶対に譲らないだろうしな。あにぃは、私のためだったら躊躇わず自分を犠牲にする人だ。
やっぱりあにぃに相談するのが、いや、ここに逃げてきたこと自体間違っていた。また、私があにぃの重荷になってしまった。
「風実歌ちゃん?」
「あ、あぁ。すいません」
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まぁとにかくですね。私が言いたいのは、音葉さんが本当にあにぃのことが好きなら、ちゃんと見ててあげて下さい。そして桜木アラタって人間を知って理解してほしいです」
「うん。分かったよ」
「お願いしますよ。あ、因みに何ですけど、どうやら、あにぃに婚約者いるらしいですよ」
「は? ねぇそれどういうこと?」
「え、え? お、音葉さん……?」
え、ちょ……急に何? いきなり音葉さんがものすごい形相で、私の両肩を掴んできたんですけど……てか、力強っ。痛いって!
「詳しく、説明、して」
「い、イエス……マム……」
私は音葉さんの圧に若干ビビりながら、あにぃから聞いた婚約者について話した。その間、ずっと睨まれていました。いや、実際は目の悪い音葉さんが目を細めてただけなのかもしれないけど、それでも怖かったです。はい。ついで言うと、肩もずっと万力の如き力で掴まれたままだった。めっちゃ痛かったです。この手跡消えるかな?
「ふーん。なるほどねぇ……」
「ま、まぁ、あにぃも結婚する気ないっぽいですし、今のうちに音葉さんがあにぃを落としちゃえばいいんですよ!」
「出来るかな?」
「音葉さんだったら絶対大丈夫ですよ!」
多分ね。知らんけど。
「それじゃまぁ……ちょっと頑張ってみようかな」
「はい。応援してますよ」
「うん、ありがとね」
「いえいえ」
「それにしてもさ。風実歌ちゃんも結構ブラコンだよね」
「私、ブラコンじゃないですよ」
「いやいや、十分ブラコンだからね」
「違います。私はただ、あにぃの幸せを世界一願ってるだけですよ」
だから決してブラコンじゃないのです。はい。
「似た者兄妹だなぁ……まぁいいか。ね、他にも色々とアラタ君のこと教えてよ」
「もちろんですよ」
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