第25話 大晦日

 さてさて。突然だが、片付けってのは色々ある。例えば、部屋の片付けや食器の片付けとかあるな。

 そして現在、風実歌ふみかは片付けの真っ最中だ。

 ん? 何の片付けかって? そんなの決まってるだろ。冬休みの課題である。


「ほれ、手が止まってるぞ〜」

「あーもう! 無理限界疲れた!」

「そんな大声出せるなら、まだまだいけそうだな」

「あにぃの鬼ー! 鬼あにぃ!」

「そっかそっか。んじゃ節分にでも退治してくれ。ほら、そこ間違ってるぞ」

「うぅー」


 それにしても、風実歌のやつ冬休みの課題に一切手をつけてなかったとはなぁ。小学生じゃないんだから、毎日ちょっとずつ片付けておけばいいのに。


「大晦日に課題なんてやりたくない……」

「そう思うなら、来年は早めに終わらせとくんだな」

「別にまだ休みはあるんだから、今日やらなくてもいいと思います!」

「そんなこと言ってるから、最終日に泣くことになるんだぞ。それに今年中に終わらせとけば、課題のことを気にせず新年。迎えられるぞ」

「うぅ〜、その正論嫌い〜」

「文句言うな。わかんない所は教えてやるから」


 と言ってもこの量じゃ、夕方までかかりそうだな。まぁ読書感想文みたいな、どうやっても時間がかかるやつがないのが救いかな。


「やっほ〜、頑張ってる?」

「あ、音葉おとはさん」

「差し入れにエナドリ持ってきたよ。これ飲んで頑張って!」

「優しそうで全然優しくない!?」

「よかったなぁ。音葉も応援してくれるってよ」


 こりゃすごい。三大エナドリの他に栄養ドリンク。それに眠気覚まし用のドリンクとガムまであるぞ。これで怖いものなしだな。


「後どのくらい残ってるの?」

「問題集2冊だな」

「あ、これだね。ちょっと見せてね」


 音葉はそう言って、問題集を1冊取ってパラパラと流し見る。


「このくらいだったら、何とかなりそうだね」

「ん? そんな簡単だったの?」

「うん。そんなんではないと思うよ」

「ちょっと俺にも見せて」


 あ、本当だ。思ってたより、難しくないし問題の数も少ないな。確かにこれだったら楽勝だな。


「よかったな。これだったら意外と早く終わりそうたぞ」

「いやいや……そんなわけないって……」

「大丈夫大丈夫! いけるよ風実歌ちゃん!」

「あ、あの〜、もしかして、音葉さんって頭いい感じ?」

「う〜ん、どうだろ? でもまぁ、勉強で困ったことはないかなぁ」

「因みに音葉は、休み中の課題は最後まで貯めとくタイプ?」

「ううん。休みが始まってから2〜3日で終わらせてたよ」


 お? これは意外だな。

 勝手なイメージだけど、音葉は風実歌と同じで最後まで残していおくタイプかと思った。


「何か裏切られた気分……」

「にひひっ、残念だったね。私はこう見えて、課題は溜め込まない人なんですよぉ」

「うっそだぁ〜」


 うん。にわかに信じ難いな。ダメ人間の極みのような音葉が、課題をすぐに終わらせるとは思えないな。


「あ〜その顔、アラタ君も信じてないなぁ」

「まぁ普段の音葉を見てるとな」

「ひっどいなぁ。一応言っとくけどさ、私は結構勉強好きなんだよ。だから、課題とかは苦じゃないの」

「ねぇあにぃ。この人、音葉さんじゃないよ。偽物だよ」

「最近の風実歌ちゃんは遠慮がなくなってきたね……」

「気にするな。これが風実歌の素だから」

「なるほどねぇ」


 風実歌が素を見せてるってことは、音葉に心を許しているってことだな。


「因みにアラタ君は、課題は溜め込むタイプだったの?」

「いや、速攻で終わらせてた」

「だよね。アラタ君はそうだと思った」


 やっぱ課題なんてクソめんどくさいのは、早めに終わらせるのに限るよな。

 俺から言わせれば、何で最後まで残しとくのか理解出来ない。


「あ、風実歌ちゃん。そこ間違ってるよ」

「ここも間違ってるぞ」

「お、鬼が増えた……」


 ――――

 ――


「はーい。風実歌ちゃんお疲れ様〜」

「本当に疲れました……」


 夕方の5時前に風実歌の課題が終わった。俺と音葉の2人で、風実歌に教えていたから思いのほか早く終わらせることが出来たな。

 それにしても、音葉って意外と教えるのが上手いんだな。多分、俺の説明より分かりやすかったと思うぞ。意外な特技発見だな。


「さてと、んじゃ飯の用意でもするか。音葉、何か食べたいのある?」

「そうだねぇ。私はピザがあればいいかなぁ」

「風実歌は?」

「私は年越しそばが食べられればいいかな」

「んじゃ、夜はピザの出前でも頼むか」


 ま、俺も今日は料理するは、ちょっとダルかったし丁度いいな。


「んにゃあ〜」

「はいはい。お前の飯だろ?」

「にゃ」


 ったく、この猫は……飯の話をするとすぐに寄ってくるんだから。そんなに食い意地張ってると、あっという間にデブ猫ホームズになっちまうぞ。


「んにゃ!」

「へいへい。悪かったよ」


 こんにゃろ。人の心を読みやがって。いや、ホームズだから推理したのかな? まぁどっちでもいいか。


「ほれ、お待たせ」

「んにゃあ〜」

「しっかり食えよ。デブ猫ホームズ」

「にゃ!」


 いってぇ……また引っかかっれた。こいつ、マジで人間の言葉分かんのか? 不思議だな。

 そうだ。今度、猫を題材にした小説書いてみるのもアリだな。人間の言葉が分かって、喋る猫が活躍する話とかいいな。


「アラタ君は何食べる?」

「俺は何でもいいよ。風実歌と2人で決めてくれ」

「了解〜」


 ――――

 ――


 ―音葉視点―


「おーい。アラタ君〜」

「……」

「あにぃ起きそうにないですね」

「だねぇ」


 出前で頼んだピザを食べながら、コタツに入って年末特番を見ていた私達だったけど、気が付いたらアラタ君は、ホームズと一緒に寝てしまっていた。


「もう少しで年が明けるのに」

「まぁ、あにぃも疲れているんですよ。寝かせてあげましょうよ」

「それもそうだね」


 でも、せっかくみんなで初詣に行こうって話をしてたのになぁ。ちょっと残念。


「音葉さん。年越しそばどうします?」

「あーどうしよっか。本当だったら、アラタ君が作ってくれるはずだったもんね」

「寝ちゃってるから無理ですね」

「因みに風実歌ちゃんは作れるの?」

「いやぁ……私、料理苦手なんですよね」

「へぇ、意外だねぇ」


 アラタ君が出来るから、てっきり風実歌ちゃんも出来るのかと思ったんだけどな。


「あにぃがやらせてくれなかったんですよね。危ないからって言って」

「なるほどねぇ。確かに言いそう。アラタ君、シスコンっぽいもんね」

「本人は頑なに認めないですけどね」


 でもまぁ、こんな可愛い妹ちゃんがいたら、シスコンになっちゃうのも分かるなぁ。なんて言うか、風実歌ちゃんって守ってあげたくなるオーラが、すっごい出てるんだよね。


「仕方ないんで、年越しそばは明日あにぃに作ってもらいましょう」

「そうだね」


 こんなに気持ちよさそうに寝ている、アラタ君を起こすのはちょっと可哀想だしね。


「ねぇ音葉さん」

「うん? 何かな?」

「一緒にお風呂入りませんか?」

「はい?」


 ――――

 ――


 ―風実歌視点―


「ちょっと狭いですね」

「流石にねぇ」


 体を洗い終わった私達は、向かい合って湯船に浸かっている。

 それにしても、本当に音葉さんってスタイルいいなぁ。特におっぱいが大きい。


「ん? じろじろ見てどうしたの?」

「いやぁ、なかなかいい体してるなって思いましてね」

「わぁ〜、すっごいセクハラ発言だねぇ」


 おっとと。いけないいけない、つい本音が。


「それで? 急に一緒にお風呂なんてどうしたの?」

「音葉さんと2人っきりで、色々とお話したいなって思いましてね」

「なるほどねぇ。いいよ。私も風実歌ちゃんとは仲良くなりたかったしね。お話しよっか」

「ありがとうございます! じゃあ早速質問いいですか?

「うん。いいよ〜」

「音葉さんって、あにぃのこと好きですよね?もちろん恋愛的な意味で」

「うえっ!?」


 お? おぉ? これはこれは……思ったよりも可愛い反応だなぁ。顔まで真っ赤にしちゃってるよ。

 いつもヘラヘラ〜ってしているから、何か新鮮だね。


「い、いきなり、だねぇ……」

「まぁ大事なことなんで。えっと、その反応でだいたい分かったんですけど、好きでいいんですよね?」

「う、うん……まぁね」


 わぁ〜、どうしよう。恥ずかしそうにモジモジしていて、音葉さんめっちゃ可愛いんですけど!

 すんごいキャラブレしてるけど、可愛いから許せちゃうよ!


「風実歌ちゃん、気付いていたの?」

「まぁ、私はあにぃの妹ですからね」

「それ関係ある?」

「さぁ、どうでしょうね?」


 まぁ……音葉さんがあにぃのことを好きだってのは、見てればすぐに分かるんだけどね。

 それに気付いてないっぽいけど、あにぃのこと好き好きオーラ出まくってるんだよねぇ。


「あ、そうだ。1つ確認何ですけど、音葉さんって結局あにぃとやったんですか?」

「やったって?」

「セックスですよ」

「あ、あぁ……それね……」

「どうなんですか? セックスしたんですか?」

「いや……してない、です……」


 なるほどね。つまり、あにぃはまだ童貞なんだ。はぁ……あにぃほんとに何やってんのかなぁ。ラブホで出会って一緒に住んでいて、こんなエッロい体をした人を放っておくなんてさ。

 妹としては少し心配ですよ。


「因みに何だけど、私とアラタ君が結んでいるダメ人間契約について、風実歌ちゃんはどう思ってるの?」

「うーん。別にいいんじゃないですかね」

「あ、そうなんだ」

「意外ですか?」

「ちょっとね」

「まぁ、あにぃが決めたことですから。だから私は特に文句はないですよ」


 と言っても、流石に最初は驚いたけどね。

 あの女関係に奥手なあにぃが、随分と思い切ったことしたなぁって感じかな。


「じゃあ風実歌ちゃんは、私達のこと反対してない感じなの?」

「そうですね。反対は全くしてないです」

「にひひ、それを聞けてよかったよ」


 数日、音葉さんに接して分かったけど、音葉さんは信用出来る。人としてと好ましいし、私個人としても気に入っている。

 だから音葉さんにだったら、あにぃのことを任せてもいいと思う。

 でも、その前に音葉さんには知ってもらわないといけないことがある。


「音葉さん。聞いてほしいことがあります」

「何かな?」

「私とあにぃの家族のことです」

「それ私が聞いてもいいの? アラタ君は話そうとしなかったよね?」

「ですね。でも、私は聞いてほしいです。そして話を聞いたうえで、今後のあにぃとの付き合いを考えてほしいです」

「……分かった。聞かせて」

「ありがとうございます。あ、でも今から話すことは、あにぃには内緒にして下さいね。じゃないと私、あにぃに怒られちゃうので」

「了解」

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