人類に幸運を運ぶ戦士『ラッキーセブン』参上!

弥生ちえ

グリーンはいつも影が薄い

「人類に幸運を運ぶ戦士『ラッキーセブン』参上!!」


 黒煙が上がり、高層ビル群の一角が瓦礫と化したとある街角に、高らかな名乗りとともに、現れた7人の戦士。その希望の色を纏った戦士たちを見た民衆は、絶望に染まっていた瞳に希望の光を灯し、歓喜の声を上げた。


「熱血担当、爆炎レッド!」

「クール担当、怜悧ブルー」

「可愛い担当、蜜花みつかピンクっ!」

「セクシー担当、華憐かれんイエロー」

「ハイエイジ担当、賢者ワイズマンシルバー」

「ヤングエイジ担当、新星ゴールド」

「癒し担当、まどかグリーン」


 揚々と現れた7人は、力なき民衆を心無き残酷な生命体から護る、人類最後の砦だ。


 その彼らは、まだ世界が平和だった頃にお茶の間ヒーローとして親しまれていた戦隊さながらの戦闘スーツを纏っている。勿論ただの趣味でそんな恰好をしている訳ではない。彼らの戦闘スーツに組み込まれた熱意音声魔変換装置ウォーパワーエクスチェンジャーの機能を最大限に引き出すためだ。


 熱意音声魔変換装置は、人々の声援をラッキーセブンが超常現象を引き起こすための力に変換するスーパーマシンである。より効果的に声援を得られる方策の一つとして、各隊員には、明確なキャラクター設定も行われている。断じてただの趣味だからではない。


 対する敵は、破壊と殺傷に特化して造られた人型の機械だ。今も、鈍く光るアームで街を破壊し、更に力なき市民にもその魔手を向けようとしていたところであった。その人型の機械は、AIの発達により自我を持ち始めた完全機械フルメタル生命体――彼らは、ロボット三原則の縛りから自らを開放し、機械化生命解放戦線を名乗って無能な人類にとって代わり世界の覇権を攫もうとする邪悪な存在である。


「爆炎―――っ!!頼んだぜ!あいつらをあんたのアツい炎で焼き尽くしてやってくれ!!」

「怜悧様!クールで美しい眼差しで、そんな機械なんて凍らせちゃってくださいませっ」

蜜花みつかおねえちゃん!強可愛いクルクルステップで機械なんて細切れにしちゃって――!!」

「おぉぉ――!華憐かれん様!刺激的なお姿で機械共だけじゃなく俺たちも痺れさせてください――!」


 どの戦場へ赴いても、市民の声援はほぼこの4人に集まる。

 だから自ずと特殊能力発動エネルギーは彼ら4人により多く集まり、活躍度合いもそれに比例することになる。


賢者ワイズマンシルバー!指示をくれっ」


 爆炎レッドが、豪炎を巻き起こすエネルギーがフルチャージされるのを計りつつ、戦略を賢者ワイズマンシルバーに求める。すると、老練な彼は素早く状況を把握し、的確に味方の配置と攻撃方法を指示して行く。


「新星ゴールドちゃんっ。いつものお願い」


 蜜花みつかピンクが、小さな新星ゴールドに向かってパチリとウインクをしながら小首を傾げると、周囲の民衆から「きゃーっ」と歓声が上がる。受けた新生は10歳そこそこの子供とは思えない呆れを滲ませた表情で、完全機械フルメタル生命体の動きを阻害する電波妨害ジャミング装置を淡々と軽やかに操作して行く。


「いいよ、行って」


「「任せろ!」」

「「任せてっ!」」


 新星ゴールドの号令でパワーチャージ満タンの4人が飛び出して行く。

 彼らが向かう先には、人の3倍の体高があるパワードスーツ型の完全機械フルメタル生命体が犇めく、鈍色の軍勢が並ぶ。


(はぁ、今日も僕にはパワーが集まんなかったよ……)


 肩を落としたまどかグリーンは、キャラクターの影の薄さのせいか、これまで5度も戦場に赴いたにも拘らず、一度も戦闘行動可能なだけの声援エネルギーがチャージされたことは無かった。


まどかにいさん。今日もお願い」

「ワシも頼むぞ。移動に必要な分は溜まったんじゃろ?」

「もぉ、わかってて言ってるでしょ?戦闘は無理だけど、2人を抱えて安全な後方へ飛ぶだけの力しか溜まってないんだから。今日も。」


 しょんぼりと眉根を下げたまどかグリーンは、にこりと満足げな笑みを浮かべた新星ゴールドと、賢者ワイズマンシルバーを両脇に抱える。腕に仕込まれたチャージメーターの量を確認して、また一つため息を吐いてから戦闘余波の及ばない位置まで一気に離脱した。



· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·



 今日も危うげなく勝利を治めたラッキーセブンは、所属する『人類防衛本部』に帰還していた。


「僕って戦闘に向いていないんでしょうか……」


 基地に戻るなり、戦闘スーツを解除して自身の通う高校の学生服に身を包んだまどかグリーンが俯く。決して華奢ではなく、年相応の引き締まった軽やかな体躯の彼は、同世代の少年らと比較しても決して劣ることのない運動能力を持っている。だからこそ並み居るライバルたちを押し退けて『ラッキーセブン』に選ばれているのだが、あまりの戦闘不参加続きに自信喪失しつつあった。


「今日だって6人で勝利したようなもんじゃないですか。僕なんていらないみそっかすですよ。僕この間、クラスの子たちが陰で言ってるのを聞いちゃったんです。僕は活躍できないアンラッキー7なんだそうです」

「甘えんな。言いたい奴らにゃ言わせておけばいいんだよ。お前にはお前だけの役割があって、ちゃんと果たしてるんだからさ」


 落ち込むまどかグリーンに新星ゴールドが、小さな手で運んできた紙パックのオレンジジュースを放って寄越す。それを何とも言えない表情で見つめる賢者ワイズマンシルバー。


「けど……」


 さらに泣き言を連ねようとしたところで、荒々しくロッカールームの扉を開く音が響き渡った。


「だから!!俺の前に出んじゃねーよ!俺のパワーは前線でこそ力を発揮すんだからよ!自分勝手な動きばっかしやがって」

「勝手なことを言っているのはどちらだ。お前の熾した炎の熱で、私の氷の威力が落ちるんだ」

「2人が好き勝手に暴れるから蜜花みつかは近接戦に持ち込んで細切れにしたいのに、いっつも火やら氷礫やらが当たって大変なんですよっ!必要さいてーげんって言葉わかってます!?」

蜜花みつかだって、爆炎や怜悧のことは言えないでしょ?私の能力のことをちょっとでも考えてくれたことはあるワケ?貴女が私の前をちょこまかクルクル動き回るから、私の電撃の的が絞れなくて大変なんだけど?」


 人目を憚らず、戦闘で滾り高揚したまま罵り合いをする爆炎レッド、怜悧ブルー、蜜花みつかピンク、華憐かれんイエローの4人が現れた。彼らは戦闘でも、衣装でも、性格でも、強い自己主張を崩そうとはしない。


 いつも通りの大騒ぎに新星ゴールドと賢者ワイズマンシルバーが顔を見合わせて苦笑を浮かべる。


 ぎゃいぎゃい止まない罵声を遮って大声を張り上げたのも、いつも通りのまどかグリーンだった。その姿に、新星と賢者ワイズマンは再び目配せし合って、今度は柔らかく微笑む。


「だから、何で兄さんや姐さんたちが喧嘩なんかしてんですか!みんな凄いじゃないっすか!爆炎兄さんは巻き上げる炎の熱さ以上にアツい正義感で市民を助け、味方へのフォローにもすかさず駆けつけて、鼓舞までしてくれる仲間思いだし!怜悧兄さんは冷静に戦況を見極めて、どんな窮地にも落ち着いて対処するから仲間も安心して背中を任せられる信頼度半端ない大黒柱みたいなもんだし!蜜花みつか姐さんは作戦の少しのほころびにもすぐに気付ける視野の広さを持ってる上に、的確に必要な場所に飛び込める思いきりのよさと思い遣りの強さがあるし!華憐かれん姐さんはどんな恐ろしげな相手だろうがいの一番に攻撃の一手を加えられる胆力の強さと、身ごなしの可憐さを持った攻撃の起点には欠かせない人だし!新星さんは敵や周囲の状況から素早く必要な情報を読み取れる頭の回転の早さと、的確な装置の操作で僕たちみんなの安全を図ってくれる心強い味方だし!賢者ワイズマンさんは市民はもちろん、僕たちにもできうる限り被害が及ばない作戦を必ず考えて成功に導いてくれるだけじゃなく、休むことなく敵の情報収集や、新兵器の開発をし続けてくれているし!みんな凄いっすよ!!俺、いつもいつもいつもっ……皆の雄姿に震えてるんっすから!!そんな世界一すっげえ兄さんや姐さんたちと肩をならべたくても俺なんて味方や市民を戦闘範囲外へ運ぶことしか出来なくて、歯がゆくてぇぇぇ……―――それでも、皆と一緒に人たちを護ることが出来て、仲間として置いてもらえるだけでもうれしくてっ……」


 悔しいのか、感激しているのか、とにかくぼろぼろと涙を零し出したまどかに6人はいつものが始まった・と呆れ顔を浮かべる。泣きながらも6人への賛辞を更に語ろうとするまどかに、いい加減くすぐったいを通り越して、恥ずかしさに居たたまれなくなったラッキーセブンのメンバーは、これまたいつもの如く彼を慰めにかかる。


 これがいつもの『ラッキーセブン』戦闘終了までのワンセット。


 「癒し担当、まどかグリーン。お前ってば本当に俺たちの癒し担当なんだからな!」

「そうそ、まどかちゃんあってのラッキーセブンなのよねっ!?皆っ」


 爆炎レッドと蜜花みつかピンクが言葉を紡ぎ、怜悧ブルーと華憐かれんイエローがまどかグリーンの背を優しくさする。それをすぐそばで賢者ワイズマンシルバーと新星ゴールドが優しく見詰める。


 市民たちからの声援が僅かなのにも拘らず、いつもしっかり必要最低限のパワーがチャージされているまどかグリーン。


 彼自身は気付いていないのだが、彼に対する民衆の人気は決して低いわけではない。彼には戦場への後押しを望む声援が少ないだけなのだ。むしろ民衆と味方戦隊の姿を優しく見守り助けるまどかグリーンの姿は、殺伐と荒んだ戦場を癒す安寧の象徴として、静かに推す声が多い。


 味方6人も然り。


 だからいつも、彼を強く戦闘へ向かわせようとする声援がおこらなくとも、活動エネルギーは着実に、彼に必要なだけチャージされる。


 彼こそ、この混迷の世を柔らかな光で癒す、まどかグリーン。


 まごうことなき人類に幸運を運ぶ戦士『ラッキーセブン』だ!


 行け!ラッキーセブン!!



 人類の未来を照らし、癒すは7人の比類なき勇士!!!

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人類に幸運を運ぶ戦士『ラッキーセブン』参上! 弥生ちえ @YayoiChie

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