第28話 13時04分 復讐
「お゛――おがじい゛だろォ! ふざげやが――……」
空になった腹部を抱えながら白スーツは息絶える。
鼻と喉に絡みつく異臭で、込み上がった胃液を無理やり飲み込んだ。
僕は殺人犯じゃない……僕が
僕が今ここにいるのはルネ姉を殺した犯人に対する復讐のためだ。
そのために……全てを捨てて覚悟を決めてきたのに……この体たらく。
自分が情けなくて消えてしまいたい……。
でも……どんなに情けなくてもどんなに惨めでも……必ず犯人を殺す。
そのためなら……無関係の
僕はこの行為に正義を掲げる気は一切ない。きっとこの行為を聞いたらルネ姉は胸を痛めることだということも理解している。
なんの罪滅ぼしにもならないことだって分かってる。
とても優しい子だったから……。
だからこれは僕個人の思いであり、最低の我儘なだけだ。
最低な男が、最低の殺人者を殺すだけのどこにでもありふれた話だ――
そしてこの白スーツは犯人じゃない。
犯人だったら僕を殺人犯と勘違いするわけもない。
でも――僕が
僕は臓物のぶちまけられた床から目を離し、ハンドガンそして白スーツが持っていた僕自身の
このゲーム用のハンドガンはチャンバーチェックは必要ない。マガジンの弾数を数えれば残弾数が分かる。
残弾は19発。
僕に向けて撃っただけのようだ。そして僕は弾がかすりもしていない。
この幸運はきっとルネ姉が僕を守ってくれた? いや、
ゲーム前にも説明があった通り武器は他人を傷付けた瞬間にその人以外に利用することはできなくなる。
そしてそれは死体などを撃ってしまった場合も同様だ。
武器を使えなくするために撃たせるやつも過去の配信では存在していた。
弾だけの補充はできないので、これで僕も他の
白スーツが余分に持っていたハンドガンも確認すると、背中のポーチにしまい込んだ。
僕は白スーツに当てたスリングショットを丁寧にロッカーの上に置いた。
もうこれは使うことはできない。
牽制にはなるが、万が一当たってしまったら最後だ。
でも……これで時間を稼げていなかったらハンドガンで押し切られていたかもしれない。ほんとにありがとう。
少しだけ目を瞑って感謝を示した。
更衣室の入り口からジム内を覗き込む。
かなり騒いだので他の人間が集まっていてもおかしくはない。
慎重に覗いて見たところ、人影は見当たらないが先ほどのこともある。
僕は最初にそうしたように腰を落とし壁沿いにジム内を進んでいった。
遠く……階下だろう。吹き抜けから銃声が聞こえてくる。
1階でもやり合っているようだけど……この音ってハンドガンじゃなくてショットガン……?
銃器に詳しいわけではないが、配信で散々聞いた音だ。
ハンドガンを入手した今なら吹き抜けからエントランスの人物を狙うことができるが、2階の吹き抜け部分は遮蔽物が何もない。
先にジムに併設されているマッサージルーム側を確認しよう。
1階のレストランへの通路ほどではないが、ここも景観を楽しむためのガラス張りの一本道だ。
しばらく通路の先に目を向けて見るが動きはない。
ハンドガンを前に構えながら、足音を立てないようマッサージルームへ進む。
扉が開きっぱなしだ……
警戒しながら扉の影まで近寄った時、何か衣擦れにも似た音を微かに感じ取った。
扉に張り付き内部の音に集中する。
マッサージルームのタオルケットを引きずっているのだろうか。
僕は扉の端ぎりぎりまで移動すると首を伸ばし扉の中を覗き込んだ。
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