第27話 12時47分 賭け

 落ち着け! 落ち着け!! 大丈夫だ!

 僕の個人名は事件に出ていない。

 だから結び付ける材料なんてないんだ!


「え? 何言ってるの? 僕がわざわざ自分の事件を日記代わりにSNSにでも書いてるとでもいいたいの?」


 大丈夫。バレる要素なんて――


「秩父19歳女性絞殺事件。被害者は『詩布うたの 香夜かよ』。はぁ……可哀そうにねぇ……」


 ――なん……で? なんで?


「おいおい。沈黙ってもう答え合わせじゃんかよ~!」


「――なっ!! 何を根拠にそんなことを!!」


 僕は思わず立ち上がり叫んでしまった。

 ダメだ! 反応するな! 認めろ……あいつのほうが口が立つ。ほんとに……これ以上は……――ッ!!


「根拠とか言う時点でダメじゃね? まぁいいや。だってお前没収される前の履歴ほぼこの事件ばっか追っかけてんじゃんよ。こんなん誰でも気がつくわ」


 嘘だ!! 履歴は消してるはずだ!! 自首シグナルを出す前に全て消去したんだ!!


「ちなみに履歴とかは復元されてからゲームに使われるからな? その様子だと知らなかったみたいだけど。じゃないとフェアじゃないからね~! 複数薄型情報端末カード持ちも無駄。1個の薄型情報端末カードにご丁寧に集約されます、と。これコンシェルジュから聞いた話ね――って、うおっ!!」


 僕は白スーツが体を乗り出してきたところを、なりふり構わず撃った。

 怯んだところでロッカーの影から僕は身を乗り出し、右手に玉をだし連続で撃つ。

 相手がムキになって構えた拳銃にたまたま命中し、拳銃がロッカーを挟んだ奥へ弾き飛ばされた。


 ――このチャンスを逃すな!! 


 僕は背中のフライパンを握り駆け寄ろうとした時。

 白スーツが背後に回していた腕が僕に向けられ、その手には同じ形のハンドガンが握られていた。


「まぁバカな視聴者が多くてちょろかったわ。おかげで300万。ハンドガン3丁購入できたってわけ」


 一足飛びでは詰められないと判断した僕は咄嗟にロッカーの影に身を隠す。

 落としたハンドガンはここからでは拾いに行くことはできない。


「でも~よくよく考えたらお前に使うのもったいないわ。何があるかわかんねーし。武器は多いに越したことはねーからな。だから……お前ハラワタぶちまけてくれな」


 男の声色トーンが明らかに下がった。

 告発をする気だ――

 相手がハンドガンを構えている以上、僕は一か八かの賭けにこの身を委ねるしかない。


「告発。対象はねずみアバター。こいつの犯した罪は殺人罪」


 感情を捨てた無機質な声が更衣室に響き渡り、ほぼ同時に鈍く低い爆発音が鳴った。




 そして僕は――



「げぶっ……!! お゛ぶぇ――ッ!? な゛……な゛んで俺がァアァァア!!」



 一か八かの賭けに勝ったんだ。

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