第26話 12時00分 本番
フライパンを背中のスポーツポーチとの間に差し込むと、スリングショットに玉を挟み込みながら屈む。
壁伝いに一歩。また一歩とジム内を進んでいく。
ジム内を散策して誰もいなければ2階の吹き抜けからエントランスを確認する予定だった。
だが、曇りガラスの向こうに人影を発見した僕はすかさずエアロバイクの影に身を隠した。
バイクの隙間からもう一度確認するが、人影が見当たらない。
僕の鼓動が明らかに一段加速した。
どこだ――どこにいる。
瞳を左右に動かし確認するも静寂を保たれた空間しか見えない。
かと言って動けば見つかる可能性も……
うずくまり思考を放棄したい衝動に駆られるがもう泣き言は止めだ。
僕は隣に見えるペンチプレス台の横に積み上げられた、バーベルの影に視線を流す。
一度思い切り瞼を閉じ意を決して、バーベルの影へ飛び込む。
と同時に影から顔を出し辺りを確認する。
いない……どこなんだ。
ジムに入らず素通りしたのか?
少し気を抜いた時、ダンベル棚の奥に人影を捉える。
正確に言えば白いスーツのような物が見えたのだ。背中側が見えているため、強制付与の尻尾はベルトのような形になっており、アバターに合わせた尻尾ということだろう。似合わなすぎる。
背後から尻尾を握るより、僕は進んだ先で出て来たところをスリングショットで狙い撃ちにするべくバーベルの影から身を乗り出した。
もう迷いなんて捨てろ……!
僕がスリングショットを引き絞り構える。
もう少し……もう少し進め……
ダンベル棚の端まで移動したまま動きを止めた白スーツ。
じれったい時間が過ぎつつも僕は姿勢を崩すことなく狙い澄ます。
だが――
白スーツは端から移動する際に転がるように飛び出て来た。
僕はその動きに反応してしまい、鉛玉を撃ち出す。
奥の曇りガラスにヒビを入れた時、白スーツも僕の姿を捉えた。
お互いバーベルの影とダンベル棚の影に身を隠す。
ビビるなッ!! ビビったら死ぬのは僕だぞ!!
積み上がったバーベルの横からそっと顔を覗かせる。
すると、渇いた銃声と共に明後日の方角のエアロバイクに銃弾が撃ち込まれた。
――こいつハンドガン持ってやがる……
さらに鼓動を早める僕の体。
下手な跳弾でも食らったら致命傷だ。
僕は開始まで隠れていた更衣室に目を向けた。
距離はあるが、滑り込めばいける……!! 後手に回るな!!
中腰の姿勢から飛び出すように更衣室へ走り出した。
その時背後から。
「おい! 逃げんなや!! アマオ!!」
――なんでバレてるんだよ!?
僕はあらん限りに見開いた目を背中越しに向けるも、そのまま倒れ込むように更衣室内へと滑り込んだ。
さらに奥へ走りロッカーに背中を預ける。
すると更衣室の入口から声が響き渡った。
「くははっ!! 見~つけた! なんでバレてるかって思っただろ? ちげーから。出会うやつ全員に同じこと言って反応みてたんだよ! 振り向くやつはいたが、あんなに咄嗟に振り向いたのはお前だけだったぜ~?」
「何言ってんの?
僕は動揺を悟られないよう応戦を試みるが、
「あ~正解! 当人じゃなかったらわざわざ否定しねーから――なッ!」
僕はバカか――ッ! 脊髄反射なんて自白してるようなもんじゃないか!!
苦し紛れにスリングショットを放つ。
「うお!! てんめー……!! ……な~んてな。おい。告発しないでやっから出て来いよ。腹が爆発するより頭撃ち抜かれるほうがマシだべ?」
「僕の罪を知らない癖に何いってんのさ」
主導権を握らせちゃダメだ――ッ!! 僕のような人間が優位を握られたら動揺さえも望むことができなくなる。
武器で劣っていてもせめて精神的に上にいなくちゃ……!!
「いや、分かる分かる。だってこれお前の
僕が横から覗き込んだ先。
更衣室のドアから手だけ出した白スーツが握っていた物。
見間違えるわけもない。
それは紛れもなく僕の
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