3.第2のプロローグ編

Mission17 努力は継続なり

「文那ちゃん!! 音宮くんと付き合ったんでしょ!? どーして僕に教えてくれなかったの!?」

「声が大きいですわ!!!!」


 副会長に大声で問われたので、すかさずわたくしはそれを上回る大声で返しました。慌てて辺りを見回しますが、誰もいません。……どうやら、他の生徒がいないタイミングを狙い、話しかけてくださったご様子……わたくしはホッと息を吐きましたわ。


 目の前には、至近距離でこちらを見つめてくる副会長の姿が。その姿に気圧されつつ、わたくしは冷静に返しました。


「……1つ! わたくしは貴方の連絡先を存じ上げません。1つ! 貴方は副会長でお忙しいご様子。1つ! お付き合いしたといっても仮ですから、わざわざ忙しい貴方を引き留めてでもするような話ではないと判断しました。以上ですわ!!」

「ええ、忘れてただけでしょ」

「……貴方がそう思うのなら、そうかもしれませんわね?」

「げーっ、ヤな感じ」


 舌を出す副会長にわたくしは、ふふふ、と返します。こうして言い合いが出来るのが、なんだか楽しく感じられたからです。


 すると副会長も、つられたように笑い始めました。豪快に口を開き、楽しそうなご様子です。


「……ところで、何故わたくしと音宮先輩が付き合ったと……そう、分かりましたの?」

「なんでって」


 わたくしが尋ねますと、彼女はキョトンとしたご様子で。


「君たちから幸せオーラが漂ってるから?」

「……抽象的ですわね」

「厳密に言うと、君に精神的な余裕が見えるようになったから……かな」

「なるほど……納得出来ますわ」


 副会長の話を聞き、わたくしは頷きます。確かにここ最近は、自分でも分かるくらい、精神的な余裕が出ていると感じていますわ。



 音宮先輩と仮のお付き合いを始め、今日で2週間。


 あれからわたくしたちは週に3、4度、放課後に落ち合っています。というのも、音宮先輩の異能力を使い、わたくしが安眠を手に入れるため。


 放課後、保健室で少しだけ会話をした後、音宮先輩の異能力を使ってもらい、わたくしは眠る。その間に先輩は仕事に赴く……。そして先輩の仕事が終わりましたらわたくしを起こしに来ていただき、そのまま校門まで一緒に帰る……そんな生活をしております。


 そのお陰でわたくしの頭は、以前より鮮明としております。異能力の精度も上がっているのを感じましたし、何より、気分がとても良いのです! 人に理不尽に怒ってしまうことも、なくなりましたわ。


「『氷の女王』が2週間も怒らないだなんて、嵐の前の静けさか!?」だなんて言われているようですけれど、あともう2週間もすれば、そんな噂も消えるでしょう。


 わたくしはようやく、普通の学生らしい生活を送ることが出来ているのです!! ……音宮先輩には、本当に感謝ですわ。



「はいはい幸せそうで何より」

「何ですの、その反応は……」

「いや、甘くて胸焼けしそうだなー、って」


 副会長は何だかよく分からないことを言っているので、わたくしはそれ以上何も言わないことにしました。


 ところで音宮先輩との待ち合わせが迫っているので、そろそろ向かいたいところでした。ここから立ち去る申し出をしようと口を開くと同時、彼女が「あ」、と言います。


「そういや僕も、次期生徒会長に打診されて、呼ばれてるんだった」

「早く行かなければいけないものではなくて!?」

「だね~、いやぁ、君から早く話を聞きたくて、すっかり忘れてたぁ」


 なんですのそれ……こっちの心臓がバクバクしていますわ……。これでもし彼女が約束の時刻を破れば、わたくしが負い目を感じてしまうので、遠慮したいところですわ。


「じゃ、どーぞお幸せに。これは僕からの餞別っ!!」

「ッ!?」


 すると彼女はパーカーのポケットから、何かを取り出し……わたくしの口に、押し込んできました。しかしそこに乱暴さはなく、むしろ優しい手つきで……いえ、それよりこれは……飴?


 何味でしょう、と考えている間に彼女はいなくなっていましたので、わたくしも先輩の元へ向かうことにしました。





 保健室に辿り着くと、そこには既に音宮先輩の姿がありました。いつも通り、さゆり先生に声を掛け、隣の応接室に入ります。小さな部屋ですが、2人きりで話すには絶好の場所ですわ。


 あ、ちなみに、保健室でこうして会うことは、さゆり先生からの許可は貰っていますわ。でないと業務妨害になりかねませんからね。


「氷室さん、少し遅かったね」

「あ、すみません……副会長に捕まってしまい……その、音宮先輩と付き合ったことをどうして教えてくれなかったのか、と……」

「ああ……それは災難だったね……。あれ、でもあいつ今日、会長に大事な用で呼び出されたー、とか言ってたような……」

「ええ、なんでも、次期会長の打診があったとか。わたくしと話した後、そちらに向かっていましたわ」

「はは、あいつらしい」


 そんなことを話しつつ、わたくしたちは机を挟み、向かい合ってソファに腰かけます。そして座ると同時、わたくしは持っていたバッグからあるものを取り出し……。


「音宮先輩、こちら、どうぞ」

「え……あ、これ、パウンドケーキ?」

「はい!」


 音宮先輩の言葉に、わたくしは頷きます。

 そう、わたくしが渡したのは、パウンドケーキ。手作り感が満載なのは否めませんが、美味しく出来ていますわ!


「……もしかしてこれ、氷室さんの手作り?」

「……いえ、実は違うのです……」


 痛いところを突かれ、思わずわたくしは目を逸らしました。……思い出すのは、昨日さくじつのこと。


「その……初めはわたくしが、自分で作ろうと思ったのです。しかし、お菓子作りはどうにも難しく……結局、メイドに手伝って貰い、こうして……」

「ああ……そういうことか」


 音宮先輩は笑ってくださいます。顔を上げると、彼と目が合いました。


「……俺のために作ってくれようとしたんだよね。……ありがとう」

「……はい!」


 元気に返事をしつつ、わたくしは内心、ほくそ笑んでいました。


 ……『料理で家庭力をアピール! でも出来ない子は、それを正直に伝えて、ドジっ子ちゃんをアピールしちゃおう♡ どっちに転んでも結果オーライ!』……成功ですわ。


 ええ、わたくし、音宮先輩と付き合うことが出来て、いつまでも浮かれてなどいませんよ? きちんと、好きになってもらうための努力をしております。こうして頭の中の恋愛指南書を捲り、実践に移しております。


「じゃあ今度、一緒にお菓子作りしようよ」

「え!? 音宮先輩……料理、お上手なんですか?」

「上手かは分からないけど……人並みには出来ると思う」


 まあ、なんたること! また音宮先輩のことを知り、惚れ直してしまいますわ!

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