第7話 脅迫
リオはキャッキャと楽しそうに素手で雪を丸めては空に放り投げる。先輩はサッシの縁に腰かけてその姿を眺めている。
僕もその隣に座った。
「一緒に遊ばないんですか?」
「雪つめてぇもん。お前がしろよ」
僕はふふっと笑って、先輩の青白い顔を眺めた。
「先輩、聞いていいですか?」
「なに?」
「あいつが言ってた、もらえるモンって何なんですか?」
「ああ、児童扶養手当とか児童手当だよ。児童扶養手当は一人親家庭がもらえる手当で子供一人に対して月に4万円から5万円ぐらい入るんだ。児童手当は子供一人につき1万円かな。それに加えて俺が毎月払ってる養育費5万円。合わせて10万ぐらいが毎月何もしなくてもあいつらの手元に入るってわけだ」
「もしかして、そのためにリオを……」
「そういう事」
なんて奴だ。と思ったが、不思議と僕の気持ちは穏やかだった。
手当だけもらって、リオの世話をする必要がないのだから、向こう側にとってはこの上ないいい話じゃないか。僕たちはリオと三人で暮らしたい。手当なんていらない。お互いにとってウィンウィンだ。
「僕、飲食店じゃなくてもいいから仕事、ちゃんと探します」
「サッカースクールはどうするんだよ」
「継続できる仕事が理想ですよね」
「まぁ、あんまり無理するな。リオはもう俺たちの手元にいるんだ。毎日一緒にいられるんだし、サッカーなら俺とお前で教えてやればいいよ。あのスクール月謝も高いからさ。やめさせてもいいよ」
「でも、せっかくリオ頑張ってるから、続けさせる方向で仕事見つけてみます」
「そうか。お前に任せるよ」
僕はその返事を聞いた後、立ち上がり素手で雪玉を作った。
「リオー、行くぞーーー」と、リオを追いかけ、雪玉を容赦なくお尻にぶつける。
リオは「きゃはははーーー」と逃げ回り、慌てて拾い上げた雪をべちゃっとこちらに投げて応戦する。
先輩は足元の雪を丸め、僕の顔を目掛け放り投げる。
それをおでこでヘディング! できるわけもなく、べちゃっと砕けた雪玉が僕の温まっていた顔を冷やす。
ベンチコートの隙間から胸元に入り込んだ雪の刺激で「ひゃあ」と変な声が出る。
その姿にリオはきゃっきゃと大喜び。
リオと先輩が結託して僕を攻撃するもんだから、いつの間にか僕のセーターはびしょ濡れだ。
散々走り回り、空に少し日が差して来た頃、先輩の携帯の着信音がなった。
着信音は短く、ラインメッセージのようだった。
僕はリオと雪玉を投げ合い、先輩のメッセージ確認が終わるのを待った。
「うりゃあーー」
「きぃやーーーー」
そんな叫び声を上げながら、リオの向こう側に虹を見つけた。
「わぁ! 虹!」
僕はリオを抱き上げ虹を指さす。
「見て、虹だよ。見える? 先ぱーい! 虹!」
先輩の方に顔を向けると、先輩は携帯に目を向けながら、青い顔でワナワナと手を震えさせていた。
「先輩……?」
僕はリオを地面に下し、先輩に近づいた。
「先輩。どうしました?」
僕の声に、はっと正気を取り戻したように顔を上げると、震える手でスマホの画面を見せた。
SNSで送られてきているダイレクトメッセージの送り主は、見た事ないアカウントで【@AKR】
そのダイレクトメッセージにはこう書かれていた。
『面白いもん見せてもらったよ。お前たちの職場やリオの保育園、サッカースクールにもばら撒いてやるよ』
その後に連投されている数枚の画像は僕たちのキスシーンだった。
見られていたばかりか、写真を撮られていたんだ。
画像の最後にもう一件メッセージがある。
『バラ撒かれたくなかったら、取りあえず10万用意しろ。10万で一ヶ月黙っててやる。来月は20万だ。しっかり働いて準備しとけよ。警察に届けたら速攻ばら撒くからな。この事はチサトに言うんじゃないぞ』
「これって……?」
「あの男だ。チサトのSNSの繋がりから俺を見つけたんだろう」
そういえば、先輩のSNSは全て本名でフルネームだ。ご丁寧にアイコンは顔写真を貼っている。
フルネームをネット検索すれば、簡単に出て来るだろうし、チサトさんの繋がりと照らし合わせれば、簡単に先輩が特定できるというわけだ。
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