第21話 初めての旅

 二頭引きの馬車が、王都を出発した。御者にはアルマさんが就き、周囲の監視役にはリーダーのアインさんが同行している。一方、俺と蒼天の翼のメンバーは、後方の荷台に配置され、待機している。


 アルマさんの荷物には、木製の大箱が数多く積まれており、中身までは確認できない。運搬中の商品が何であるかを知ることは難しそうだ。


 荷台の3分の2はアルマさんの商品に占有されており、私たちは残りのスペースを賢く利用して、自身の待機スペースを確保していた。


 荷台の後方から、ゆったりとした景色を眺めていた。今日は天気が良く、遠くの畑で働く農夫たちの姿がはっきりと見えた。私は静かに流れる雲を見上げ、悪魔騒動が嘘だったかのように、平和な気持ちに包まれた。


 しかしながら、移動中には魔物や盗賊に備えなければならない。監視役は御者の隣に座り、危険な状況を見逃さないようにする。現在は、リーダーのアインさんがその役割を担っているが、私たちメンバーも交代で担当することになっていた。ゼキさん、キロルさんに続いて、私の番がやってくる。


「今度は、ヒビキ君か。そちらの不思議な容姿の方は誰なのかな?」


「ナビィだよ。」


「へぇ。ナビィちゃんか。可愛いなぁ。」


「えへへ。」


 この遠征では、ナビィは自由に外に出させている。みんなには、俺の使い魔と言ったら簡単に納得して貰えた。


「団長、探索アプリでしっかり確認してよね?」


「わかってるって。周囲には、近づいてくる魔物も盗賊も無いみたいだよ。」


「へぇ。ヒビキ君は、そんなこともわかるんだね?不思議な能力を持っているね。」


「まだ、色々なことはできないですけどね。」「今回、商売に聖王国へ行くのですよね?どんな商品を扱うのですか?」


「うん。いい質問だね。うちは、いくつかの商品を扱っているのだけれど、今回は、絹や綿製品。それから、君達が大量に買い求めた調理器具なんかも向こうでは需要があるんだ。」


「え?昨日、確かに調理器具を大量に購入しましたけど、もしかして…。」


「あはは。毎度あり~!」


「あはは。そうだったんですね。」


 車輪の響きが絶え間なく響く中、馬車は時の流れとともに長い旅路を進んできた。しかし、陽は徐々に地平線に沈み、南の空は深紅色に染まっていく。天地が融け合う美しい風景を前にしても、進むべき道を決めることが先決だ。そんな状況下、アルマ率いる旅の一行は野営の準備に着手することとなった。


「ヒビキ!手伝ってくれる?」


 俺はテント設営を手伝い、馬の水や草、そして食事の準備を進めた。料理の方は、あらかじめニャンコックとニャメコックに依頼することを決めていた。移動中には、アルマさんや他の仲間たちにもその旨を説明済である。


 俺は、ニャンコックを顕現させた。みんなには、料理が完成するまでテントでくつろいでいて下さいと伝えた。


「ニャンコック。では、打ち合わせ通り3品作って貰うよ。」


「はいにゃん!団長、では道具の方をよろしくにゃん。」


 俺は、ストレージを展開して、必要な調理器具や、食材などを順々に出していく…。


 こちらの調理器具にJungleで購入した、"ガソリン式ツーバーナー"なども駆使して、ニャンコックの調理が開始される。


「団長、調理台が欲しかったにゃん。」


「ああ、そうだな。じゃあ、通販サイトで購入するよ。」


Shun!


「あ、来たきた。早速テーブルを組み立てるよ。」


 Jungleの箱から、調理テーブルのキットを取り出して組み立てる。簡単に組み立てできる設計なので、苦労しない。


「じゃあ、始めるにゃん!」「包丁マサムネ。包丁ムラマサ。二刀流にゃん!」「にゃにゃにゃにゃ!」


 料理人のニャンコックは、素早い手つきで野菜を刻み、調理を進めていった。火の加減や調味料の使い方も、まるでプロのように見事に決めている。彼女の技術は、誰が見ても達人レベルと思われるほどである。


 昨日Jungleで購入した"お米"も、既にニャンコックが炊き始めていた。異世界で食べる米料理に期待が高まる中、ニャンコックは手際よく調理を進めていく。


「にゃん!にゃん!にゃん!にゃん!」


ニャンコックの作業に目を留めたアルマさんは、口を開いた。


「ヒビキ君!これは、一体…。」


 ニャンコックの素早く正確な調理に圧倒されたのだ。そこには、日本の最新技術を取り入れた調理器具が使用されており、アルマさんも驚きを隠せなかった。商会で購入した器具以外は、彼女が持ち込んだものである。


「本当に、凄いんだね。」とアルマさんは感心しながら言った。


 ニャンコックは、自分が作った料理を慎重に器に盛り付け、皆が座っている場所に配膳していく。その様子は、まるで芸術作品を細心の注意を払って並べる職人のようだった。


「ヒビキ君!気になっていたんだけど、あの火の出る機械はどうしたんだい?見たこともない機械だね。凄い物であることはひと目でわかるよ。」


「そうですね…。何とも説明が難しいのですが、簡単に言うと、ニャンコック達、戦姫達の世界から取り寄せた商品です。」


 厳密には、日本の通販サイトなので、実際には違うのだが、それを説明するのは難しいので、そういうことにさせて貰った。

 

「何だって!!」

「これは、凄いことになるよ。」


「アルマさん。どうか落ちついて下さいね。」


「ああ。他にも色々あるんだよね?」


「まあ…そうですね。あの、アルマさん。このことは…。」


「もちろん。勿論だとも!しかし、ヒビキ君。いいね?」


(アルマさんが、興奮状態に…。でも、言いたいことは分かる。恐らくは、商売に繋げたいのだろう。あまり、やり過ぎは不味いが小出しにする程度なら大丈夫だろう。)


「団長、大丈夫だと思うけど、市場が混乱しないように注意深くやってよね?」


「ああ。わかってる。」


 スマホマスターの新能力"通販サイト"は、商人を唸らせる物になりそうだ。夕食を前に、考えさせられるヒビキ出あった…。


―――― to be continued ――

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