第11話 救出作戦 (前編)

「カレラ君と言ったかな?見事な戦いぶりだったね。」


「団長!誰だ?このオッサン。」


「馬…おま…こちらは、俺の依頼主でリッテルバウム侯爵様だ。」「侯爵様、失礼致しました。」


「いやぁ、構わないよ。彼女は、先の戦いでは、一番の貢献者だからね。次も宜しく頼んだよ。」


「あいよ!任せときな!」


「はははっ!元気だね。いいよ、いいよ。」


 我々は、謎の地下空洞に入って、すぐにグールからの襲撃を受けることとなった。護衛兵士が応戦するものの、数の多さで苦戦を強いられてしまう…。しかし、カイラを顕現したことで、事態は好転し、殲滅に成功した。


 俺たちは、探索アプリの情報に頼って、空洞の奥へ進んでいた。この空洞は、岩盤を掘り進めて作られたようで、壁や床、天井も見るからに頑丈だ。ただし、整備はされていないため、時折、岩がゴツゴツと出っ張っていて、歩きにくい場所もあった。やがて、先のほうで、薄らとした光を感じ取った。ここは、陰鬱な地下であるため、人工的な光源であると推測される。我々は、静かに話し声を交わしながら、光の方向へと進んでいく。


「ここは…。」


 巨大な空間が私たちの目前に広がっていた。その広さは、約150メートル四方にも及んでいると思われた。空間は、岩石を掘り抜いて造られたようであり、床や壁、天井までもが磨き上げられ、石の表面が平坦に仕上げられたような仕上げが施されていた。


 壁には、至る所に蝋燭が設置されており、時々流れる風に合わせてユラユラと光を揺らせていた。


 フロア内には、ぼんやりとした人影がちらほらと立ち並び、全員がこちらを背にして座っている。彼らの正確な顔や姿を確認するのは困難で、誰かを見分けることすらも難しい。彼らは、フードを被り、黒い装束をまとい、薄暗いフロアに溶け込んでいるようにも見える。


 彼らの視線の先には、祭壇の様な物があり、その近くに指導者のらしき人物の影もあった。やはり、フードと黒装束に身を包み、その姿を正確に把握することは難しい。


 フロアの右側の最奥部には、若い女性が両手を枷によって拘束され、吊り上げられていた…。


「あれは、ララーヌでは…?お…もご…」


 侯爵様が大声を上げそうになったので、慌てて口を塞いぎ、小声で話しかける。


「侯爵様。落ち着いて下さい。今、事を急げば、ララーヌ様の命に危険が及びましょう。」


「済まない…ヒビキ君。確かに君の言う通りだ。しかし、敵が誰かも解らぬし、ララーヌもあの状態だ。迂闊に手が出せぬ…。」


 侯爵様の横顔は、悔しさが顔に滲むように浮かんでいる。俺自身も、その痛切な悔しさを痛感している。無力感に打ちひしがれ、あの時の苦悩を思い出す。


(何かララーヌ様を救う方法はないか?秘密裏にララーヌ様の近くまで行き救出する術は…?)


「あるな…。」


「何!?」


「ララーヌ様を救出する術は、ございます。」


「本当かね!?」


「新たな戦姫を顕現します。この場に相応しい戦姫を。」


 一度、広間から離れた場所へ戻り、ここで戦姫を呼び出すことにする。


 現在、カレラは既に顕現している。かつては、この世界に同時に二人の戦姫を顕現させることはできなかった。しかしながら、スマホマスターのレベルが10に達したとき、戦姫の顕現コストは10から20に増加した。コストが10のNキャラであれば、戦姫二人を同時に使用することが可能になったのである。


(レベルが上がって良かった…。戦姫二人なら戦術はかなり広がる。)


「北条 響が命ずる!戦姫シノブ。前へ!」


「はっ!」


 俺の掛け声に反応して、シノブがスマホ画面に表れる。俺はシノブの存在を確認して指示を与える。

 

「顕現せよ!!」


 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からシノブの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、シノブの形が浮かび上がっていった。


「御館様。参上しました!」


名前 シノブ

年齢 20歳

性別 女性

種族 人間族

ランク N ( ノーマル )

ジョブ くノ一

レベル 100 (MAX)

HP 450

MP 220

AT 310

MAT 256

DEF 180

MDEF 196

DEX 400

INT 220

AGI 400

スキル なし

説明 東方国の忍。非常に真面目な性格をしている。スキルはないが、潜入や暗殺は得意。


シノブが現れた。彼女の姿はスマホ画面とは違い、真に人間らしいものとなっている。彼女の服装は黒を基調とした、一般的な忍者服である。ミニスカートや脚のタイツは、キャラクターデザインのクリエイターの趣味であることは明らかである。そして、彼女の抜群のプロポーションは、この手のキャラクターに必要不可欠な要素である。俺もクリエイターの趣味に共感している。

 

「彼女は、戦姫かな?」


「はい。シノブと言います。スキルは有りませんが、潜入や暗殺を得意とするジョブなので、密かにララーヌ様に接近させて、救出させます。シノブがララーヌ様を救出したタイミングで、カレラや兵士達が突入して、脱出をサポートします。」


「それはいい!ヒビキ君、良い作戦だね。その作戦に従おう。」


「侯爵様、ありがとうございます。」「カレラ、シノブ。いいな?」


「任せろっての!」「御意!」


 ララーヌ様の救出作戦が今始まる!


―――― to be continued ――――

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