第9話 失踪

「早速探索に移ります。お嬢様の情報を教えて下さい。」


 俺は、リッテルバウム侯爵からの指名依頼で、行方不明になったお嬢様と、子猫の捜索を請け負うことになった。


「分かった。名前は、ララーヌ ・ リッテルバウムだ。」


「ララーヌ様ですね。承りました。では、始めますね。」

「北条響が発動する。スキル"探索"!」

 

 俺の声に反応して、スマホの探索アプリが起動する。早速、検索欄の所に"ララーヌ ・ リッテルバウム"と入力して検索を実行した。


 画面のアプリは、直ぐにGOGOMAPに切り替わり、ララーヌ様の居場所を示し始めた…。


Pikon!


「え!ここは…。」


「ヒビキ君、どうしたのかね?」


「ララーヌ様の反応があったのは…王都墓地です!」


「何だって!?」


 驚いたことに、ララーヌ様の居場所を探索した所、王都墓地を示していたのである。王都墓地は、王都の郊外に位置する少々寂れた場所にある。ララーヌ様が何故墓地に居るのか不明だが、ご本人が居ることは間違いなさそうだ。


 俺は、侯爵様や、侯爵様の護衛兵士と一緒に王都墓地へ向かうことになった。侯爵のご恩情で、馬車への同乗を勧められたので、有難く受け入れた。


 馬車の乗車は、産まれて初めての経験になる。貴族の馬車ともなれば、もう二度と乗るチャンスは無いかも知れない。ナビィには、あまりキョロキョロしないようにと助言を受けるが、無理な話である。


 馬車内は、木造の車体とはいえ、高級木のアルゴレを材料に精巧に造られており、キラータイガーの毛皮を使ったマットや、煌びやかな装飾など、所々に高級感が感じられる。こういった資金の使い方を見ると、やはり上流貴族と一般人との違いを実感してしまう。しかし、どんなに豪華でも基本設計は、どの馬車も大差ないようで、振動は予想以上に大きいものであった。


 侯爵は、先程までの元気はなく、終始無言である。恐らくは、ララーヌ様の現在地が王都墓地だったことが、相当にショックだったのであろう。無理もない。リッテルバウム邸から王都墓地までは、10kmもあるのだ。少女が単独で移動したとは考えにくいのだ。だが、まだ情報は足りなすぎる。現地到着後は、なるべく素早い捜索活動が試されることになるだろう。

 

(王都墓地)


 馬車は、王都墓地に到着する。俺は、再び探索アプリを利用してララーヌ様の現在地を伝えて、全員で捜索活動を行っている。


「ララーヌ!どこだ!?どこにいるんだ?」


「ララーヌ様!いらっしゃいますか?」


 侯爵様や護衛の兵士の掛け声が、この一帯に響き渡っている。俺もララーヌ様の居場所を示すポイントに移動する。完全に自分の場所と一致したので、付近を確認する…。


「あれ?ララーヌ様の姿がないぞ。ナビィ。どういうこと?」


「MAPの表示は、平面表示だから万能ではないみたい。立体的な位置までは把握できないようね。」


「つまり、位置は合っているけど、高さが合っていない??」「この上か、下ってことだよね?」


 俺は、思わず上を見上げるが、当然何もない。今度は、足元を見つめる。地面にも何もないということは…。


「地下でもあるのかな?」


「そうだね。それが一番可能性が高いかも。」


 俺は、この辺りに何もないのを確認すると、侯爵様へこのことを報告する。


「なるほど…通りで姿が見当たらない訳だ。分かった。兵達には、地下へ抜ける道がないか探す様、指示を出しておこう。」


「ありがとうございます。」


 周囲を見回しながら、俺は付近を捜索する。この地が墓地であることを考えると、周りのほとんどが墓石であるのは当然である。しかし、不自然な箇所があるか探してみるが、明らかに異常なところは見つけられなかった。このままでは、探し出すことは困難だろう。そこで、ひと工夫する必要があると考えた。


 起動中の探索アプリを開き、検索欄に"王都墓地 地下入口" と入力した。さて、これで本当に見つかるだろうか…?


Pikon!


「おっ、できたぞ!やったね!」


 どうやら地下入口が無事検索にヒットした様だ。場所は、墓地北側にある、"墓地管理室"であった。そこは、墓地を管理する人が時々利用するだけの小さな小屋であった。


「ヒビキ君。ここに入口があるのかね?」


「ええ。恐らくは…。」


「良く見つけてくれたね。君が居なければここまでスムーズに事は進まなかっただろう。本当にありがとう。」


「そんな、そんな。侯爵様、無事ララーヌ様を救い出しましょう。」


 俺たちは、管理室に侵入する。普段は施錠されているはずのドアが、何故か開いていた。管理人がいない際に、誰かが侵入した可能性がある。侯爵様と俺の前に立った護衛兵士たちは、突入を開始する。


 管理室内は、広さ約5メートル、奥行き約10メートル程度の空間が広がっていた。護衛兵士たちは、室内に設置された魔導ランプを灯すと、その暖かな光が周囲を包み込んだ。長机や書類棚、ソファなど、業務用の家具が備え付けられていた。また、墓地を整備するためのスコップなどの道具類も整然と並んでいた。しかし、不審な物や物音は全く感じられなかった。


「階段を見つけたぞ!」


 先陣を切る兵士が、書類棚の陰に、まるで自らを隠すような姿勢で立ち止まった。兵士たちは、地下へと続く階段を発見したのだ。敵の存在を予想しながら、彼らは慎重に足を踏みしめ、前進していった。


 捜索団は、地下に降りた。そこは、土木工事に必要な資材が保管されている倉庫だった。木製の板や石材、鉄の鋲、縄などが大量に積み上げられ、狭い空間に圧迫感が漂っている。しかし、特に目立つ異物や怪しい気配は感じられなかった。


「侯爵様、これをご覧下さい。」


「壁が崩れている!?もしかして、この先に何かあるのか?」


 地下室の最奥部に位置する壁の一部が崩壊しており、その先に何かが隠されているかのような空洞が覗えた。穴は小さく、大人でも屈んで進まなければならないが、通行可能な大きさであった。この先に何が待ち受けているのか、捜索団の心は高鳴った。


「行ってみようか…。」


 侯爵様は、瞬く間に決断を下す。兵士達は、危険な先へと進むことを決め、一斉に準備を始めた。


「たいまつ用意!」


 兵士たちは、暗い空洞を進んでいく。たいまつの光が周囲を明るく照らし、俺たちの足元を照らし出す。空洞の先に何が待っているのか、誰も予想できなかった。侯爵様と俺たちは、心を落ち着かせながら、後ろからついていく。


―――― to be continued ――――

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