第8話 リッテルバウム侯爵

「ヒビキ君!ちょうど良かったわ。引き受けて欲しい依頼があるんだけど…。」


 俺は、ルナさんの依頼を受け、アルスガルド王国の著名な貴族であるリッテルバウム侯爵の屋敷へと向かっていた。そこでは、侯爵の娘が心を寄せる子猫が行方不明になっており、俺が捜索を引き受けることになった。ルナさんが俺を選んだ理由は謎めいているが、少なくとも依頼内容は魔物の討伐ではなく、俺にとっては安心材料だった。


 侯爵の邸宅は、王城の近くにある様だ。GOGOMAPで位置を確認したが、敷地が広大なので、ナビゲーションまでは不要であった。王都の主要街道である"英雄街道"より、王城を目指して進めば、やがて見えてくる。


 リッテルバウム侯爵の邸宅は、アルスガルド王国の王城の近くに建てられているようだ。GOGOMAPで場所を確認したが、邸宅は広大な敷地を持っており、ナビゲーションの必要性はなかった。主要な"英雄街道"から王城に向かって進んでいけば、やがてその姿が見えてくるだろう。


 門前には、隅々まで警備の厳重さが滲み出るように立ち並ぶ二人の番兵。彼らは邸宅への立ち入りを監視し、厳格な管理を行っていることがうかがえる。俺は慎重に歩を進め、番兵たちに近づいて声をかける。


「失礼します。冒険者ギルドの依頼でやってきました。こちらは、ギルドからの紹介状です。」


「承知した。確認するので、ここで暫し待たれよ。念の為、ギルドカードを確認させて貰えるか?」


「分かりました。こちらがギルドカードです。」


 守衛の一人は、紹介状を持って邸宅内へ行ってしまった。


「ほう、スマホマスターとは、珍しいなあ。最弱職だろ?アンタも苦労しているな。でも、Eランクか…頑張ったんだな。俺もアンタくらいの歳の頃は冒険者だったよ。」


「そうなんですか?でも、今はどうしてここでお仕事を?」


「そうだなぁ。やっぱり家族ができたからだな。安定した収入を頂けるし、冒険者よりは安全だしな。」


「なるほど、参考になりました。」


 世間話をしている間に、守衛の一人が戻って来た。


「侯爵様がお会いになるそうだ。付いてくるが良い。」


 案内され、守衛の男性に従って移動する。敷地内のほとんどは庭園で、手入れが行き届いた草花の美しい造形や、優しい香り、そして緩やかに流れる小川の音色が俺を包み込み、心を和ませてくれたのであった。


「素晴らしい…。」


 俺は、庭園の素晴らしさに感動して、ぽつり呟いていた。


 邸宅の入り口に到着し、そこには王都の他の建物を凌駕する美しさと豪華さを誇る建築物が俺たちを迎えた。家令の男性が俺たちを侯爵様のもとへと案内してくれるようだ。彼は落ち着いた黒を基調とした服装で、真面目で知的な印象を与える。物腰は柔らかく、落ち着いた雰囲気を漂わせている男性だった。


 内部は木造でありながら、全く古さを感じさせず、木に艶剤のようなものが塗られているのだろうかと思わせる輝きを放っていた。床も壁も新品のように輝き、無駄のないシンプルでセンスの良い空間に感じられた。


 家令の男性に付いて、2階に上がる。侯爵の執務室に到着した。


(侯爵 執務室)


「やあ、よく来たね。待っていたよ。」


 自分が思っていた反応とは違う、感じの良さそうな声に出迎えられる。グレーヘアに、鼻下の髭、そして優雅で煌びやかなタキシード姿の装い。目の前にいる方が、リッテルバウム侯爵で間違いなさそうだ。


「お初にお目にかかります。私は、冒険者のヒビキと申します。貴族様のご邸宅は、初めての経験でして、無作法をお許し下さい。」


「いやいや、構わんよ。私も堅いのは苦手でね。気楽に話そう。そうそう。私は、ラウル ・ リッテルバウムと言う。宜しく頼むよ。」


 そうは言っても貴族様。後で不敬罪とかは洒落にならない。家令の方に視線を送ったら、静かに頷いてくれていた。本当に大丈夫ということだろう。

 

「宜しくお願いします。では、侯爵様。お伺いします。」


「うむ。まずは、ヒビキ君。君がここに呼ばれたのは何故かわかるかね?」


「子猫を探す為ですよね?」


「まあ、確かにそうだね。しかし、君はわざわざこの家まで来ることになった。普通なら、子猫の特長や、似顔絵をギルドに渡せば済む話で、わざわざここまで出向く必要はない訳だ。」


「あっ、そうか…。仰る通りですね。気づかなかった。」


「あはは。君はギルマスから聞いている通りの人だ。これはね、ギルマス推薦の指名依頼なのだよ。」


「えっ、指名依頼ですか!?それは初耳です。でも、どうして私が?」


「うん。いい質問だね。ヒビキ君。君は、スマホマスターだそうだね。私は、その君の能力を借りたいのだよ。」


「ええ…と。侯爵様。お言葉ですが、私はご存知の通りランク外の最弱職です。ギルドランクもEランクです。ギルドには、剣聖や、もっと有能な冒険者はたくさんいる筈です。」

 

「そうだね。戦いだけで言えば、剣聖のアイーシャ君の方が適任だろうね。今回は、武力を重視した依頼ではないのだよ。ヒビキ君。しかも、アイーシャ君が失敗したとしたら?」


「アイーシャさんは、失敗を!?」


「ああ。そうだ。彼女は…。いや…済まない。まどろこしい言い方は、止めにしよう。これは、私の癖でね…。単刀直入に言おう。家で飼っている子猫が行方不明になり、その子猫を探しに出た娘も行方不明になってしまった。ヒビキ君。どうか力を貸して欲しい。」


「侯爵様。どうか頭を上げて下さい。もちろん協力は惜しみません。ですが、どうして私に?」


「君は、以前大量の薬草を採取してきたことがあったね。あれは、君の異能の結果だね。恐らくは…薬草の場所を探してくれるような力ではないのかね?」


「何故それを!?」


「勿論、ギルマスからさ。」


「私は、ギルマスにはお会いしたことがありませんが…。」


「あれ?ルナ君は、ヒビキ君のこと詳しそうだったけどな。変だな…会ったことないのかい?」


「まさか…ギルマスってルナさんですか!?」


「あれ?ヒビキ君。知らなかったの?彼女は、とても有能だから、私が推薦してギルマスになって貰ったのだよ。」


「なるほど…どうして侯爵様がそこまでお詳しいのか納得しました。」


「そう?それなら良かったよ。冒険者ギルドは、私の直下組織なのだよ。君は、知らないかも知れないが、私はこの国の冒険者ギルドの代表を務めさせて貰っている。重要な情報などは、ギルドと共有できるようになっているのだよ。」

「でも、安心して欲しい。守秘義務は守るよ。必要な情報は、上層部では共有しているが、君の情報が外に洩れることが無いようにするからね。」


「わかりました。では、改めてご依頼を受けさせて頂きます。」


「良かった。断られるんじゃないか冷や冷やしたよ。実は、行方不明になってから一日経ってるからね。アマーシャ君や他のギルドメンバーにも協力して貰っているが、まだ消息が掴めていないんだ。」


「早速、探索に移ります。お嬢様の情報をお教え下さい。」


―――― to be continued ――

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