第3話 薬草採集

(王都バラン 近郊の平野部)


「何だコイツ!」「オリャー!」


 薬草採取の依頼に応じ、採取ポイントへと移動中の俺は、約30分が経過した頃、スライムと邂逅した。スライムは、ゼリーのような形状を持ち、手足のない不気味な体躯から、戦闘時は激しく体当たりを仕掛けてくる。俺は、王都で調達した鉄のナイフを手に、猛然とスライムに斬りかかり、応戦した。


Bash !


 俺のナイフが、スライムに突き刺さった。手に伝わる触感がその衝撃を証明している。だが、スライムは傷ついたようだが、倒すまでには至らなかった。


Ban!!


「うがぁ…。」「ゴホッ、ゴホッ!」


 スライムの身体が俺の腹部に激突した。俺は、スライムの素早い動きに対応できず、攻撃を受けてしまった。激しい痛みが襲い、息が詰まり、ついには胃の内容物を吐き出しそうになった。地に伏せてうずくまると、スライムは再度、体当たりで俺の顔面を直撃した。


Don!!


「うわぁあ!痛ってぇ!」


 俺は、スライムの攻撃を受け、後ろに吹き飛ばされた。痛みに身悶えながら、地面を転がるようにしてうずくまっていると、体中に土がこびりつき、口の中には鉄と土の味が広がった。


 俺は、魔物との戦闘が初めてで、こんなに過酷なものになるとは思ってもみなかった。冒険者という職業の厳しさを、実感させられた瞬間だった。


「団長!無理しないで!戦姫を呼びなさいよ!」


「最弱モンスターですら倒せないなら、俺に倒せる魔物なんて、もういないじゃないか!」


Ban!


「うわぁ!」


「団長!ダメだよ。死んじゃうよ!」


「クソッ!やはり、絶対的に能力値が足りていないか…。俺は、ここまで弱かったんだな。」


「団長、早く呼んで!でも、今はまだ、N(ノーマル) ランクの戦姫しか呼び出せないからね!」


「了解!結局、これがスマホマスターの運命なのだろう。仕方ない。ナビィ、やるぞ。」


「団長!オーケー!」


「北条 響が命ずる。戦姫エルル。前へ!」


「は~い!団長。」


 俺の掛け声に反応して、N(ノーマル) ランクの戦姫エルルがスマホ画面に表れる。俺は、エルルの存在を確認して指示を与える。

 

「顕現せよ!!」


 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からエルルの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、エルルの形が浮かび上がっていった。

 

(凄い!アプリキャラを実写化したような姿だ。ゲームの時の様なアニメチックキャラではなくて、ちゃんと人になるんだね…。)


「エルル参りました~。おぉ。ここは、異世界なんですねぇ。」


「エルル。標的は、前方のスライムだ。倒せ!」


「ラジャー!」


 エルルの腕には、いつの間にか巨大なハンマーが握られていた。


(巨大ハンマーなのに片手で持っているだと?なんつー怪力だ。)


「じゃあ、軽ぅ~く。せーの!」


Don!!

 

Bicha!


 エルルの大振りのハンマーが、スライムの頭上に大きな音を響かせた。そして、一瞬の静寂の後、そのスライムは頭部から潰れ、液体となって崩れ落ちていった。エルルは、威勢よくハンマーを振り上げ、勝利の息吹を感じさせた。


「えっ!一撃!?」


「あらあら…。もう終わちゃったんですねぇ。団長、ピース!」


「あっ、うん。ピース!?」


「団長!身体の方は大丈夫かな?」


「あっ、うん。大丈夫みたいだ。」


(あれ?ダメージが回復しているような…。)


「じゃあ、エルルはもう帰るねぇ。団長、またね!」


「ああ。ご苦労さま。」


Shun!


 エルルは、役目を終えて、光の粒となり再びスマホに帰っていった…。


「ナビィ。戦姫達は、終わるとすぐに帰るのかい?」


「いいえ。団長は、スマホマスターとしてまだ目覚めたばかりで、戦姫をこちらに留めておけるだけの力がないんだよ。団長が成長していくうちに、戦姫がこちらにいられる時間も増えていくよ。」


「そういうことか。では、俺が成長すれば、呼べる戦姫も増えるのかな?」


「うん。そうだよ。今はN( ノーマル ) の戦姫だけだけど、団長のレベルが上がっていくうちに、よりランクの高い戦姫が呼び出せる様になるよ。」


「なるほど。そういうことか。ナビィ。俺のレベルは上がったかい?」


「じゃあ、みてみようか。ステータス!」


名前 ビビキ

真名 北条 響

年齢 18歳

性別 男性

種族 人間族

ジョブ スマホマスター

レベル 1 → 3

HP 25 → 27

MP 5 → 7

AT 10 → 12

MAT 5→ 7

DEF 5 → 7

MDEF 5→ 7

DEX 10 → 12

INT 15 → 17

AGI 5 → 7

顕現コスト 10

スキル スマホ召喚 ・ 異能アプリ ・ スマホフィルター


「おお。先程の戦闘で上がったみたいだ。でも、びっくりするくらい微妙な上昇だね。一ずつしか上がってないような…。」


「ありゃま。まあ、団長はステータス低くても大丈夫だよ。戦姫達がいるからさ。」


「俺は、最弱職と言われるだけあって、個人ではスライムにも勝てないからね。自らが戦闘に立つのは、絶望的だと、さっきの戦闘でなんとなく分かってはいるさ。」


「WWGでは、団長の戦闘の描写は全くないし、その辺りの事情も団長の能力に関わっているのかも。でも、私達は、団長の存在そのものが、とっても大切だと分かっているから、最後までとことんサポートするよ!」


「ナビィ、ありがとう!」


 俺は、スライムとの戦いを終え、再び旅を再開した。広大な平野の上では、暫くは他の魔物たちと遭遇することはないだろう。そして、俺は山の麓にある薬草採取ポイントへ、滞りなく到着することができた。


「この辺りか…。」


「団長、ルナさんに見せて貰った依頼の薬草だけど、その後にカメラで撮影したわよね?」


「そうそう。ルナさんに気づかれない様にこっそりね!」


 俺は、スマホのファイルからナナリ、カズナ、フーキの3種類の画像を表示した。


「これを見ながら採取すれば、間違えることは無いだろうな。スマホ、めちゃくちゃ便利だわ。でも、具体的にどの辺に生息しているかまでは、わからないんだよな。」「ポイントには来たけど、近くには全然見当たらないし…。」


「団長、それなら使えそうなアプリがあるよ。レベルが上がったから制限の一部が解除されて、インストールできるアプリがあるよ。"探索"アプリだよ。」


「探索アプリね…。GOGOアプリで確認してみるか。」


 GOGOアプリは、俺がインストールを試みるアプリのための導引役であった。その画面には、大半のアプリがグレーのまま、未だインストールが不可能であることが示されていた。しかし、俺は粘り強く探索アプリを探し続けた所、ようやく見つけ出すことに成功する。


「これが探索アプリね。なになに…。特定のものを探索できる異能アプリ。使い方は、真名によるアプリ起動を行い、探索したい物の名称を入力して、探索ボタンを押すだけ…。簡単だな。試しにインストールしてみるか。」


 俺は、インストール後に、アプリを起動させる。


「北条響が発動する。スキル"探索"!!」


 真名によって力を吹き込まれたアプリケーションが起動する。俺は、説明通り"ナナリ"と入力して探索ボタンを押した。


Pikon!


「おぉ、突然目の前の草むらの所に▼表記が表れた。しかも、スマホの端末には、GOGOMAPが表れて、地図にもナナリのポイントが表記されているぞ。」「これならどこに薬草があるのか困らないね。便利なアプリだなぁ。」


「団長、探索アプリは、人や魔物にも有効だから、上手に使ってね!」


「それは、便利だな。魔物がどこにいるか調べられたら、遭遇しないように回避して移動できるしな。」


 我が身に実感せしめる探索アプリの便益に、俺は心躍らせた。薬草採集の任を帯び、眼前に広がる世界を鋭敏な視線で舐め回す。▼表記が瞳に飛び込み、手掛かりを示す。また、遠距離の採取ポイントに至れば、GOGOMAPのポイントを弔い参考に移動をすることができた。この探索アプリは、並々ならぬ便益を享受することができるものであったことが、俺の感慨を一層深めた。


「あっ、あった!」「おっ、ここにも!」


 絶え間なく、目を凝らし、探し続けた。目的の薬草を見つけるたび、畏れ多くも、神聖な手つきで採取していった。時間が経つにつれ、山のように積み上げられた薬草たちは、俺の前に荘厳な存在感を放ち始めた。採集の喜びが、深い充足感へと変わりを見せた瞬間である。


「少し取りすぎたかな…。まあ、いいか。」


 冒険者ギルドからの依頼、「薬草採取」が、ついに幕を閉じた。俺の使命は、果たされたのである。喜びと感謝の念が、胸中にこみ上げる。冒険の旅を経て、俺はより一層成長したことを実感している。そして、この経験を、未来の冒険に繋げることができることを、確信している。


―――― to be continued ――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る