第2話 WWGのナビィ

(通常、ゲームキャラクターとユーザーが会話を交わすなどあり得ない…。当然のことながら、キャラクターはプログラムであり、存在自体が知性や感情を持つわけではない。俺が目の当たりにしているものは、いったい何なのだろうか。!?)


「団長~!ナビィは、そちらに行けるから顕現して!」「ナビィ!ずるいよぉ。」「ルルカたんは、制限掛かってるからまだ無理!」「ぶぅ~。」


 スマホ画面の彼方には、キャラクターたちが談笑し、饒舌な議論を繰り広げている様子が窺えた。

 

「えっと…。ゲームの世界からこちらに来れちゃうってこと?」


「そうだよ。ナビィは、団長のサポートするのが役目で、存在理由だからね。」


 ナビィは、WWGにおいては案内役を務める存在である。彼女はゲームの序盤から主人公の傍らにおり、ストーリーの進行やイベントの案内など、さまざまなアドバイスを続けてくれていた。

 

「どうすればいい?」


「スマホを顕現した時と同じだよ。とりあえずやってみて!」


「分かった。」

「北条 響が命ずる。WWGの案内役ナビィ。前へ!」


「は~い。ここに居るよ~!」


 俺の掛け声に応じて、スマートフォンの画面にナビィが現れた。俺はナビィの存在を確認し、彼女に指示を与える。

 

「顕現せよ!!」


 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からナビィの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、ナビィの形が浮かび上がった。ナビィは元々ホログラムで実体はないが、ゲーム内の彼女と瓜二つの姿が現れた。


「団長!来たよ~。」


「マジ!?ホンマもんのナビィだ…。凄いな。」


「アハハ。マジだよ~。」

 

「団長」という呼称は、WWGのゲーム性に関係している。この異世界版戦争ゲームでは、主人公は傭兵団の団長となり、団員を育成しながら、自国や世界を侵略者から守り抜くという目的を果たすため、戦いを繰り広げるのだ。


(本当に不思議なジョブだ。ゲームから現実世界にキャラクターを具現化できてしまうなんて…。)


 このジョブについては、まだ解明されていない点が多数あるが、その一部は理解されている。ただし、冒険者としての活動を始めた後、実際に任務を遂行する能力が必要になる。


 俺自身は、剣聖のアマーシャのように、ジョブの影響で身体能力が変化するような現象は観察されなかった。


「気になるなら、団長もステータス確認すればいいのに…。」


(ナビィの奴、俺の心の中がわかるのか?)


 そっと、ナビィの方に視線を送ると、ニタニタした表情でこちらを見ていた。

 

「確かにそうだね。やってみようか。では、ステータス!」


 アマーシャがやっていたステータスに習って、俺も自身の能力を確認してみた。


名前 ビビキ

真名 北条 響

年齢 18歳

性別 男性

種族 人間族

ジョブ スマホマスター

レベル 1

HP 25

MP 5

AT 10

MAT 5

DEF 5

MDEF 5

DEX 10

INT 15

AGI 5

顕現コスト 10

スキル スマホ召喚 ・異能スマホアプリ ・ スマホフィルター

※HP:体力 MP:魔力 AT:物理攻撃力 MAT:魔法攻撃力 DEF:物理防御力 MDEF:魔法防御力 DEX:器用さ INT:知力 AGI:俊敏性

 

「これが俺の能力か…。何だか弱すぎない?」


「団長、確かに標準の冒険者の能力値と比較すると、激弱の最弱だね。でも大丈夫だよ。戦姫だって顕現できちゃうし、団長はWWGでも戦わなかったでしよ?」


(うーむ。確かにWWGでは、主人公が戦う描写は無かったな。団員のスカウトや育成、そしてバトルでは主に指揮を執り、実際の戦闘は戦姫が担当していたからね。自身が戦わないから、ステータス値が低いのかもしれないな。)

 

「今の名前は、ヒビキだけど、真名が北条 響 となってた。前世の名前が真名になるのか?」


「団長が、前世の記憶を引き継いだから、前世の時の名前も引き継がれて真名として認識されたのかも。スマホやWWGに関しては、前世のものだから、真名で命令しないと発動しないのかもね。それから、団長は、スマホマスターのジョブを得てから進化していたのよ。知ってた?」


「進化だって!?」


「うん。団長は、身体能力は、前と変わっていないみたいけど、外見はかなり変わったと思うよ。」


「えっ、そんな馬鹿な…。」


「スマホのカメラアプリで確認したら?」


「ああ…。」


 このスマホの性能上、自由に起動できるアプリはかなり制限されている。その中でも使用可能なアプリの1つに、カメラアプリがあった。こちらは、特殊な異能を使用しない為、真名による力の行使は不要である。俺は、アプリを立ち上げて、前面カメラで自分の姿を確認した。画面に写されている顔は、かつての猿顔の自分ではなく、若き日の北条響そのものであった…。


「かつての自分の顔とはいえ、完全に別人だ。」


「スマホマスターとして、最適な状態に変化したのよ。団長の前世における記憶や残滓が、このジョブの覚醒には必要だったのかも知れないわね。」


(死んじまった父ちゃんと母ちゃん。俺は整形などしてないが、進化して猿顔じゃ無く、イケメンになったらしい。何かごめんな…。)

 

 俺は、ジョブや自分の能力が把握できたので、このまま冒険者ギルドへ向かって冒険者登録をしようと思う。


ーー


(王都バラン 冒険者ギルド)


 冒険者ギルド内は、多くの人々で埋め尽くされていた。見た目から戦士や魔法使いだと分かる人々ばかりで、誰もがとても強そうに見える。自分は、場違いなのではないかと、少し不安になってしまった…。


「君!見ない顔ね?新人さんかな?」


 突如として、後方より声がかかり、私は急速に身体を反転させた。瞬時に、猫耳を持つ美しい女性の姿が眼前に浮かび上がった。服装より、彼女はギルド職員であることが伺えた。


「わっ!ええ。ギルドに登録したくてやって参りました。」


「うんうん。そうかと思ったよ。私は、ギルド職員のルナよ。アナタは?」


「ヒビキと言います。」


「ヒビキ君ね!わかったわ。登録なら私が対応するわ。」


「ありがとうございます。」


 周りの視線が一斉に彼女に向けられた。俺の存在などどうでもよく、美人で魅力的なルナさんに注目が集まっているのだろう。


「ジョブはもうあるよね?」


「はい。ジョブ神殿で授かりました。」


「そっか。わかったわ。一応規則でこちらでも調べさせて貰うわね。」


「わかりました。お願いします。」


「では、この神玉に手をかざしてね。これで、ジョブだけでなくアナタの情報は、大体把握できちゃうので…。」


 俺は、ジョブ神殿と同じ様に神玉に手をかざした。神玉は、輝きを放ち、直ぐに収まった…。


「え!?今のは何かしら?神玉が光ったわ。」


「神殿の際も、光りました。」


「そうなのね。まあいいわ。結果は…。あなた、スマホマスターなの!?」


「おい、聞いたか?」「ああ。そのジョブ聞いたことあるぞ。役たたずの最弱職だとか。」「じゃあ、この若造が…。気の毒にな。」「うわぁ。最弱職かぁ。終わってるだろ?」「最弱職に冒険者は無理じゃね?」


「こらー!あなた達、聞こえてるわよ!人のことをそんな風に言わない。さあ、行った行った!」


「はいはい。ププッ。」


「こら!団長を馬鹿にするな!」


「うわ!何か出た!」「何だこりや。変な奴…。」「可愛い子だけど、触れない?」


「あぁ!すみません!」「 ナビィ!勝手に出てきちゃ駄目だろ?」


「だって、団長があんなこと言われてるのに…。」


「ヒビキ君!彼女は、一体何なの?これは魔術?それとも使い魔かな?」


「彼女は、ナビィ。ホログラムですよ。そうですね…使い魔に近い存在といいますか、俺のジョブの能力といいますか…。」


「えっ!ヒビキ君。スマホマスターを扱えるの?」


「まあ…偶然といいますか。あはは…。」


「凄いじゃない!でもどんなことができるのかしら?」


「俺もナビィを呼び出しただけで、他にはまだ…。」


「そっか…。でも、頑張って経験を積んで行けば、できることも増えるかも知れないわ。」

 

「そうですね。それで…ランク外でもギルド登録ってできるものですか?」


「もちろん!登録に、ジョブランクは関係ないから安心して。」「冒険者ランクはね、G~Sまであるのよ。ランクが上がる程、危険度が上がっていく仕組みね。最初は、Gランクからだけど、頑張り次第でランクも上がるからね。」


「Gランクは、薬草の採取とか清掃などの危険度の少ない依頼が集まるの。誰もが初めは通る道よ。ヒビキ君も頑張ってね。はい、これがあなたの冒険者カードよ。あなたの身分の証明にもなるから、絶対に無くさないでね!」


「はい、わかりました!ルナさん、色々ありがとうございました。依頼を探してきます。」


 俺は、受付のルナさんに丁重にお辞儀をしてから、依頼掲示板に移動した。GランクからSランクまで、掲示板は分かれていて、どこを確認すればよいかが明確に示されていた。


「えっと…ドブ掃除に、ゴミの運搬に、配達か。あっ、薬草採取もあるぞ!やっぱり魔物退治の依頼はGランクではないか…。よし、これにしよう!」


 俺は、即決で薬草採取に行くことを決断した。


「ルナさん。俺は、薬草採取にします。」


「やっぱりそう言うと思ったよ。薬草採取は、山の麓まで行かないと行けないから、魔物に遭遇する可能性はあるよ。大丈夫かな?」


「勿論です!」


「わかったわ。危険だと判断したら直ぐに引き返してね。無茶して命を落としても誰も褒めはくれないよ。採取の薬草は、ナナリ、カズナ、フーキの3種類だよ。どれでも5本以上から貢献ポイントが入るからね。」


「貢献ポイントですか?」


「そう。貢献ポイント。EからGランクの間は、貢献ポイントが規定まで到達すると、ランク昇格があるのよ。D以上になると、昇格の基準が厳しくなるのよ。まずは、Eになれるように頑張ってね!」


「そうなんですね。頑張ります!」


 俺は、薬草採取のために早速外出することにした。まずは護身用の武器と荷物を入れるバッグを商店で揃え、その後出発した。


ーーー to be continued ーーー

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