第19話 ”菜” 水道橋

そう言えば以前みすずに菜のことを聞いたが、知らないようだった。“菜”は境界線人のネットにかからない、何かあるのか?境界線にいた時とは違う。姿も違う。昼間は普通の人間だ。境界線人としての力もないようだ。“なずな”やってくれるな。まあーいい。正直、僕は今すぐにでも”菜“に会いたい。しかし今はだめだ。整っていない。それに”菜“は昼間は記憶がない。昼間はただの女子高生だ。夜、夢の中だけ記憶が巡る。僕は”京“の人だ。空間移動も人間界へも自由に行ける。試してはいないが、きっと夢の中にも空間移動ができるはずだ。僕の性格上、すべてを整えないと動けないところがある。完璧を求めてしまう。きっと完璧は良いことだと思うが、”機”を逃せば、ゼロとなる。しかし僕はこの性格を変えることはできない。”菜“君の夢の中に行く前に僕にはやるべきことをやる。Bと対峙しなければならない。僕は会社を早退。Bのいる春日に向かった。僕の勝手な、お願いだ。『“菜”もう少しだけ待っていてくれ。』大きな風が教室に吹いた。教室のカーテンが揺れた。授業中、“菜”はふっと懐かしい”誰か”に呼ばれた気がした。先生が「雨宮さん。雨宮菜さん、授業中はよそ見をしないように。」“菜”は先生に注意された。「先生すいません。」”菜”は、すぐさま、あやまった。授業は続いた。教科書の文字が動きだす。授業に集中できない。『心がざわつく。』『私は何をやっているのか。自分で自分が分からなくなる。他人の体を借りている変な感じ。』きっと疲れている。ここ数か月、他の高校の男子に付きまとわれて、逃げていたから。そういえば彼は最近、電車の中でも見かけない。彼がいないのは、ホッとする。好きでもない男子に追われるのは絶対嫌だ。疲れる。だるい。先生がまた注意する。「雨宮さん、雨宮菜さん、聞いていますか?」「はい。」”菜”の返事とともにチャイムがなり授業終了。「菜、帰り、パフェ行く?」「あー、今日はいいかも。ちょっとだるくって。」「そう、じゃまた明日。」「じゃ。」菜は寄り道せずに駅へ向かう。そして飯田橋の駅へ。いつもの電車へ乗る。学校の終わる時間帯は学生達で電車の中は少しざわざわしている。総武線いつものドア側に立った。電車はいつも通り走り出す。次の駅は水道橋。菜は、ふと反対ホームに目をやった。『目があった。』”菜”が僕を見つけた。僕が見つけるより先に。水道橋駅、菜は反対ホームに全力で走った。僕を見つけて捕まえた。僕の目の前に女子高生がいる。姿は違うが”菜”だ。記憶のない”菜”も思わず僕の目の前に走り寄り僕を見る。「君は?」「君は?」記憶のない”菜”は本能で僕に向かい走ってきたようだ。僕らは言葉ではなく脳内テレパシーのような会話をした。記憶のない”菜”に負担がかからないように僕はゆっくり説明した。脳内で”菜”は必死で記憶を巡らせている。再び会うために完璧な状況を作り上げて、会いたかったのに結局、事実はグタグタだが。僕は”菜”の記憶が戻る夢の中に空間移動を試みることにした。そっちの方が話が早い。グタグタの僕に”菜”はあっさり夢の中の空間移動を承知してくれた。黄色い総武線の電車が走る。ホームには"黄色の春草野の匂い”そして目の前に君がいる。

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