第20話 女子高生の”菜”

僕は記憶のない”菜“が目の前にいる。とても新鮮な気持ちだ。初めて会った時には”いかにも都市伝説のこわい“菜”女の子“だった。今は違う。菜だけど菜じゃない。おかしな気持ちになる。

僕だけが記憶があり、何か後ろめたい気もするが、今夜”菜“の夢の中に空間移動の約束を取り付けた。ほんとうの”菜“に会える。嬉しい気持ちをこらえるのに今は必死だ。今は大人の社会人として”菜“女子高生と話している。本当に不思議な感覚だ。”菜“とラーメン食べたのがつい昨日のようだ。浮かれて僕は仮想世界Bのことを忘れていた。Bをなんとかしなくては。目の前の菜は僕を見て笑顔を見せた。が何か引っかかる。「菜、疲れているのか。」「うん。」「どうしたんだ?」「知らない男子に付きまとわれて。ヘトヘト。って感じ。」思わず僕は菜の両腕を鷲掴み「菜、大丈夫か。何かされなかったか。」大きいな声を出してしまったま。「痛い。」僕はハッとして手を離した。「ごめん。菜、どいつだ。菜につきまとう奴は、僕が許さない。」僕はついムキになってしまった。大人げない。もう、学生じゃないのに。菜が「たぶん、もう大丈夫。最近電車で会わないし。監視されている視線も感じないから。ほっとして疲れが出たのかも。」口元だけで笑って見せた。”そんなにがんばるな。僕がいる。”そう、言いたかったが、彼氏でもない僕には言いたくても言えない。特に今の状態では。菜は記憶がない。全くのはじめましての僕が言えるわけがない。僕は1分、1秒でも菜と一緒にいたいが、今はやるべきことをしなければ。その前に「菜、その嫌な男子は?名前は外川正。ソトカワショウ。」「学校は?G高。今はやめてるみたい。」「ソトカワか。」菜を苦しめるなんて僕が。僕はの中で何かドロドロした感情がうずまくのが分かった。そのドロドロは熱をおび、僕は目の前のベンチを目で破壊してしまった。「バキッ」「キャー。」急に真っ二つに割れたベンチをみてホームの女性が悲鳴を上げた。”やってしまった”僕の力だ。これは”京”の力だ。僕は脳内でもう一人の僕をなだめた。今は我慢だ。僕は境界線に行ってから”京”本来の力が目覚め出しているのに気づいていた。しかし、こんな形ですぐ発揮するとは、僕は僕に”相当、菜のことが好きなんだな”。物にあたるとは僕も子供だな。笑える。しかしこうしている間も時間が過ぎて行く。そしてすぐに夜になってしまう。時間が無い。僕は今夜、夢の中に空間移動する。すべての目的を達成するためにもしなくてはいけない。しかしその前に仮想世界B、それにソトカワショウを突き止めなくてはいけない。「菜、僕はいくよ。じゃ。空間移動であとでまた会おう。」「うん。」菜は振り向かず「じゃ」と背を向け改札を出た。僕も遅れて改札を出た。僕の足はBのマンションに近づいて行った。

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