第5話 ハンバーグもどき

なんだ、この美形野郎は…



種族名が見えていたから、男女共に美形なんだろなーというのは分かっていた


ただ、実際目にするのと想像するのとでは天と地ほども差があった


日本にいた時でもここまで…破壊的な美貌の持ち主はいなかったと思う

見ただけで人の精神を木っ端微塵にしそうって意味でな?



とんでもなく、綺麗な男だな…



ローブで隠していなければ、俺は口を開けたままポカーンとアホ面を晒すところだった

マジ、ナイスローブ


ていうか、おま…



顔、整い過ぎだろ!?


顔面のパーツの偏差値いくらだよ…1億か!?



無表情だったダークエルフの眉が訝しげに寄った


「どうかしたのか?」


「あ…すまん、なんでもない

じゃあ飯作っとくから、外で砂埃おとしてから先風呂に入っててくれ」


「お風呂ー!?」


子どもの獣人が、また喜んでぴょんぴょん飛び跳ねる


可愛いな、おい?


「あぁ

こっちだ」


そう言って浴室に案内した


シャワーなどは無い


滑り止め加工の石畳の床と壁に、こちらも石で出来た浴槽

1つだけだが風呂桶もある


浴槽には入れないだろうが、洗い場は広めなのでグリズリーでも入れるだろう


「風呂はここ

砂を払ったローブは椅子にでもかけとけば良いよ」


「分かった」


そして寝ている獣人以外は皆、外に出ていった



ポチャ…



浴槽に手を突っ込んでみたら思ったより水が冷たい


沸かしてないし、給湯器も付いてないから当たり前か



うーん……


あ、火魔法で温められるか?



火魔法を発動させながらこう、満遍なくかき混ぜて…


お?

徐々に温かくなってきた


いい頃合いの温度になったので手を引気、布を作成して脱衣場に多めに置いておく


玄関に戻ると砂埃を払い落としたのか3人がタイミング良く戻ってきた


「準備出来たから入って良いぞ

脱衣所の布も好きに使ってくれて構わないから

寝ている子もあのままじゃ血で痒くなりそうだしその布で拭いてやって

俺は飯の用意するから、何か分からない事があれば声をかけてくれ」


「分かった、ありがとう」


「お風呂ーー!!」


ダダダーッと子どもは浴室に走っていった



おーい


走ったら、滑ってコケるぞー?




俺はキッチンに立ち、晩飯を何にしようか考える


ん?


勿論トカゲ肉一択だけど何か?


とりあえずシンクに取り出した肉にポーションをぶっかけて揉みこみ、鑑定眼を使う


うん、瘴気症は消えたな


料理は…子供がいるしなぁ


噛みきれない肉出して喉詰まらせてもイヤだし…あっ



そうだ、ミンチにすっか



収納スキルは解体は出来るが、流石にミンチには出来ない


そこで、風魔法で肉を細かく切り刻む事にした


包丁いらずで洗い物もしなくて便利だが、如何せんMPを消費しまくるので腹が…

早く肉食べたい


木でミンチを入れる為のボウル、カトラリーやコップ、木皿を人数分作る


あと箸もな


出来たミンチをボウルに移し替え、ニンニクとホーリーバジルも口の中にゴロゴロ残るのがイヤなので気づきにくいぐらい細かく刻んで入れて、よーく混ぜる


ミンチかぁ

色々な料理に応用が効くので、また今度大量に作りおきしとこう


ピーマンや椎茸の肉詰め、餃子、キーマカレーに坦々麺…


ジュルリ



混ぜ終わったのでボウルを持って外に出た


何処に行くのかって?


実は、ログハウスにはコンロと水道蛇口が付いてなかった


キッチンの意味…


なので、外で焚き火を使って石焼き?蒸し焼き?のハンバーグにしようと思いまーす



バナナの葉みたいな大きめの植物を折り畳んでポケット状にし、そこへミンチを詰めて中に葉を折り入れて蔦で縛る

火を弱め、灰の中に葉を数枚敷いてその上に置く

そこにまた葉を乗せ、園芸用の木で作ったスコップで灰を被せて後は待つだけだ


ちなみにこの園芸用のスコップはミンチを詰める前に作ったやつだ


頭の中で何かが欲しいな…と考えると想像に近いアイテムが自動でヒットし、ボードに表示されるようになっていた


木なのでスコップが燃えないか気になっていたが、なんとか大丈夫だった

ちょっと焦げたけどな


焚き火に放り込んだミンチは、鑑定眼を使えば火が通ったか分かるので後は待つだけ


そうそう

鑑定眼Lv3になってから耐性が見えるようになったんだ!


それと4人を見て気づいたのだが、俺のステータスと他の人のステータスは表記方法がどうやら違うみたいだった



待っている間に倒れた獣人が着ていたローブをクリーンで綺麗にしてやろうと持ち上げたら、耐暑(小)が付与されているのが分かった

ローブと服にクリーンをかけてから腕に乗せると、下級スキル欄に耐暑(小)と出る


獣人達はステータスの下に表示されていたのだが…


あ、クリーンは光魔法で、ある程度の汚れを落とせる魔法な?


繊維に入り込んでしまった砂埃や染み付いた血を全て落とすのは、下級だからなのか流石にムリだった


あと、耐性なんだが…

耐性はアクセサリーや衣類に付与されているみたいだった


さっき猫の獣人とダークエルフがローブとアクセサリーを外しているのがチラッと見えたんだが、外した途端に耐性が全て消えていた



焚き火に戻り、手に持っていたボウルにクリーンをかけて収納する

ついでに自分にもクリーンをかけておく



え、料理する前にやれ?



細かいことは気にすんな


手はポーションがかかっていて綺麗になっているから問題なかろう


火を通すしな!


鼻歌を歌いながらスプーンとコップを人数分取り出して、広げた布の上に置いた


「ピッチャーあった方が自分で自由に水を注げるし、2個作っとくか」


勿論ピッチャーには魔法で水を並々と入れておいた




辺りがだいぶ暗くなってくる


焚き火の方からは、これまで焼いてきた肉の時とはだいぶ違い、段々と良い香りが漂ってきた


「そろそろかなー?」


スコップで灰を払って確認


うん、いけてるな



パキッ…



後ろで枝をふむ音が聞こえたので振り向くと、四足歩行の柴犬がいた


いや犬は元々四足歩行だけどもな?


二足歩行の猫もいるから、一応な?


「おっ

目が覚めたか

体は大丈夫そうか?」


こくりと首を縦に動かす子どもの柴犬


鼻が器用にピクピクと動いている


うーん

まろ眉が可愛いな


「腹減ってないか?

いま飯が出来たんだが、食うか?」



ぐーっ…



聞いた途端、盛大に腹の音が鳴った


おおぅ…


「ちょっと待ってろ」


出来上がったアツアツの蒸しハンバーグをスプーンで掬って味見する


うん、臭みと苦味が無くなって鶏肉の旨みが出てる


出来れば塩味が欲しいが仕方ないな…


皿によそって布の上に置いてやる


「熱いからな

冷ましてから食べろよ?」


子犬は頷いてからスンスンと匂いを嗅いで、パクリと1口食べ…



キャンッ



熱かったのか、口を離してしまった


「冷ましてからって…

あ、口の構造的にムリなのか?」


うっかりしてた


今度は息をふきかけて冷ましてから与えてみる


すると凄い勢いで食べ始めた


1人前をペロリと完食し、もう無いのかと手を覗きこまれる



可愛いかよ



頭めっちゃ撫で回してやりたいんだが、ダメだろうか?


「美味かったか?

良かったら俺の分も食べろよ」


「い…いいの?」


キラキラしたつぶらな瞳がこちらを見てくる


可愛い、というか喋れたのか


「勿論だ

ほら、遠慮せずいっぱい食え」



おかわりも全てたいらげ、子犬が擦り寄ってきた


頭を撫でてから背中を撫でると、嬉しいのか尻尾をブンブンと振っていた


でも触った感じ、毛並みが良くない上に背骨が完全に浮いている


瘴気症を患っていた事が原因だろうか?


「あー!

イーサンが起きてるー!!」




「へぇ、嫁さん探しの旅をしてるのか」


「はい

でも先に、ダンジョンで安定した収入を得られるように強くならないといけませんが」


「なるほど」


風呂から出てきた3人は砂埃が落ちて綺麗になっていた

今は交代で子犬が入りに行っている


痩せている理由を聞いたら、ここから更に南にある貧困街に子犬と子猫はいたらしい

満足に飯を食べる事が出来なかった影響で栄養が足りず、成長がかなり遅れていて子犬の方はまだ二足歩行になれないのだそうだ


子猫の獣人の身長は6歳の俺とあまり変わらないのに、12歳なんだと


子どもなのに大変な目にあってたんだなぁ…と思いながら、二足歩行になったグリズリー達とダークエルフにハンバーグを配る


そして、それを頬張った途端


「!! 美味い!?」


「苦くない!!

美味しいー!!」


「…どうなっている?」


苦くない肉に、ものすごく驚いていた


日本生まれの俺としてはだいぶ物足りなかったが、美味い美味いと絶賛される


気に入ってもらえたようで何よりだ


「沢山あるから好きなだけ食べて良いぞ」


足りなければとりにいけば良いしな


トカゲはそこら中に、これでもかってくらいいるし


「苦味が全くない

この肉は、もしやダンジョン産か?」


ダークエルフが興味深そうにハンバーグを見ている


「ダンジョン?

いや、普通にそこにいるトカゲの肉だぞ

苦味はポーションで抜いてある」



ぐふっ



グリズリーが噎せた


…教えてくれた情報によるとだが

どうやらこの国では森林伐採などで環境破壊が進み、ポーションの材料がほぼ採れなくなってしまっているとのこと


特に主原料のホーリーバジル


マジか


「ポーションを使えば苦味が抜けるとは…

初めて聞く調理法だ、興味深い」


おい

ハンバーグをスプーンでこねくり回すな

ミンチに戻るぞ



グリズリーが言うには今ではポーションが手に入りにくく、値段も高騰している希少品で病気や怪我以外に使用することは滅多に無いのだそうだ


なるほどな

そんな品をガバガバ使っていたら、そりゃビックリされるよな普通?


そして強盗などに狙われるから、持っている事はあまり言わない方が良いそうだ


「分かった、ありがとう」


危ない危ない…


今度から気をつけよう


「そういえば君、親御さんはどちらに…?」


…親?


新しくこの世界に体を作り直されたと考えたら、親はシレンになるのか?


でもそうなると…


「遠い所にいる」


異世界から来てカミサマに身体を作ってもらいましたーとか、初対面で説明したら変な子供だと思われそうなのでそう言った


すると3人から物凄く悲しそうな目で見られてしまった


あれ…もしかして何か誤解させてしまったか?


「そ、そういえば自己紹介がまだでしたね

私はグリズリーの獣人、バーナード

パーティ《スピリッツ》のリーダーです」


そして隣のダークエルフが副リーダーのベネディクト

子猫がマシュで、子犬がイーサンだそうだ


「ご丁寧にどうも

俺は……あ」



待って…俺、名前が無い!!



「えっと、俺の名前は…」


困った、なんて名乗るべきか


吃っていると、バーナードが慌てて制止してきた


え、なんだ?


「すみません!

答えられないのであればムリに言わなくて大丈夫です…!

人には言えない事情なんて誰にでもありますからっ」


「お、おぅ?」


また何か誤解されたような気がするが、話を掘り下げられると困るのはこちらなので、黙って頷いておく


そこへタイミングよく、風呂から上がった子犬が走ってきた

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