第4話 大怪我と訪問者

外で誰かが大声で叫んでいる



え、なになに!?



まさか家賃の取り立て?


いやいや、作ったばっかだし!!


というかヤバい、鍵してねぇ!


俺のバカーー!!



椅子を蹴り飛ばし、慌てて玄関に走る


躓きそうになりながらドアに近づこうとして気づく


はっ、ローブ!!


相手がどんな奴なのか分からないんだ


強盗の可能性だってある


収納からローブを引っ張りだして急いで着用する


目が見えないくらいフードを引き、恐る恐る返事をした



いつでも攻撃出来る様に指先を玄関に構えながら



「は、はい?」


「*! *****!!***********!?」



いやいや待ってくれ、何言ってるのかさっぱり分からん!


この家の防音性能高すぎだろ



そっと扉に近づき、チェーンを静かにかける


とりあえず強盗とかだった場合でも、これですぐには入ってこれまい



カチャッ…



扉をゆっくり覗く様にして開ける


「はい、なんですくぁっ…!?」



ガギッ、バンッ!!


カツーンッ…カラカラカラ……



「は…?」



チェ…チェーーーーーン!?



少し開けた瞬間に扉に手がかかり、物凄い勢いで押し開かれた


強い力で引きちぎられた後吹っ飛び、見るも無惨な姿になったチェーンが床に虚しく転がっている


チェーン、お前の事は忘れない…というか


「何す………ぎっ!?」



ギャアァァァァ━━━━!!?



何すんだコラ!?と出かかった声はすぐに引っ込んだ



何故かって?



目がらんらんと光ってるグリズリーが玄関口にいたからだよ!!



え、ジャングルにグリズリーっていたのか?


いや普通はいねーよ!?



「すみません!助けていただけませんか!?」



…わっつ?



え、ヤバい


グリズリーが喋ってる


めっちゃ口が動いてる


危機的状況によるパニックで、ついに俺の頭もステータスみたいにバグったか?

ありえる


「昨日、砂漠を渡っている途中でデザートデスワームに仲間が襲われた

その時に荷物も取られてしまい、昨日から飲まず食わずだった為に脱水症状も起こしている

少しで良い、水を分けてくれないか?」


グリズリーの横からローブを被ったかなり背の高い男が、音もなくぬっと前に出て口早に現状を説明してきた



ひぃっ


い、いきなり出てくるのはやめろ、俺の心臓がもたねぇ!!



「あ…えっと

水くらいなら…」


というかグリズリー以外にも人がいたのか

同化していて全く気づかなかった


よく見れば扉を開け放ったのはこのローブの男みたいだ


パニックになっていて気づかなかったが、そういえば扉にかかった手は人のものだった


ほっ


人といるなら多分このグリズリーも安心…だよな?


「すみません、恩にきます!」


グリズリーが申し訳なさそうに頭を下げる


「気にすんな、狭いけどどうぞ

水を用意するから中で待っててくれ」


「いや、申し出はありがたいが外で待たせてもらう

血で家の中が汚れてしまう」


……血?


え、えっ、待って!?


なんでグリズリーが背負ってる子、すんごい血塗れなんですかヤダー!!?



「水をいただけるだけで充分です

迷惑はおかけしませんので…」


いやいやいや!?


この状態で迷惑云々言ってる場合じゃないよな?


どう見ても意識がないし、呼吸も弱くてヤバい気がする


試しにステータスを確認したら、MAX16のHPが残り4しか無い


鑑定眼のLvが上がったからなのか、状態異常も見えるようになっていた

状態は流血、脱水症、それと瘴気症(小)も発症していた


これで、はいそうですかと外に出して、次に外見て亡くなりでもしてたら寝覚めが悪いどころの話じゃなくなるだろうが!?


「その仲間ヤバいんだろ?

なら相手の迷惑を考えるなよ!

あー…ほら、床は石畳だから洗えるし、遠慮せず中に入れよ」


奥に戻って椅子にかけていた布を2枚重ねて敷き、ポンポンと布を叩く


「ここに寝かせてやって」


「わ、分かりました」


申し訳なさそうに、グリズリーが大きな体を揺らしてノソノソと入ってきた


後からフードの男ともう1人、俺と背丈が変わらないくらいのこちらもフードを被った子どもが入ってきた

もう1人いたんだな


その子どもはキョロキョロと物珍しそうに部屋を見回している


何も無さすぎて驚いているのだろうか?



男が背中から子供を降ろすのを見て、俺は急いでキッチンに入る


キッチンとリビングの間には壁があるのでガサゴソ音が聞こえていても、向こうが見えないのが少し困りものだな…って、そんな事より今は水が優先だな



でも…水を飲ませても助かるのだろうか?



充分な止血はされておらず、意識がない状態では水を飲ませる事も出来ないし、そうなると助かるとは到底思えない


止血、止血か…


手元にポーションを出す


コレを傷口にかけたら止血くらいは出来るので、助かるのではなかろうか?


とりあえずポーション2つと、ポーションを使い終わって残ったマグカップもどきに水を入れてリビングに戻る


リビングは、子供を囲んでお通夜みたいな雰囲気になっていた


「なぁ、その状態じゃ水を飲めないだろ

先にコレを傷口にかければ良いんじゃねーか?」


目の前のグリズリーは喋ってはいるが四足歩行で手が使えなさそうだし、ローブの男に差し出す


男は受け取り、マグカップもどきの中を見た


「コレは…?」


「ポーション

下級のやつ」



「「「ポーション!?」」」


…え?


なんでそんなに驚いてるんだ?


「すまないが、ポーションを買える金が今は手元に…」


「さっき荷物取られたって言ってたから分かってる

それはやるから使ってやれよ

早くしないと死んじまうぞ、その子」


話しているうちに、残りHPがもう3をきっていた


「すみません、ありがとうございます…っ!」


泣きそうな顔で礼を言われた


グリズリーでも顔の表情って分かるんだな


男が子どもの血だらけのローブと服を脱がし、左肩の傷口にポーションをかけ始めた


噛み傷だろうか…

顔を背けたくなる程に沢山の裂傷があり、見るからにとても痛そうだった



パシャッ…



ポーションをかけていくと、かけた場所から徐々に傷口が塞がっていき、鑑定眼で確認したら流血状態が消えていた

あと瘴気症も


へぇ、瘴気症はかけても治るのか


傷口から体の中に入ったからとか?


何はともあれ、これで後は脱水症を治せたら大丈夫だろう


…って、あれ

脱水症も消えている



ポーションってすげぇな!?



まぁ状態異常に効果あるって書いてたし、脱水症にも効果あったみたいで良かったよかった…?


HPも一瞬で全開したみたいだが疲れからなのか、それとも流れた血液までは戻せないのかまだ子どもは目覚めなかった


「コレ…本当に下級ポーションですか?」


え、違うのか?


ちゃんと状態異常が治った様に見えるけど…


「たぶん?」


「た、たぶん…?」


「んー…分からん!」


皆で、え?みたいな顔するな


こちとらまだ生後2日だぞ、この世界の常識なんか分かるか!


あんまり疑わしい目で見てくるなら、そのマリモみたいな丸い耳引きちぎるぞ


「治ったなら良いんじゃね?」


「は、はぁ…」



ぐーーーっ…



すみません、なんか近くで凄くでかい腹の音が聞こえたんだが?


気のせいか?



ぐーーっ…



気のせいじゃありませんでした


「ご、ごめん…なさい!」


男の背後にいた子どもが謝る


そういえば昨日から飲まず食わずって言ってたな、可哀想に


空腹は辛いよなー


俺も昨日なったから分かるわ


「腹減ってんなら飯、食うか?」


「え!?

…良いの?」


「別に構わんぞ」



ただし、飯はトカゲ肉オンリーだがな!



「あの、そこまでして頂くわけには…」


「構わんて言ってるだろ

それに人の好意は素直に受け取るもんだぞ?

ついでだし、泊まっていけば良いよ

その子ども動かせないだろ?」


「あ、ありがとうございます…!」


最初は怖かったが、話していると段々慣れてくるもんだな


デカいけど、意外と見た目は可愛いし


「やったー!

ごはんー!!」


子どもが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる


そしたら被っていたフードがずり落ちて、大きな猫耳が…


うん

さっき鑑定眼を使ったからなんとなく分かってたけどな


「なぁ、あんたら獣人なのか?」


そう、グリズリーとあとの3人は人間ではなかった


獣人って二足歩行しているイメージだったが、四足歩行の獣人もいるんだなー


それとも立てるのかな?


「はい

獣人ですがなにか…?」


グリズリーは小首を傾げる


「いや

飯にニンニク使っても大丈夫かなーと思って」


確か動物はダメだろ、タマネギとかニンニクとか


「大丈夫です

人族と同じ物を食べられますので」


「OK、分かった

あとは…」


あの説明以降、俺達の話を黙ったまま聞いていた男をチラッと見る


その視線に気づいたのか、男がフードをゆっくりとおろす


すると、出てきたのは毛が生えた動物の耳ではなかった



サラリと肩まで流れる白銀の髪

切れ長の二重に映える翡翠の瞳

それを覆う髪と同じ色の長い睫毛

褐色に見える銀灰色の肌

日に焼けた少し厚めの唇

そして瞳と同じ色の石のピアスがついた

少し長い尖った耳



「俺も問題なく食べられる」



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