39 はじめての共同作業

39 はじめての共同作業


 ミックとロック、そしてゲストとなったウイリーは顔を見合わせ頷きあうと、すっくと立ち上がった。

 宝箱の下から、子供の足、猫の足、そして人間と鳥が合わさった足が、にゅっと出る。


 ミックはフタをギリギリまで閉めていたので、宝箱の中は暗がりになっていて、6つの目が瞬いていた。


「音をたてないように歩いて、ゴールド・ドラゴンの目の前まで行こう。そーっとだよ」


 3人は息を合わせ、波打つような足どりで財宝の上を進んでいく。

 それは砂利の上を歩くようなものなのだが、足元からはなんの音もしないので、ウイリーは首をかしげた。


「あれ? なんでこんなに静かなん?」


「忍び足のスキルがあるからね」「にゃっ」


「ふぅん……って、なんでロックがドヤ顔してるし?」


「忍び足のスキルがあるのはロックのおかげなんだ」「にゃっにゃっ」


「へぇ、ロックってば、超イケてんじゃん!」「にゃーん」


「そろそろだよ、静かに!」


 横たわるゴール・ドラゴンの頭、鼻息を感じられるほどの距離まで近づいたミックたち。

 足を引っ込めて、宝箱に擬態する。


「これからどうするし?」


「とりあえず、起きるまで待とう」


 それからミックたちは宝箱からゴールド・ドラゴンの寝顔を見つめながら過ごす。

 しかし起きる気配が無かったので、そうそうに飽きてしまった。


 部屋の中で、リンゴを食べたり、釣り竿のオモチャでロックとジャレあって時間を潰していると。


「フンゴォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 ビリビリと空気が震えるほどの振動、強風で宝箱が押し戻されるのを感じた。


「起きたみたいだ!」「すっげーアクビだし!」「にゃっ!」


 3人はぴょーんと部屋の壁に向かってジャンプ、フチをつかんで外を覗き込んだ。

 そこにはアクビの真っ最中のゴールド・ドラゴンの姿が。

 アクビというのは普通はのどかなものだが、ドラゴンのそれは別格だった。

 大きく開いた口内はラスト・ダンジョンの入り口かと見紛うほどの恐ろしい様相。

 それだけでミックたちの身体は、最終決戦に挑む勇者たちのように引き締まる。


「よし……! 僕がタイミングを見計らって、合図をするからね……!」


「おけまるだし!」「にゃっ!」


 ミックの傍らにいるウイリーとロックは、いつでもOKとばかりに身構える。

 アクビを終えたゴールド・ドラゴンは、寝起きのせいかしばらくボンヤリしていた。

 しやしやがて、なにかを思いだしたようにハッと目を見開く。


「おお、そうじゃった……! 明日はゴールド浴に行く日だったんじゃ……!」


 ウイリーが思わずヒッと息を漏らした瞬間、ウイリーとロックの手が両サイドから飛んでくる。

 『しーっ!』『ふーっ!』と目でたしなめられ、ウイリーは目で反論した。


『ドラゴンがしゃべるなんて聞いてないんですけどぉーーーーっ!?』


『そりゃしゃべるよ!』『にゃっ!』


『でもアイツ、モンスターっしょ!?』


『それを言ったらウイリーお姉ちゃんもモンスターでしょ!?』『にゃっにゃっ!』


『あ、そっか……。ってか、モンスターって言うなし!』


『ごめんごめん、でもモンスターは人間よりずっと知能が高いのもいるんだよ。読み書きができるのも普通にいるし……ホラ見て』


 ミックが視線で示した先は、ゴールド・ドラゴンの背中。

 ゴールド・ドラゴンは竜爪でチョイチョイと壁を彫り、『明日 夕方 ゴールド浴』などとしたためている。

 人間で例えるならば砂に字を書くような行為、それを岩山の固い壁で行なっていた。


『い……岩を、あんなに簡単に……!? あんな爪、カスッただけで超ヤバいっしょ!?』


 ウイリーはミックからもらった勇気を使い果たしたようで、完全に及び腰になっている。


『に……逃げるしミック! 今ならまだ間に合うし!』


『なに言ってるの、もう遅いよ!』『シャーッ!』


 宝箱の中で、無言で揉み合う3人。

 背後から、タイムアウトを告げる声がした。


「……んん? こんな所に、なんで宝箱があるんじゃ……?」


『み……見つかったぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?』


 今にも叫び出しそうなウイリー。ミックとロックは両手を駆使して彼女の口を押さえる。

 ゴールド・ドラゴンは、しげしげと宝箱を眺めていた。

 猫に見つかったネズミのごとき緊張感が、3人の中を駆け巡る。

 しばらくしてゴールド・ドラゴンは、合点がいったようにぐるぐると唸った。


「ははぁ、わかったぞ……! 人間からの貢ぎ物じゃな……! たまにおるんじゃ、ワシを神と崇める者たちが……!」


 ゴールド・ドラゴンはどれどれ、と宝箱に顔を近づけてくる。


「爪で開けると壊してしまうからな……! ワシくらいのドラゴンになると、こうして吐息だけで……!」


 すぅ……! と息を吸い込む。

 ゴールド・ドラゴンは気づいていなかった。今まさに宝箱の中で、キラリンと目が光ったのを。


 『いまだっ!』とミック。

 『にゃっ!』とロック。

 『もう、やぶれかぶれだしっ!』とウイリー。


 直後、宝箱のフタをバーンと跳ね上げるように開き、3人は一斉に飛びだした。


「「「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」


 妖精のようなピクシーの少年と、小鳥のようなハーピィの少女、そしてとどめは黒猫のような黒豹。

 そんなちびっ子たちが「わーっ!」と大口を開けている姿は、かわいさの三重奏。

 そこに『びっくり箱』のスキルが加わると、驚きのオーケストラとなった。


「うっ……うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ゴールド・ドラゴンの恐ろしい形相が、目と舌を同時に引っこ抜かれたように変貌する。

 飛び上がり、山のような身体が宙に浮く。


「うわああああっ!? びっくりした! びっくりした! びっくりしたぁぁぁぁーーーーっ!?」


 着地と同時に激震、それだけでは飽き足らず転げ回る。

 室内は大災害に見舞われたような有様となる。頭上からは砂塵が降り注ぎ、黄金の高波があがる。

 ミックたちは立ち上がり、ちょこまかとその波から逃げ惑う。


 ゴールド・ドラゴンの乱心がおさまった頃には、財宝の山の配置はすっかり変わっていて、大地震のあとの地殻変動のような有様になっていた。

 ミックたちはいちばん高い山のてっぺんで財宝にまみれ、「うぇーい!」とハイタッチを交わす。


「やったーっ!」「にゃーっ!」「マジあげぽよだし!」

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