第7話 戦士クラス冒険者③

 リッシュの親許から回収出来たのは五十万。それも搾り取っての五十万だ。

 五十万を回収したリッシュはその足で冒険者組合に向かい、リッシュにプレートを組合へ返却させて冒険者を引退させた。

 引退した冒険者は復帰する事を許されない。その代わりに冒険者はランク二から引退時にプレートを組合へ返却する事によって退職金のような物を貰える。

 ランク二の冒険者だと五十万。

 その五十万も回収したカプリスはリッシュをとある組織に売り飛ばして三十万を手にして事務所へ帰った。



 数日後、事務所で茶を啜ってのんびりしているカプリスへアペティがリッシュの件で質問をする。


「親分」

「ん? 何だ?」

「リッシュさんの件を見ていたけども、どうもよくわからなくて……」

「仕方ねぇな、今後の為にも教えやるよ」

「ありがてぇだ」

「まず見栄っ張りで自分に甘いリッシュに通常の条件を見せた後に違う融資を提案する。これによって特別感を出し、担保をする事へ誘導。この時点で話に乗ってこなかったら別の案を提示する。だが、リッシュの様なアホは大抵、この誘導に引っかかる」

「でも、三十万は金額が多くねぇべか?」

「そこで担保だ。冒険者のプレートの仕組みは把握済み。奴がプレートを担保にした時点で元金の三十万を回収出来る上に二十万のお釣りがくる」

「あれ? それなら、確実に回収出来る利息含めた五十万までしか貸付け出来ねぇべ?」

「完済と融資を繰り返したのはこちらの現金消費をなるべく少なくして、尚且つ元金を跳ね上げる為。貸付け元金の金額が上がれば一回の利息も増える。だが、こちらはその元金を丸々渡しているわけじゃないから一回の利息で追加融資の差額で渡している金は回収出来る」

「なるほど〜。だけども、結果的には二百万を回収出来てねぇべ? プレート、持ち物売却、親、そして本人の身柄、全部合わせても百四十万だでな」

「残りの六十万は回収が確定している。奴を売り飛ばした先は炭鉱。モンスターに襲われる危険性があるにも関わらず薄給で過酷な重労働と環境。そのタコ部屋へ普通に働きに来ている奴より更に安い給料で働く事を条件に売り飛ばして、その安い給料から残りの金額を無利息で少しずつ返させるんだ」


 無利息にするのは売り飛ばした後では利息を付けても意味がないから。危険性があって薄給なのに利息を付けては完済どころか利息分の返済すら不可能。利息で金額を釣り上げ過ぎて結果的に回収出来なければ無駄骨もいいところ。カプリスにとってこの様な場所への売り飛ばしとは最終地点の一つなのだ。


「安い給料って一体、いくら貰えるんだべ?」

「この条件で働かせられている奴の給料は一日しこたま働いて一千マール。そこから食費、管理費、借金などを引かれて手元に来るのは百マールぽっち。過酷が故に完済するまでに死んでしまう奴もいるが死んだり動けなくなった場合は国から保険金として百万降りてくる。その受け取り人は俺って事になってるからリッシュが生きていても死んでもどの道、六十万を回収した上におまけまで付いてくるって寸法さ」


 炭鉱の仕事は国の管轄下だが、請け負っている組織は殆どが裏組織。危険な上に薄給の非人道的な扱いをしている事は国が黙認している。国は自国で鉱物の採掘をしたいが金はかけたくない。裏組織は取れた鉱物の二割を報酬としてこの仕事を国から受け取って、その鉱物を裏取引により高値で売り捌くから誰も損はしない仕様になっている。


「親分は悪どいでな」

「悪どくて結構。この世の中は奪い合いだ。奪うか奪われるか選ぶなら俺は奪う側を選ぶ。例えそれが悪だと言われても」


 カプリスは茶を一口啜って従業員一人一人に目線を送って言葉を放つ。


「俺らは奪う側だ。例え蔑まれようとも折れるな。金を手に入れる為に俺らはハイリスクを背負っているんだ。気を抜けばすぐにつけ込まれるこの世界で生き抜き、大事なもんを守る為にクズには鬼になれ」

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異世界闇金融 六花 @rikka_mizuse

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