第6話 戦士クラス冒険者②
店主オススメの剣を手に入れたリッシュは早速、腰に携えて町中を闊歩する。
「何? あの冒険者。身につけている物がピカピカしていて目がチカチカするわ。迷惑ね」
「あー、アイツはリッシュだよ。大した実力も無いクセに大口を叩く見栄っ張り野郎だ。堂々としているところを見ると、また高いだけの装備を買ったんだろうな」
道行く人から白い目で見られて陰口を叩かれていてもリッシュは気付かない。それどころか自分は注目の的で眼差しは羨望、陰口は良い噂をされていると思い込んでいた。
「町の人間の視線はオレに釘付けだぜ。やっぱりこの剣を買って良かった。でも……」
リッシュは財布の中を見て溜め息を漏らす。
「はぁ……残り七千かぁ。ギルドと金融屋の利息だけでもキツいのに闇金まで……。でも、オレくらいの冒険者には良い装備が必要だから仕方ないか……はぁ、クエストでも受けに行こ……」
組合を訪れたリッシュは依頼が貼り出されているクエストボードをチェックする。
冒険者ランク毎に貼り分けられているボードの下の方をリッシュは見ていた。
「ランク一のクエストは報酬金安いなぁ……でも、ランク一しか出来ないし……」
ボードの下の方は低ランクのクエスト。ランク一のクエストはモンスターの討伐やダンジョン探索等は殆ど無く、ゴミ拾いや溝掃除等ばかり。
リッシュはランク二の冒険者だが、偶然でランク二に成り上がっただけ。大口を叩いているにも関わらずモンスターの討伐を請け負うほど実力と勇気も無い。
「おい、リッシュ。またゴミ拾いのクエストか? そのキラキラの装備は飾りかよ」
クエストボードの真ん中辺りを眺めていた冒険者に小馬鹿にされるが、
「自分の住む町が汚れているのが放っておけなくてな。それに一流は仕事を選ばないもんさ」
最もらしいハリボテの言葉で相手に自分を大きく見せようとする。
「そ、そうか。じゃ、ゴミとの戦闘頑張れよー」
食ってかかってくると思いきや、あからさまな誇張をしてきたリッシュに冒険者は呆れて捨て台詞を吐いて去って行った。
「オレだって冒険者なんだからモンスター討伐やダンジョン探索とかしてぇよ……」
ゴミ拾いのクエストの依頼用紙を手に取ってポツリと本音を零すリッシュ。ここだけを見れば何かのっぴきならない事情があるように思えるけど、リッシュがモンスター討伐やダンジョン探索に行けない理由はただ弱いから。
何の努力もせず見栄ばかり張ってその日暮らしをしてきたのだから自業自得でしかない。
それもリッシュ自身はわかっている。でも、その日暮らしも見栄っ張りも辞められないから報酬金が少ないクエストを嫌でも受けるしかないのだ。
三日後の昼過ぎにリッシュは鬼娘の事務所へ訪れた。
「おう、来たか」
「はい……」
カプリスを前に覇気の無い返事をする。
「どうかしたか?」
「あの……実は金が無くて……」
三日間リッシュは幾つかクエストを受けて報酬を得ていた。しかし、報酬額は全部で八千マール。元々の手持ちと合わせても一万五千マールで利息の九万にすら届いていない。
それどころか一万五千も食費などで減っていて、現在の所持金は二千程度だった。
「今、いくら持ってんだ?」
「二千くらい……」
「そうか。本来なら厳しく取り立てるところだが、ちゃんと事務所に来て包み隠さず言った根性に免じて特別に追加融資してやるよ」
「いいのか!?」
「ああ。現在の債務は三十万に利息を足して三十九万。四十万を融資してやるから、それで三十九万の方を完済すればいい。残りの一万はアンタが持っていったらいい」
「ありがとう! じゃあ、お願いするよ」
「おう」
契約が成立すると元々の三十万の契約書を破り捨てて新しい契約書を見せ、差額の一万をリッシュへ渡す。
「また三日後に来い」
「ああ。本当に助かったよ、ありがとな」
ウキウキで帰って行ったリッシュだが、また三日後に事務所へ来た時にはまたしょんぼりしていた。
「すみません……また金が無くて……」
「いいよ、いいよ。前と同じ感じでやろうか。今度は六十万融資するから、そこから完済額の四十二万を返してくれればいい」
「本当にありがとう! これで装備の手入れに使うワックスも買えるよ!」
更に三日後。
「えっと、金が無くて……」
「いいよ、いいよ。また融資するから、その金で前と同じように一度完済してくれれば」
更に更に三日後も同じ形で事を済ませ、最初に融資して貰った日から十五日後。
「リッシュさん、どうすんの? 積りに積もって百五十六万だけど」
「でも、金が無くて……どうしましょ? へへへ」
ヘラヘラと笑って問い返すリッシュにカプリスはデスクをバンッと叩いて威嚇する。
「『どうしましょ?』じゃねぇんだよ! 返せもしないのにホイホイ借りてヘラヘラしてんじゃねぇよ! 迷惑料を含めて二百万、ちゃんと耳揃えて返しやがれ!」
「す、すみません! ……でも、本当に金が無くて」
「金が無ぇならその目に毒な装備を売って金を作れ」
「え!? こ、これはレア物の装備でして、その……」
「レア物なら高く売れそうだな。今から質屋へ行くぞ!」
「はい……」
半強制的に質屋へ連れて行かれて鑑定をして貰う。
鑑定を終えた質屋のオヤジから提示された鑑定額にリッシュは驚きを隠せなかった。
「全身の防具、武器の類い、アイテム。全部で十万だね」
「十万!? そんなはずないでしょ!? 全部、レア物だぞ!?」
「レア物? お兄さん騙されたね。これ、全部贋作で、しかも出来が良くない。十万でも高く見積もってる方なんだよ?」
「そ、そんな……」
その場へへたり込むリッシュを他所にカプリスは淡々と進める。
「オヤジ、十万で売りだ。おい、リッシュ。次に行くぞ」
「つ、次? もう、売るものなんてないけど……」
「テメェが返せないなら親に取り立てるだけだ」
「そんな……オレの親は田舎で細々と生活してるのに……」
「そんなもん知るか。テメェが起こした事だろ」
「はい……」
カプリスは十万を回収してリッシュと親許へと向かった。
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