51:相棒を夜ご飯や帰省に誘うのは、当然のことだろう?

蘇小雅は思ったよりも順調に進んだ。いくつかの試験を経て、何思の退職後三週間ほどで、彼は正式に中央警察署特捜班の一員になったと同時に、馮艾保の相棒になった。

もちろんこれは異例の抜擢による結果だった。何といってもレベルの高いセンチネルである馮艾保の側には、ガイドがいなければいけない。それで、彼と組むことのできるS級のガイドは出会うべくして出会った。それに何思と特捜班班長の推薦状もあり、この結果は自然に成就したと言える。

蘇小雅が密かに馮艾保の誘いを受け、彼とお互いのマッチ度を測りに行ったことについては、今はまだ誰も知らない。蘇小雅はもともと上司に隠すつもりはなかったのであるが、なぜかわからないが、言えばおそらく大騒ぎを起こすかもしれないとなんとなく思った。それに、彼は馮艾保とのマッチ度がそれほど高いとは思っていなかった。何といっても彼は馮艾保が嫌いなのだから。

センチネルガイド研究所によるマッチ度の検査結果が出るには二ヶ月から半年かかるので、蘇小雅はすぐにこのことを忘れた。

何思が残した事務机は、当然ながらも蘇小雅が受け継いた。蘇小雅は、二、三日をかけて自分の机を片付けた。若いガイドは表情が少ないが、事務机を快適できれいに設けたことから見れば、気分が非常に良いのがわかる。

蘇小雅は、さらに机の上に一個のイヌハッカと二、三個の多肉植物を置いた。朝、オフィスに来ると、まずはこれらの小さい植木鉢に水をやる。

おそらく新人は運が良いという都市伝説オカルトだろう。いつの間にか蘇小雅が入社してすでに二か月経っていた。この二か月間厄介な事件はなかったが、むしろ何度か別のチームの応援に駆け付けたことで、他の同僚とだいぶ馴染んできた。

また、蘇小雅は認めたくなかったが、馮艾保との交わりが多くなると、以前ほどはこのセンチネルが嫌いではなくなった。

たまに、本当にたまに、馮艾保の気分が落ち込んでいることに気づくと、紺を放って彼に触らせる。科学的に証明されているように、ふわふわした動物は人の情緒不安をなだめることができるのだ。紺は本当の猫ではないが、確かにふわふわしているのは本当だ。

今日、馮艾保はいつもより三時間近く遅れてオフィスに入った。岳景楨が何度も探したが見つからず、心配しているようだった。蘇小雅は彼が何度か電話をかけるのを見て、自分もがまんできずにこっそり走って行き、以前何思が言っていた馮艾保の好きな隠れ場所を一周回ったが、同じく見つからなかった。

ちょうど何思に馮艾保と連絡が取れるかどうか電話で聞いてみようと思った時に、顔を半分隠せるサングラスをかけた馮艾保がふらふらと歩いてオフィスに入るのが見えた。

「おはよう」馮艾保は蘇小雅を目にすると、手を上げて挨拶した。全身いつものように気怠げだが、どこかいつもと違うようにも見える。

「馮艾保、」蘇小雅は彼に状況を尋ねようとしたが、岳景楨が先に口を開いた。「俺について来い」

「うん」馮艾保がサングラスを取ると、きれいな桃花眼が少し赤くなっている。彼は蘇小雅の方を横目で睨み、岳景楨が怒っているのかどうか聞いているようだ。

蘇小雅は肩をすくめた。班長は怒ったわけではなく、ただなんとなく心配しているのだと思ったが、今蘇小雅も緊張してきた。

「はやく来い」岳景楨は馮艾保が蘇小雅とぐずぐずとアイコンタクトをとっていのを見るとすぐに語気を強めた。

「来た、来た。ボス、怒らないでよ!」馮艾保は相変わらずチャラチャラして何も気にしていないようで、スピードも上げず、変わらずふらふらしていた。そばを通るときに蘇小雅に紙袋を押し付けると、唇の動きで言った。「雙胞胎シュアンバオタイだ。熱いうちに食べて。具材がボリューミーだ」

紙袋を持つと、温かかった。中のものはきっとできたてのものだ

蘇小雅は一瞬あぜんとして、振り向いて見ると、馮艾保はすでに岳景楨について彼のオフィスに入っていた。ドアが閉められると、シャッターも下され、中の状況は全く見えなくなった。

紙袋を開けると、揚げパンのいい匂いが漂ってきた。それにチョコレート、クリームなどの甘い匂いも付いている。

中に入っているのはまんまるとした雙胞胎だ。蘇小雅は昨日のことを思い出した。彼が馮艾保と、同僚の逮捕の任務の応援に行き、終わった後二人でドーナツ、雙胞胎、麻花などの麺類の軽食を売っている屋台を通っていると、蘇小雅は鼻をつき出して匂わずにいられなかった。

「どうした?おやつとしてちょっと買って帰る?」馮艾保は当然気づいて、やさしく尋ねた。

「大丈夫です。もうすぐ夜ご飯を食べますし」蘇小雅は時計を見て、しぶしぶ断った。兄さんが夜ご飯は八宝鴨があると言っていた。彼は別に大食いではないので、万が一おやつを食べて夜ご飯を食べられなくなったらどうしよう?「夜空いていますか?兄さんがよかったらうちに来てご飯を食べたらどう?って。八宝鴨があるんですよ!」

蘇小雅は、すでに一日三食を馮艾保と共にするのに慣れていることに自分でも気づかなかった。家のダイニングテーブルでもいつも一人増える。

「良さそうだね」馮艾保は心が動きそうだったが、突然話を変えた。「あいにく今日は都合がわるいから遠慮するしかない。八宝鴨なんだね!美味しそう」

「本当に美味しいんですよ!うちの兄さんの八宝鴨は、外はパリパリで中は柔らかくて、もち米もすべすべかつもちもちで歯応えがいいです。本当に超おいしいです!食べなければ損ですよ!」馮艾保が断ると、蘇小雅は眉をひそめ、頭をひねって精いっぱい勧めた。「今日の夜何か用事があるんですか?八宝鴨は当日に食べないと美味しくないです。蒸したもち米が柔らかくなりすぎるからです」

「大変残念だけど、今日は本当に無理だ」馮艾保は唾液を飲み込んだ。蘇經綸の腕が良いことを彼はよく知っていたし、加えて若いガイドの全力の宣伝で、確かに非常に心が動いた。「でも今夜はお見合いがあるんだ。もう何度も断ったから、今回また行かなかったらやばい。両親はこれ以上我慢するわけがないから、出席しなくちゃ」

彼の解釈を聞いて蘇小雅の機嫌は良くなるどころかもっと悪くなった。眉間に大きな皺を寄せ、唇を尖らし、悶々として言った。「どうして両親はあなたにお見合いをさせないといけないんですか?あなたが歳を取りすぎたと思っていますか?」

「そうかもね。ずっとおじさんと呼んでくる人もいるし」馮艾保は隙を見て笑いちらっと横目で機嫌が明らかによくない若いガイドを見て、からかって言った。

「僕にとってあなたはおじさんだけど、老けていると言うほどじゃないでしょう……」蘇小雅はぶつぶつと言った。彼はどうしても馮艾保をおじさんと呼ぶのが好きだった。二人は十歳離れており、言い過ぎではないでしょう?

馮艾保はハハッと笑い、信号待ちのチャンスに乗じて、手を伸ばして蘇小雅の鼻な先をさっと触った。「私が老けたわけではないと認めてくれてありがとう。きみに毎日おじさんと呼ばれているから、今年二十八ではなく四十八なんじゃないかと自分でも疑ってしまった」

「もう!うるさい!鼻を触らないで!」蘇小雅はむかついて頭を振って馮艾保のざらざらした指を振り払った。センチネルの体温は高いので、触れるとまるで火の粉のようだ。蘇小雅はいつも顔を微かに赤らめずにはいられない。彼はこうなるのが嫌だった。

「よしよし、眉ちゃん、怒らないでね!」馮艾保は大口をあけて笑いながら、子供をあやすように言ったので、蘇小雅はもっとむかついた。

「あなたがいつも僕を未成年の子供として扱わなければ、僕もあなたをおじさんと呼ぶ回数を減らします」

「それはだめだよ。きみは私にとって小さすぎる。何といっても十歳も離れているからね」

いわゆる「汝の矛で汝の盾を突け」は、たぶんこういう状況だ。馮艾保の言葉遊びのスキルに対して、蘇小雅は降参して、力を込めて彼の目を睨みつけることで腹立たしさを表すしかできない。

昨日のことを思い出して、再び手の中で湯気を立てている雙胞胎を見ると、蘇小雅は口元にほんのりと笑みを浮かべずにいられなかった。

もうすぐランチの時間だが、彼は今日も兄さんの愛を込めた手作り弁当を持ってきていた。中には昨日食べ残した八宝鴨が入っている。彼は食べ残しを食べることを気にしない。八宝鴨は蒸すと味が混ざり、食感も新鮮なものに及ばないが、相変わらず美味しい。馮艾保に少し分けて味見させようと彼は思った。

しかし、馮艾保が言ったように、雙胞胎は熱いうちに食べないと、ましてや具材がボリューミーだから、冷めてしまったらもったいない。どうせ今は他に用事がないし……蘇小雅はこっそり頭を上げてオフィスを見回した。この時間帯には皆自分の仕事が忙しいし、オフィスには彼以外に一人の事務員しかいない。相手はミュートで、書類の整理に集中しており、気が散って他の物事に目を向ける気配は少しもない。

ちょうど彼はお茶を入れようと思っていた。ついでにおやつを食べても差し支えないだろう。

彼は用意したティーバッグを取り出した。蘇小雅はコーヒーより、お茶のほうが好きなタイプなので、オフィスの給湯室にコーヒーメーカーとティーバッグが置いてあるがあまり使わない。彼は自分の選んだお茶を飲むのが好きだ。

緑茶と紅茶どちらがいい?ウーロン茶も良さそう……蘇小雅の手は、自分の茶箱の上で行ったり来たりしている。最近彼はクチナシウーロン茶を買ったばかりだ。クチナシウーロン茶は香りが薄いが長く続き、口に入れると柔らかくて甘い余韻が広がり、おやつと合わせるのにぴったりだ。しかし、チョコレートの味が濃すぎるので、お茶の味が持っていかれるかもしれない……やっぱりアールグレイティーにしよう!

雙胞胎に合わせるお茶を楽しく決めると、蘇小雅はさらに小皿を取り出して雙胞胎を置いた。儀式感は十分だと言える。アールグレイティーと雙胞胎の香りが混ざり合い、特捜班のオフィスは一瞬でカフェテラスみたいな感じになった。

事務員はどれほど仕事に集中していようと嗅覚がないわけではなく、ついに香りに吸い寄せられ、わけがわからず書類の山から顔を上げ、誰がそんなに凶暴残忍にオフィスで食べているのかを探した。

彼が顔を上げると、若いガイドが満足そうに雙胞胎にかぶりつくところを見た。揚げパンの香りが一瞬でチョコレートの甘ったるくて良い香りと混ざり合った。具材はボリュームがあるようだ。蘇小雅は慌てて手をあごの下に当てた。こぼれ出たチョコレートが指と手のひらについて、何秒間か少年はキジトラみたいになった。

美味しそうだな……事務員は唾液を飲み込むと、ちらっと時計を見た。昼ご飯の時間まであと三十分だった。こんなに残忍な人がいるのか?

何といっても蘇小雅はガイドなので、他人の感情の変動に敏感で、すぐに事務員の怨念を捉えて、きまりが悪そうに肩をすくめ、慌てて残り半分の雙胞胎を口の中に押し込んだ。しかし、手についたチョコレートはしばらく処理できないので、目を見開いておずおずと罪がなさそうに相手を見つめ、一個食べたらどうと無言で尋ねた。

事務員が返事をする前に、岳景楨のオフィスのドアが開いた。馮艾保が出てきて、蘇小雅のパンパンに膨らんだ頬を見ると、ぷっと笑った。「きみは、うちのネズミから悪い影響を受けたの?」

そう言いながら歩いていき、若いガイドが眉に皺を寄せて自分を睨み、チョコレートで汚れた両手をあげてどうすればいいかわからないという様子を見たら、低い声でさらに爽快に笑った。

何笑っているの!はやく手伝って!

蘇小雅はぷんぷん怒って手を上げた。さっき事務員にこっそりおやつを食べていることがばれた気まずさは、馮艾保を目にしてはけ口を見つけ、当然のように相手に助けを求めた。

「美味しかった?」馮艾保はなんとなく若いガイドの言わんとすることを理解すると、それ以上意地悪をせず、蘇小雅の引き出しの中にウェットティッシュがあるのを知っていたので、引き出しを開けて何枚か取り柔らかく白い手のひらを入念に拭いた。

「うん」雙胞胎は呑み込みやすい食べ物ではないので、一口で詰め込んだ結果、蘇小雅は今話す能力を完全に失い、一生懸命咀嚼しながらうなずいて返事をするしかできない。

「どれが好きかわからなかったけど、雙胞胎に爆盛りチョコレート味があるのを見て、きみが好きだろうと思って買ったんだ」馮艾保は俯いて蘇小雅の指についたチョコレートの残りを一本一本拭きながら、口から出まかせに説明した。

「うんうん」いかにも好きだ。

「好きだったら、今度別の味も試してみる?今日ヨーグルトソースが入った麻花も発見した。」馮艾保は尋ねた。

「ううん」ヨーグルトソースは好きじゃないけど、カスタードならありかも。

馮艾保は顔を上げて蘇小雅をちらっと見た。美しい桃花眼が笑って弓形になっている。「あの屋台にはカスタードの商品はないんだ。お兄さんに作ってもらったら?」

「むふう」できないわけではない。兄さんは最高だ。

「ところで、明後日の夜は空いてる?」やっと両手をきれいに拭き終わり、馮艾保は満足そうに若いガイドにハイタッチすると、白い目で見られた。

「うん、ういてふ……」口の中の雙胞胎を大体呑みこんで、蘇小雅はやっと舌足らずにいくつかの言葉を答えられるようになった。

「お客さんとしてうちに来てくれない?うちの両親がきみを食事に招いて、新しい相棒と知り合いになりたいんだってさ」

蘇小雅は目をぱちぱちさせ、首をひねって疑わしそうに馮艾保を見つめた。彼は、馮艾保が自分の親と口にしたときに、感情の波動が突然消え、目の前に人が存在しないようだったことに気づいた。

「そう、私は両親と会うのがそんなに好きじゃない」馮艾保は自分の椅子を引いてきて、蘇小雅の向かい側に座った。表情は珍しく笑顔ではなく、一抹の倦怠がかすかに漏れ出ている。「でも仕方がない。彼らの出した理由に何も不審なところはない。以前も彼らは何思を招いて一度うちで一緒にご飯を食べた」

「僕は別にいいですよ。あなたもうちにご飯に来たことがありますし」それに、今でもよく来る。蘇小雅はこれが問題だとは思わない。

しかし、彼は前にラッセル中将と会った時のことをふと思い出した。馮艾保の態度は確かにとても異常だった。

「あなたは僕に来てほしいですか?」なぜこう聞いたのか自分でもわからなかった。

馮艾保も彼がこう聞くとは思いもよらなかったに違いない。驚いて彼を見つめると、しばらくして突然笑い出した。

「行こう。両親が果たしてどうであれ、少なくとも彼らが出す食事には食べてみる価値がある。明後日七時半、車で連れて行くよ」

蘇小雅はうなずき、ただ普通の食事会として受け入れた。



雙胞胎シュアンバオタイ:ドーナツに似た甘い揚げ菓子です。

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