40:人が嘘をつこうとすると、よく余計なことを言い出す。

「何で彼女にクマルの木を植えたかを聞くんですか?」数人が卜家の外で止めていた車の横に戻ったばかりで、蘇小雅が我慢できずにそう聞いた。

「ん?」馮艾保は頭をかしげて彼を見て、自然にタバコの箱を取り出して、手のひらで軽く叩いた。「今、私に聞いていいの?」

「もう聞いたじゃないですか?」蘇小雅は馮艾保に眉をひそめて、こいつがまたわざと自分を焦らしているのをはっきりわかっている。

 馮艾保は低い声で笑ったが答えていなくて代わりに聞いた。「何思の車で直接帰宅するか、それとも私の車に乗って、私に送らせる?」

 明らかに、馮艾保はここで事件に関連する情報を話す気がない。蘇小雅は彼が何を調べていたかを急ぎで知りたいなら、馮艾保の車に乗らなければならない。そうしないと明日会うまで待つしかない。

 何思は少しでも急いでいないようで、頭をかしげてからあくびした。疲れたようだ。

「阿思兄さん、おっさんに送らせてもらいますよ?」蘇小雅は昔には自分が好奇心旺盛な人だと思っていなかったが、馮艾保に出会ってから、昔はただ好奇心に刺激することがなかっただけだとわかった。

 あるいは、馮艾保は人の好奇心をくすぐる方法をよく知っているから、いつも彼に心の底をざわざわさせていたが、最終的には自分から跳び込むのだ。

「いいよ」何思はうなずいた。どうせ彼はこの二人にどうしようもできないから、彼らが自分の前で騒ぎ立たない限り、彼の目線に届かない所で何をしようと彼には干渉の余地がない。

 なにせ、蘇小雅はもう成人だから。

「そうだ。鑑識課に知らせて、卜家のゴミを調べさせてくれ。行動はもっと早いほうがいい、先ちょうど見てみたら、その家のシンクにゴミ処理機があって、物が既に粉砕されてしまった。もうちょっと遅くなったら本当に取り戻せなくなる。捜索状は先送った」馮艾保は言葉の最後と同時に、何思の手元にあるマイクロパソコンがピピッと音を立ていた。

「もう少し遠慮してくれよ。そんな当然のように俺を命令するな」何思は不満げにつぶやいたが、馮艾保から割り当てられた仕事を受け入れた。何が気づいたのか、卜家のゴミ処理機が何を粉砕したのかは聞いてなかった。

 蘇小雅は口を開けようとしていて、すぐに閉じた。落ち着きのないように見えた。

「さあ、車の中で話そう。もうここに居ては駄目だ。もし秦夏笙が警備員に連絡して追い出しに来たら、良くない場面になるからね」馮艾保は若いガイドに指で手招きして、まだ火が点いていないタバコをくわえながら、助手席のドアを開けた。

 蘇小雅は車のドアを見て、そして馮艾保を見て、心の中が少し気まずきそうだったが、結局おとなしく車に乗り込んだ。

 ドアが閉まる前に、馮艾保が俯いて片手を車の屋根に置き、もう片手をシートの背もたれにかけて、笑いながら聞いた。「後で車の中でタバコを吸っても気にしない?」

「馮さんの車だし」蘇小雅は肩をすくめた。彼はタバコの匂いが嫌いだが、センチネル専用タバコの匂いは薄いので、受け入れない訳でもない。それに、車の持ち主がどうしたいかについて、彼が意見を述べる立場ではないだろう?

 馮艾保は少し眉を上げて、喉から低くて笑い声のような音を発した。彼が身を起きて車のドアを閉めた。数分後、センチネルが運転席に戻ってきて、先に何か何思に伝えたのだろう。

「ただ何思に運転中に気をつけるように言っただけ。彼は疲れているようだったから」馮艾保は予想外に説明した。

「そう……」逆に蘇小雅のほうが何を答えるべきかわからなかった。

 馮艾保は一目彼を見て、唇を曲げてタバコに火をつけてから、車は順調に道路に出て、コミュニティのゲートを出た。馮艾保は短くなっていたタバコを消してから、やっと口を開いた。「さて、何を聞きたいのか?」

「何でクマルの木について聞きました?」蘇小雅の心にはたくさんの質問があったが、彼を最も疑問に思っていたのはこのことだった。

 馮艾保は無意味なことをしない人だ。彼がわざと離れる前にこの質問をすることは、この質問がどれだけ重要であるかをわかる。

「汪先輩から聞いたろ?卜東延はWarfarinワルファリンという抗凝血剤によって死亡した。あるいはより正確に言うとWarfarinに似ている成分が検出された」

「うん、汪監察医が説明しました、この薬は昔鼠を駆除するために使用されていたから、殺鼠剤とも呼ばれています」

「そうだ。それでは、その学名を知っているか?」馮艾保は蘇小雅をちらっと見て、からかっている顔だった。

 蘇小雅の反応は素早く、直感で答えた。「クマルと関連がある名前とかですか?」

「眉ちゃんに十ポイント。合計百ポイントになったら、プレゼントでも贈ろうか?」馮艾保はまるで一分でも蘇小雅のことをからかわないとすぐに死んでしまうかのようだ。

 蘇小雅は彼に白目を向けて、無言で彼に早く続けるよう促した。

「クマリン系物質のWarfarin。この物質は一般的には合成されるか、クマリンを豊富に含む植物から抽出されるモノだ。そして、私が聞いたクマルの木はトンカビーンズまたはブラジリアンチークとも呼ばれている。自然界で異常に高濃度のクマリンを含む植物の一つだ。その名前からもわかるように、この物質はクマリンとの関係がどれだけ近いか」今回、馮艾保は潔く答えて、少しでも隠していない。

「つまり、卜東延が薬を過剰摂取したのではなく、誰かに食物で徐々に毒殺された可能性を疑っていますか?」蘇小雅は一気に恐ろしく感じた。

 蘇小雅は汪監察医が卜東延の症状について言った言葉を思い出した。『その人はきっと死者を途轍もなく憎んでいた。だからこそ、彼をいたぶって、彼をこんな苦しい死に方をさせたのだ』

 当初聞いた時、蘇小雅彼はそれほど深く感じなかった。なにせ、何思が言うように、謀殺事件はほとんど憎しみに関わっている。何の怨念もない人を殺す計画を立てるなんて誰かするんだろう?この毒を盛った人はとても冷酷だ。その人は卜東延が弱っていくのをただそばで見ていて、止めなかった。

 しかし今になって、より詳細な情報を聞いて、蘇小雅はこの謀殺事件がどれほど恐ろしいものか、その背後に隠された憎しみがどれほど深刻なものなのかを気づいた。それは誰もが背筋を凍らせるほどだった。

「そう、汪監察医はずっと理解できなかった。なぜ卜東延がほぼ一年もの間を耐えてから死んだのか。通常、Warfarinの過剰摂取による死亡は非常に速く、約三か月もかからない。それに、触媒がなければおそらく卜東延はさらに一、二年苦しんでから死ぬとこだった」馮艾保はそう言いながらあごを前に伸ばしてグローブボックスのほうへ軽く上げた。「最新のレポートをそこに入れた。出して見てもいい。君たちが汪先輩を訪ねた時、まだ一つや二つの検査結果は出ていなくて、後で追加された」

「それもありか……」蘇小雅は驚いて、グローブボックスから巻かれたレポートを取り出して、午前中に彼と何思が見たものよりもはるかに何ページも多かった。

「要するに、卜東延はここ数か月間からビタミンEのカプセルを服用し始めた。おそらく美容や栄養補助食品の一種だと思う。だが不運にもビタミンEはWarfarinの効果を促す。それはつもり、彼が体内にある爆薬の導火線を自分で点火したようなことだ」馮艾保は感嘆のため息をついた。

「それで秦夏笙が卜東延の食事にクマルを入れて、徐々に彼を毒殺したと疑ったのですか?でも彼女も卜東延が家で食事することはほとんどなくて、朝食はみんなで一緒に食べるだと言いました。わざと料理に別の物を加える可能性は低いです」蘇小雅は秦夏笙のやつれた表情を思い出して、夫を失ってからその先には一人で三人の子供を育てなければならない母親を信じたいと思った。

「当ててみよう。彼女も君と何思に何かを飲むかを聞いたよね?そして、コーヒーはもうないだと伝えた」馮艾保は頭をかしげて蘇小雅に微笑みかけて、若いガイドが戸惑って頷くのを見てから話を続いた。「君は彼女に対する評価は高いよね。なら、彼女は洗練されて気配りのある女主人だと思っているかどうか教えてくれる?いつでも客を自分の家に帰ったように感じさせて、心遣いが行き届いている?」

「それは……うん、僕はそう感じました」蘇小雅は少し心細そうに答えた。彼は馮艾保が何か大きな大技を持って、自分の前で待ち構えているような気がした。

「それじゃ何でこんなにも親切で丁寧な女主人が夜八時過ぎても、客にお茶やコーヒーを飲むかどうか尋ねるのか?」馮艾保の口調からあざとらしい賛嘆を混じって、蘇小雅の返答を待たずに続けた。「君と何思が最初の時に何かおかしいと感じなかっただろう?でも一般的には、多くの人がカフェインに強く反応する。厳重な場合は昼過ぎ、普通の場合は夕方六時か七時以降、睡眠に影響を及ぼさないためコーヒーやお茶をもう飲まないようにする。もちろん、影響を受けない人もたくさんいるし、コーヒーやお茶などの飲み物を好む人もいる」

「そうですね。たぶん単に彼女はお客の習慣を知らなかっただけで、選択肢を増えようとしたかったから聞いたのかもしれません」蘇小雅は、この階段は馮艾保がわざと出して仕組んだものだと知っているが、歯を食いしばって無理やり階段を上った。彼は意図的に馮艾保と歯向かうつもりはない。彼はただ本当に……信じたくなかった。

「私は昔、秦夏笙のような元々セレブで、あるいはセレブと付き合いがある奥様を何人か触れ合うことがあって、彼女たちから少し学んだことがある。夜遅くに訪れる客に対して、アルコール飲料を尋ねることはコーヒーやお茶を尋ねるよりも礼儀正しいのだ。ハーブティーやフルーツティーの場合は別だが」

「でも、秦さんはこのルールを知らなかったかもしれません……」蘇小雅は自分の反論がどれだけ力不足であるかを知っている。秦夏笙がこの潜在的なルールを知っているかどうかはわからないが、彼女はずっと思いやりがあって、礼儀正しい態度を示していて、どこまでも丁寧でいて、押し付けられるような感じもさせない。こんな人は客をもてなす際にきっと倍に気を配っている。

 蘇小雅と何思が卜家に着いた時、すでに夜八時を過ぎた。自営業料理人である彼の兄でさえこんな時間には客にお茶やコーヒーを勧めないし、代わりに料理セットに香料入りのお茶やハーブティーを提供する。秦夏笙の思いやりと丁寧さはきっと彼の兄に負けない。

「こんな顔するなよ、眉ちゃん。何も秦夏笙が犯人とは言ってないし、ただ完全に彼女を疑わないわけにもいかないだろう!パートナーは常に最も疑うべき対象だ。特殊な場合を除いて、この世界のどんな殺人事件にも原因があって、死者と加害者とは知り合いで、さらには最も親しい人だってこともよくある」

 若いガイドがショックを受けて、受け入れがたい表情で小さな顔をしかめた。馮艾保はため息をついて車を道路脇に止めて、手を伸ばして表情を曲がりに曲がった眉ちゃんの眉を撫でた。

「何ですか?」蘇小雅は撫でられて驚いた。体全体を背もたれに引き篭って、センチネルが自分の額に置いた手を思い切り叩き弾いた。もう片手は必死に自分の眉間を抑えて、長い間静かにしていた紺が急に勢い良く飛び出してからにゃーにゃー鳴きながら馮艾保の肩に跳び上がって、誇り高い尻尾で男の首を回った。

「紺!早く戻って!」蘇小雅は怒りながら焦って低い声で叫んで、顔は真っ赤になった。自分はもう馮艾保のからかいに慣れたと思っていたし、最近の紺もとても大人しくて、長い間外へ走り出していないのに、今はどういう状況?

「にゃーにゃーにゃー」紺はいつも自分の本体に対して何の情けもあげない。紺が巧みに馮艾保の肩で伏せて、ふわふわの頭をもう片方の肩に載せて、しなやかな尻尾が男の背中で快適に揺れていた。

「怒るな。交換しょう」馮艾保は常に公平な男だ。言葉が終わる際に蘇小雅の手のひらはしっかりと沈んでいた。

 紺は湯たんぽのように丸いハムスターを見た途端、口を開けていくつかの息を吐いて、尻尾の毛は爆発したように立てて力強く振いていたが、ようやくこの前のように飛びかかって引き掻いたり、叩いたりしていなかった。

 これも一種の貰い手だから顔を上がれない状況なのか?蘇小雅は手のひらの中のハムスターをしっかり握って、思わずに何度も揉んでいた。

「本当に犯人は秦夏笙だと思いますか?」蘇小雅は自分が秦夏笙に共感しすぎていただと知っている。手の中にいる小さなハムスターがようやく彼に冷静さを取り戻させてくれた。

「確定はできない。まだ実証する必要がある」馮艾保は肩をすくめた。「私が観察できた疑問点だけ教えられる。卜東延は明らかに上流階級に入りたいと考えていた。彼があえて自分の家をそのようなコミュニティに買って、さらに最上層に近い位置にしたことを見ただろう。夫を手伝う賢い奥様として、秦夏笙もきっとどうにかして貴婦人たちの輪に入ろうとするだと思わない?」

 彼の肩に乗っていた紺は不快そうににゃーにゃー鳴いて抗議したから、男は逆手で愛嬌のある子猫を掴み下ろして、自分の膝に押し置いて、ちょっとくらい撫でた。

「彼女が特にお茶とコーヒーを言及したのは、私たちに選択肢を与えるためではなく、私たちに気づかれないように自然にコーヒーがないことを教えて、万が一私たちがコーヒーを飲みたいと言い出して、彼女がそれを提供できない場合を避けるためだ。彼女は既にコーヒーを処理してしまったから。証拠はシンクからコーヒー、シナモン、バニラの匂いを嗅いたこと」

 トンカビーンズにはキャラメル、アーモンド、バニラ、シナモンなどの香りが含まれているから、バニラの代わりにトンカビーンズを使う人がよくいる。

 何という偶然だ。蘇小雅はちょうど今調べようとしていたのに、資料を送信するのを忘れて、手のひらの中のハムスターの小さい足にうっかり送信ボタンを押されて、検索結果が表示された。

「彼女はどうしてあえてこれをしたんですか?何も言わなければ、気づかなかったかもしれませんのに……」

「私の経験は教えた。人が嘘をつこうとする時、いつも余計なことを言い出す」馮艾保は再び車を道路に乗り出した。「そして、君にもう一ついい知らせを教えよう。私は何も秦夏笙という子羊だけ見つめて離さない訳じゃない。私たちはもう一匹小羊がいるよ」

「それは……王平安のことを指していますか?」蘇小雅の目が一瞬で煌めいて、秦夏笙よりも彼は王平安を疑っている。

 そして今、彼は犯人が秦夏笙以外の誰かであることを深く願っていた。

「もし夜中に眠れないなら、私が送った資料を見るのお勧めだよ。特に王平安がチャウダーを出してある日付と、卜東延が残業しなくても遅く帰宅した日付。面白いモノが見つけられるよ」

 馮艾保は若いガイドに左目を瞬いて、笑いながらの声がまるで悪魔のささやきのようで、実に人に犯罪を起こらせる。そして、誘惑された蘇小雅は意気地がなくてドキっとした。

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