猫と鼠はずっと、互いに愛し、殺し合う関係／黑蛋白

39：卜さんが浮気したこと、ご存知ですか？

　一体何を匂ったのか馮艾保は具体的に言わなかった。代わりに、とても社交的に秦夏笙が手入れした庭を褒めて、特にジャスミンの花を褒めた。

　先ほど何思が褒めたとき秦夏笙が現れた喜びの気持ちと比べて、馮艾保の褒め言葉に対して秦夏笙はただ控えめな微笑みをしてから礼を言った。

「馮警官は何かお話がありますか？」この前の病院でのやりとりで秦夏笙は時間をかけて馮艾保と会話しなくて、直接に本題に入ることが一番安全だと理解した。そうしないと目の前のこの人に感情をかき立てられて、罠に落とされる。

「中に入って話しましょうか？あなたのご家庭のプライバシーですから」馮艾保は自由気ままな態度でそう言った。まるで彼こそこの家の主人のようだ。

　秦夏笙はあまりそうしたくないように見えたが、この提案を断れないので、彼女は顔を引っ張って、数人を連れてもう一度屋内に戻った。

「馮警官、何か飲み物はいかがですか？コーヒーはちょうど切れましたが、お茶かジュースはどちらが好みますか？」数十分前の会話が再び繰り広げられた。秦夏笙はどれほどお招きしたくないと言っても、おもてなしの作法は一つも欠かさない。

「コーヒーがないんですか……」馮艾保は残念そうな表情を見せた。「それでは秦さんにお手数かかさなく、水だけで結構です」

　そうして四杯目の水と水差しが持ってこられた。秦夏笙は何思、蘇小雅、そして自分のカップに水を注いで、一行は再び離れて座って、女主人を囲む三人の男性の構図が現れた。

「皆さんは先ほど何を話していました？続けましょう。私の事は急用ではないので」馮艾保はセンチネルの天性が影響しているのか、それとも本性がそうなのか、現れると話を仕切れて、自然に人々の中心と要な存在になれる。

　何思は肩をすくめて、「大体全部聞いた。秦さんは以前家で卜さんが血を吐いているのを見たことがあって、胃潰瘍も持病だ。他は体にできたあざも、約半年前から現れたと。俺たちは秦さんにも説明したが、卜さんは重度の自発性出血によって亡くなったと、おそらく長期間にわたり誰かに薬物を使われたからだ」と言った。

「それはかなり包括的に語っているね」馮艾保はカップを持ち上げ、一口飲んで、賞賛の言葉を述べた。「お、あなたの家の水、味は特においしいですね！フランスからのものですか？」

「はい、夫は好きなので」秦夏笙はまだ警戒している。眉をひそめて、表情が硬くて、眼差しを常に馮艾保をじーっと見つめている。

「秦さんはどうやら私と会うのが嫌いなようですね。申し訳ありません、この前、病院での行動は少し度を超えてしまいましたが、それもすべては事件の必要性に従ったものです、お許しいただけますか」

「馮警官、何を言いたいのかはっきり言ってください。遠回しに言う必要はありません」秦夏笙は明らかに彼の取り計らいを受け入れつもりはなく、足を組んで、両手を膝の上に置いて、防御の姿勢を組んでいた。

　相手がこれほど明確に伝えたので、馮艾保は誇張に手を広げて、「私には悪意はないんだ。全部誤解だ！」と言っているような態度で口を開いた。「卜さんが実は浮気したということ、ご存知ですか？」

　本当に、まったく遠回ししていない。

　蘇小雅と何思もポカンっとした。秦夏笙もこの答えを聞くのを予想しなくて、表情を何秒か空白になったが、すぐに赤くなって、元々冷静で自制のある態度が烈日の下のアイスのように、数秒もの間で溶けていなくなった。

「あなたは何馬鹿げたことを言っているのですか！私の夫、東延が浮気なんてありえないです！」夫が亡くなって、まだ悲しみに浸っている時に馮艾保に挑発されても礼儀正しく優雅さも依然に持っている未亡人がついにはコントロールを失った。彼女は怒鳴りつけて椅子から立ち上がって、瞳を大きく見開いて息を荒げて、自分の情緒を抑えようと必死に両拳を握りしめていた。

　それでも、馮艾保は彼女に息抜きをさせなかった。顔には完璧な笑顔を浮かべたまま、懐からいくつかの写真を取り出して、一枚ずつゆっくりとテーブルの上に並べながら、説明し始めた。「私たちは証拠に基づいてから話を述べるのです。秦さんこれを見てください。これは私が監察医から受け取った写真です。卜さんの身体にあるあざ、もしあなたが怖がって見たくないなら、私が言葉で説明してもいいです」

「見たくありません！これはどういう意味ですか！私の夫は謀殺されました。私たち家族はもう十分惨めに見えませんか？なぜ他人の傷口に塩を振りかけるのですか？」秦夏笙は激しく頭を振り背いて、テーブルの上の写真を見ようとしない。怒鳴った後に彼女の体が震えるまでこわばって、涙が顔から一滴一滴で流れ落ちて、誰もがこの悲しむ女性を見たらさらに傷つけることを心苦しかった。

　なのに、超人的な視力を持つセンチネルは、まるで目が節穴のようだ。彼は微細な歯車の回る音も聞こえるのに、未亡人の苦痛の悲鳴を聞き取れなくて、勝手に話を続けた。「ご安心を。これらの写真は局所の位置ばかりで、主に太ももと腰周りで、あざが最も密集している場所です。もしあなたが一目を見てくれたら、うちの監察医が丁寧に手のひらの跡を描いてくれたことに気付くでしょう」

　馮艾保の続きを阻止しようとしたつもりだった蘇小雅は、「手のひらの跡」という言葉を聞いて、口を閉ざした。

　蘇小雅はこの前、秦夏笙が言ったことを思い出しました。子供の世話があって、卜東延も仕事に忙しいので、二人が親密な関係を数年間持っていない。さらに卜東延は妻がバスタオルを持ってくれることに激怒する。明らかに、妻に自分の体に何か跡があるかは見られたくない。

　もし馮艾保が問題を指摘する前に、蘇小雅はただ単純に秦夏笙の考えに沿って、卜東延がプライドやプライバシーに基づいてから妻に体のあざを見られたくないというなら、今の蘇小雅は状況がこんな簡単ではないだとはっきり気付いていた。

　何思は恐らくもっと早い段階で馮艾保の意図を察知していたから、最初からとても落ち着いてて、コップを持って、まったく関係ない人のように振る舞った。

　秦夏笙はやや混乱したように手で顔の涙を拭いた。彼女はメイクをしていない。きれいな素顔で、目の周りと鼻先は真っ赤で、大きく深呼吸し、身体の震えが前より少し和らいでいた。もはや自分が馮艾保を止められないことを理解したようだ。最善の方法はこの男の期待に従って返答することで、傷害を広げず、問題を早く解決できるのだ。

「手のひらの跡が何を意味するのですか？」秦夏笙はまだテーブルの上の写真を見たくないし、馮艾保に直面したくないので、体を横にして掃き出しの窓の外を見つめ、世界の宝と呼ばれる首都圏の夜景を眺めていた。「もし、あなたがそれらの跡が東延が女性と寝た時に残したものだと言いたいのであれば、私は今あなたに教えられます。東延はベッドで抱き合うのを好みません。私は彼と結婚してから、三人の子供をもうけましたが、セックスの時に抱き合ったことは一度もありません。それに彼は背後からの体位だけが好きです」

　この情報量は多すぎたとも言える。蘇小雅は顔が赤くなってしまったのを制御できずに、家族の中の大人、つまり、何思を見つめたが、何思も蘇小雅に何を助けるのかもわからない。

　若いガイドの緊張を感じた何思はエンパス（empath）を使って優しく彼を安心させるよう撫でたが、彼ら二人の間にある温かさとは異なって、もう二人の間の雰囲気は歯向かうと言っても過言ではない。

「彼は今も背後からの体位が好きのようですね」馮艾保は表情を変えずに、さらに余裕を持って軽く笑ってからそうからかった。「秦さん、これから伝えなければならない悪いニュースがこれです。おそらく、これからの話があなたを酷く傷付くことになるかもしれないことに申し訳ないと思っていますが、これはあなたが知る必要があることです。お許しを願います」

「あなたの言葉のどれが私に傷付いてないですか？」秦夏笙は屈することなく、彼女は迅速に横目で馮艾保を一瞥して、冷笑した。「言ってみなさい。この前あなたは病院で私が朝食に毒を盛り、夫を殺したと疑いました。今日あなたは何を言うつもりですか？」

「どうやら、私はあなたの心の中で確実に嫌な奴のようですね。はあー」馮艾保はあざとく胸を支えてため息をついて、次の瞬間、口調が一変した。「卜先生の体に残った手のひらの跡は、女性のではなく、男性のものです。手のひらに明らかな傷跡があって、身長は約百八十センチくらいの男性です」

　秦夏笙の息の音がこの瞬間蘇小雅と何思の耳から消えていた。女性の背筋はまっすぐなままで、何にでも屈せられる物はないのようで、どんな傷心事も彼女を押し潰れないのようだが、今のこの凛とした姿はまるで無形の重荷に押し潰されたかのようだ。

　繊細な体が少しでも折り曲がることがないが蘇小雅は感じれる。秦夏笙の心の中で崩れ去る何かがある。

　繊細で脆弱な呼吸音が数十秒後再び一行の耳に入ってきた。秦夏笙はゆっくりと頭を馮艾保に向けて、顔全体が血の気を失い、唇さえ青白くなってしまった。

「あなたは……東延の浮気相手が、男性だと言うのですか？」

「浮気とは断言できませんが、確かに、卜さんには長期的に固定の性的パートナーがいって、それが男です」ここまでくると、馮艾保の言葉は保守的になってきたが「浮気」という二文字の破壊力よりはるかに強烈だった。

　秦夏笙の薄い体がふらついて、足元でつまずいた。蘇小雅はすぐに跳び上がって彼女を助けてから、注意深くて彼女をソファに座らせ、コップを彼女の手の中に押し渡した。

　この状況では何を尋ねても違うだと思った蘇小雅は黙り込むしかない。

　馮艾保は秦夏笙が一杯の水を飲み終えるのを待っていて、震えながら静かに涙を流す間、また容赦なく攻め続けた。「この件について、私が言いたいのは、卜さんに男性のパートナーがいること、今日初めて知ったんですか？」

　秦夏笙は何秒か遅れてからやっと馮艾保の質問を理解して、信じなさそうな顔で依然として挑発的なセンチネルを見つめた。「あなた、あなたは本当に今の……今のは……演技だと思っていますか？あなたは、私が夫の浮気をとっくに知っていたから、彼を殺したと思っていますか？」

　この反問について馮艾保は答えずにテーブルの上の写真をしまい、ソファの背もたれに寄りかかって、足を組んだ。まるで自家のリビングにいるかのようにくつろいでいた。

「あなたの知る限り、卜さんには親しい男性の友人がいますか、または彼のスマホやソーシャルメディアで怪しい相手を見たことがありますか？」

「わかりません」と秦夏笙は冷たい返事してから冷笑した。「あなたは、これを通じて、私が夫の社交関係を把握しているか、彼が浮気をしていることを既に疑っているかを試すつもりですか？馮警官、私は知りません。あなたが今日このことを教えてくれるまで、私は夫が浮気していると疑ったことはありません……または、あなたの言葉を借りれば、長期的に固定の性的パートナー。私は、この用語は、私にのみ適用されるべきだと思っていました」

　自分の目的を看破られたにもかかわらず、馮艾保は恥ずかしがることなく、肩をすくめ、親しげに笑った。「何事も試してみるべきです。もしもあなたがボロを出しましたら？私が来る前に裁判官と挨拶しました。いつでも捜索令を出してもらえます」

「私がボロを出しましたか？」秦夏笙は少しも屈しなかった。彼女が冷静に戻したら、あの馮艾保と張り合える女性に戻っていた。

「どうでしょうね」馮艾保の笑みが桃の花びらのように魅力的な瞳を曲げて、腕を上げて時間を確認した。「もうすぐ十時です。夜遅いに居続けて邪魔になるのはあなたの都合もありますし、私たちは一旦ここで失礼します。他に何か秦さんの協力が必要なことがあれば、また来ますね」

　そう言って、彼は立ち上がって、お詫びを兼ねたのように一行が飲んだコップをキッチンに片付けた。

　秦夏笙も慌てて追いかけた。「このままでいいです。私が片付けます！」

「それでは、私達はこれで失礼します」馮艾保は元々コップを洗うつもりはないから、女主人も後を追ってきたし、彼も手を離した。

「今回は見送りません」秦夏笙は明らかに暫く馮艾保を含む三人の警察官と接触し続けたくないから、背を向けて蛇口をひねた。

「そう言えば、庭にクマルの木を植えていましたか？」

　コップを洗う微細なぶつかる音が数秒途切れて、秦夏笙は蛇口を閉めて、身を回って馮艾保を見た。「はい、それに何か問題はありますか？」

　馮艾保は微笑んで答えずに、手を振って再び別れを告げた。