38:未亡人の美しさと哀愁。

 次の目的地は卜東延の家だ。彼らは未亡人に卜東延の死因を知らせに行って、いくつかの質問をする。

「さすが金穗会計士事務所の副経理ですね……」蘇小雅は窓際に伏せて、整然として上品な街並みを眺めながら感嘆した。

 この高級住宅地の物件は、ホワイトタワーの近くの富裕層地区よりも高価だ。美しい風景の山腹に位置していて、近くには二十年連続で最高の夜景スポットに選ばれた場所がある。コミュニティのゲートには銃を持つ警備員がいて、銃は電撃銃とは言え、その威力は甘く見られない。

 警備員が電話で知らせた後、彼らはようやく中に入られた。

 コミュニティ内はアメリカの郊外スタイルで、広々とした道路で、各家の敷地はとても広くて、互いに垣根で区切られていないが、大きな庭がプライバシーを確保するのに役立っている。自分の家から隣人の家を見えるかどうかは言うまでもなく、通路からでも庭の奥に隠れた主要建物すらはっきりと見えない。

 蘇小雅は公園の景観を楽しむ気分で、約十五分の車の旅を楽しんでいた。

 卜東延が本当に特に多く稼いでいたのか、それとも彼がメンツを気にしているのか?卜家の位置は一番高い住宅地の輪の境界に凄く近い。敷地は比較的に小さくても、その位置は人を気持ちよくするには足りている。

 卜家の庭もとても広くて、丁寧に手入れされているのがわかる。草木が茂って、ほのかな香りが漂って、地面は翠緑の絨毯で覆われているようだ。庭の外側近くには数株のジャスミンが植えられていて、夕風が吹くたび心地よい香りは広げる。

 秦夏笙は庭で二人を待っていた。彼女の手にはデザインがシンプルだがエレガントなじょうろを持っていて、いくつかのアジサイの盆に水やりしている。黒いワンピースドレスを身に着けて、控えめで上品なスタイルで、未亡人の美しさと哀愁を絶妙に表現していた。

 数日前会った時、秦夏笙はまだ長い髪で、ゆるやかに髪をもとどりにまとめていたが、今日再び会った時、彼女の長髪はもう耳の下までカットされ、全体的な顔色が大幅に良くなっていて、眉間の疲れの跡はほとんど見当たらない。

「こちらの警官の方、お名前を伺っても?」秦夏笙は前回何思を見ていなかったが、蘇小雅を認識していた。彼女は控えめに彼に向かって頷いてから挨拶し、何思に尋ねた。

「何と申します。こちらが私の名刺です」何思は急いで名刺を取り出して、少し窮屈した様子で「お庭を凄く整えていますね」と褒めていた。

「お褒めの言葉、ありがとうございます」秦夏笙は軽く微笑んだ。「家の庭はずっと私自ら手入れしています」

「秦夫人は園芸が上手ですね。植物をここまで美しく育て、快適な空間を作れる人はあまりいません」相棒のような表面的な親しさより、何思は生まれつき人とコミュニケーショを取るのがうまくて、人に好印象を与え易い人だ。

 または自分の馴染みのある家にいるし、最初に夫が突然亡くなった際の悲しさとショックから離れているから、秦夏笙の状態はリラックスしている。何思に対する印象は明らかに良いなので、二人を連れて少し庭を回ってから、家の中へ案内した。

「家には今私一人しかいません。子供たちは一時的に両親が面倒を見ています」

 目測で片層だけで約百坪の広さがある三階建ての一戸建て別荘。内部のスペースがシンプルで広々として、内装は北欧のミニマリズムスタイルを採用し、配色はアースカラー、淡い茶色、白などが主で、床には木製のフローリングが敷かれている。一階全体がオープンスペースで、リビングルーム、ダイニングルーム、キッチンがつながっていて、大きな掃き出し窓から眺めて、首都圏の夜景が目前に広がっている。

「何か飲み物はいかがですか?」秦夏が請じた。「今、コーヒーがありませんが、ジュースとお茶があります。二人ともどうぞお気軽に」

「お気になさらず。水だけで結構です」何思は手を振り続けながら丁寧に断った。

 秦夏笙も無理をせず、蘇小雅も水だけを飲むつもりだと確認した後、二人にリビングに座らせて、キッチンに水を三杯注いだ。

「この前、時間を無駄にしすぎました。お二人にお世辞を言うのは控えましょう」秦夏笙は一人用のソファに座り、自分の分のコップを持ち上げて一口を飲んだ。口調は冷たいが礼儀は正しい。「夫の死因を調べ終えましたか?」

「はい。ご主人は大量の内出血で亡くなりました。簡単に言うと、誰かが長期間薬を飲ませたから彼の凝血機能に影響して、人為的に血友病のような症状を引き起こさせました」何思がそう口を開いた。

「血友病?」秦夏笙は細長いガラスのコップを握りしめて、困惑したようにもう一度確認した。

「血友病に似た症状です」何思は再度強調し、説明を補足した。「我々の検死結果によれば、卜さんは厳重な自発性出血症状があって、それがかなり長い間を続いていたようです。最近、ご主人の体に何か異常を気付きませんか?」

「異常?」秦夏笙は最後の二文字を繰り返して、眉を上げて、苦笑しながらそう言った。「異常なことを言うなら、多すぎました。あなたたちがお聞きしたいのはどれかはわかりません」

「何でも構いません。少しでも手がかりを教えていただければ、私たちが責任を負うべき人を見つけるのに役立ちます」何思の口調は力強くて、穏やかで、秦夏笙の感情を和らぐには効果があった。

 女性はさらに二口水を飲んでから、手元のコップを置いて、元々容姿正しい姿勢がさらにビシッと引き締めた。彼女は深呼吸して、ため息のように口を開いた。「確かに、夫の体に何か異常を感じました。彼はもともと胃潰瘍を患っていて、前は私が三食を担っていた時、私は彼の胃腸の健康に特別に気を配り、定期的に医師に診察を受けさせていましたが、その後……約一年半前から、彼は副経理の職位を競争し始めてから、私は彼と座ってちゃんと話す機会がほとんどありませんでした」

 そう言って、彼女は蘇小雅のほうを向かって「この方は……ええと……」

「蘇です。まだインターンなので、蘇くんと呼んでいただければいいです」

 秦夏笙は礼儀正しい人だから、もちろん蘇小雅を蘇くんと直接呼びかけることはしない。「蘇さんは前回馮警官と一緒に病院に行って私に尋ねた時も言いましたが。ここ数年間朝食以外、夫は外食をしていて、頻繁に応酬の付き合いもありました。私自身も三人の子供の世話や家事があるので忙しくて、正直に言って彼に充分に気を配ることはできませんでした……それは私の不十分です。じゃないともっと早く彼の体調の異常に気付き、もっと早く彼を医師に診察させるべきでした」

「それでも、最終的には気付いたのですよね?」何思がそう慰めた。

「はい、夫婦ですから、何も気付かないはずありませんよね?先月、東延が血を吐いたのを気付きました。彼はトイレに隠れて、綺麗に片付けたつもりでしたが、男は生活の細かいことでいつもお粗末です。彼は私がトイレットペーパーを変えたことに気付いてませんでした。このトイレットペーパーは新鮮な血液に触れた時、特別な清い香りを放つのです。その日、私は生理周期ではなかった日に、彼がトイレから出た後その香りを彼の体から嗅ぎました……」回想に陥り、秦夏笙はますます体を引き締めて、生にしがみつき生き延びるために足掻いても誇りを諦めずにいる老いた樹木のように、強引に自分の姿勢を無理して見せつけた。「彼は昔から血を吐くことがあって、おそらく四年以上前で、私が三番目の子供を出産する前です。あの時、私は妊娠の身で二人の子供の世話もしていましたから、彼の体に注意を払う余裕がありませんでした。そのせいで彼の胃潰瘍の症状が悪化し、何度も血を吐きました」

「卜さんは定期的に治療を受けなかったのですか?」蘇小雅は訊くのを我慢できなかった。「彼の体は、彼自身で世話をするべきです!彼は何歳になりましたか、子供ではありませんし」それに、蘇小雅は秦夏笙の自責をもう聞き耐えられない。

 ほぼ侮辱的な質問に対して、秦夏笙は怒ることなく、代えて穏やかに答えた。「彼は仕事が忙しくて、細かい部分まで気を配る余裕がありませんでした。この家では、私は彼と協力しています。彼は外で働いて、私は彼に後顧の憂いのない環境を提供します。あの日、私は彼の胃潰瘍が再発したのか尋ねようと思いましたが、子供たちがいたので、彼が子供たちの前で健康状態について聞かれるのを嫌がっていますので、私は訊くのを我慢しました。本当は夜になって彼が家に帰ってからゆっくり訊くつもりでしたが、残念ながら……この一か月、私は彼との単独で会話できる機会を一度も見つけられませんでした……」

 話が最後になると、秦夏笙は窓の外の夜景をボーっと見つめて、涙が目角からこぼれ落ちたから、彼女は顔を俯き急いで拭いた。

「彼の体にはいくつか異常なあざがあることに気付きました。それについては聞きました。それはおおよそ半年以上前から見かけたもので、最初は深刻ではなかったですから、何かにぶつかったのかと思いまして、痛くないか?とも尋ねました。でも彼は急に私に大声で怒り出して、今後彼が入浴中に覗かないでほしいと言いました……ただタオルを持って行こうとしただけで、彼がそんなに怒るとは思いもしませんでした……それから私は反省して、夫婦としての親密行為が長い間してなかったせいか、心理的には少し生疎になるのもしかたありません。それに、東延は自分のイメージに凄く気にする人で、私の前で弱さを示したくないので、おそらく、その不可抗力で出来たあざは彼が自分の顔を立てることができないと感じさせたのかもしれませんよね?」

 蘇小雅は心の中に火が燃え上がりそうな怒りを感じていて、危うく何で秦夏笙には反省するのか?を言い出したが、やっとそれを抑えて、何思に質問させるだけでいいと彼が自分に言い聞かせた。

「つまり、あなたは実際には卜さんの体にあざを見ているのは一回や二回だけではないですね?」何思は若いガイドのように怒ってはいなかった。彼の本当の思いは何であれ、表面上は非常に冷静で落ち着いてて、プロの態度を保っている。

「はい、この半年間で何回か断続的に意外で見てきました。私が言ったように、三人の子供がいるため、夫婦としての親密な関係は長い間ありません。全部偶然で見たです。私は気付きました。彼の体のあざがますます深くなって、範囲ももっと広がっているようになりました。どのように彼にこのことを伝えるかを考えている間に、まさか……」秦夏笙は急に苦笑を吹き出した。「私にはもう機会がありませんし、この件ももう彼に伝える必要がありません……」

 一時的に、広い部屋の中で深さの違う三つの呼吸音だけが聞こえて、長い間誰も口を開いていなかった。

 しばらくして、秦夏笙が先に口を開いて、疲れた口調で「お二人はまだ何かお聞きしたいことがありますか、または私に伝えたがっていることがありますか?」と言った。

 何思は何か言おうとしていた時、部屋の電話が突然鳴った。秦夏笙は申し訳なさそうな顔で立ち上がって電話に出た。向こうから伝えてきたメッセージを聞いた後、顔色が一瞬にして暗くなった。

「うん……はい。馮さんには面識があります。彼を入れてください」

 馮さん?何思と蘇小雅はお互いに向けて、不安な気持ちが湧き上がった。特に秦夏笙が電話を切った後、眉をひそめ、冷たい口調でそう言ったから。「もしよろしければ、お二人とも私と共に外で馮警官を待っていただけませんか?」

 拒否の余地はあるのか?秦夏笙のようなこんな礼儀正しくて丁寧な人が、目が見えるくらい怒っているのだ。何思と蘇小雅は慰めようとしてもどこから慰めればいいのかはわからなく、ただきまりが悪そうに鼻をかむばかりで、立ち上がってから秦夏笙の後につき庭に戻った。

 十五分の待ち時間は、「針の上に座っている」と例えても全然大げさではない。彼らは実際には座っているではなく、立っているにもかかわらず。

 近づいてくる車は、馮艾保の私用車で、控えめな青灰色で、艶消しの塗装が施され、最も一般的で公定価格な車種で、高級住宅地には不釣り合いだが、なぜか自由自在に過ごしているかのような何とも言えないくつろぎが感じられる。

 すぐに車は彼らの前に停まり、何思が使っていた公用車の隣に寄せた。センチネルのタッパのある体が車から潜り出て、夜風と迎えて、黒い髪が風の中で靡く。

 彼はやぶさかでない笑顔を浮かべて、数人に手を差し出し挨拶してから、少しくらい顔を上げて、ジャスミンの香りを満ちた空気を嗅いだ。

「おや?」たった一つの音節で、秦夏笙を含む三人には思わず神経を引き締められて、慎重に立ち向かわせた。

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