31:夫の思いを推し量らないで。

 被害者から取って物から、彼は三十八歳の卜東延プウトウエン、国内最大の会計士事務所の副経理、つい最近に昇進したばかりであることが確認された。

 結婚して息子が二人と娘が一人居て、妻とは大学の同級生で、現在は専業主婦だ。病院に向かうようにと彼女に電話をかけたが、一番小さい子供がまだ三歳のため、卜夫人は少し手が離せないので、後で行くと言って、夫の両親に知らせて向かわせるとのことだった。

 病院は彼を救っている最中のため、馮艾保三人の出番ではない。彼らの手元には尋問しなければならない容疑者が居る。

 王平安と王夫人が一緒に警察署に来たら、分けられた。王平安の証言は基本的に怪しいところがないし、彼も確かに彼の言ったように、ずっとダイナーの中で忙しくしており、何人か列に並んでいる食客がそれを証明できる。

 だから警察側は特に彼を拘束することなく、離れたければいつでも離れるが、王平安は妻の尋問が終わるまで待つことを選んだ。

 蘇小雅は窓シャッターの一角を持ち上げ、外に待っていた王平安を暫く観察していた。その顔は呆気に取られ、焦っている様子を見せ、何歳も老けたように見えた。

「彼は恐らく嘘をついていないと思う」蘇小雅は窓シャッターを下ろして、振り返って何思に向けてそう言った。

「そうみたいだ。彼の情緒は、妻が隠し事をしていると知ったショックと、妻がトラブルに巻き込まれる不安と一致している」何思はうなずいて賛同した。彼は蘇小雅よりも詳しい情緒の揺らぎを感じ取れる上、経験上の判断ができるため、恐らく王平安は最初から妻のおかしなところに気づかなかった。

「それについてはよくわからない」馮艾保は珍しく二人のガイドと違う意見を持っていた。

「どういうこと?」何思は馮艾保がわざと言い争っているとは思えない。実際のところ、何思は精神力という武器を持っていたとしても、おかしなことに、人類の情緒に対する判断では、いつも馮艾保ほど正しいわけではなかった。

 十数年来、何思はずっと理解できなかった。何せ何思が接触したセンチネルは、基本的に情緒感知に対して比較的に劣っており、恐らく五感が敏感過ぎたせいで、彼らには他人の情緒と微表情を詳しく分析する精力がないだろう。

 しかし馮艾保は一つの例外だ。

「先に言っとくけど、私には証拠がない。ただの感覚だ」馮艾保は蘇小雅が眉をひそめ、納得しない様子を見て、思わず笑って自分のために説明した。「今日の事件では、王平安は恐らく本当に事件の詳細を知らないようで、最初も奥さんがトラブルに巻き込まれるとは思っておらず、ただ単に自分の妻を心配していた。この点について、二人ともは納得しているよね?」

「一応……」蘇小雅はあまり快く同意しなかった。

「しかし、彼は自分の妻が事件に関わっているのを聞いて、あまりにも冷静だった」馮艾保は自分の襟にかけているサングラスを取って、窓シャッターの一角を持ち上げ、二人のガイドに向けて口を尖らせた。「ほら、彼の座る姿勢がぎゅっと締まっているは嘘じゃないが、彼の手には一杯のホットコーヒーを持っていた。味からして、恐らくコーヒーミルクのような非常に甘い飲み物の類で、更に自分のエコカップを使用していた。その匂いからして、多分警察署の向こうにあるカフェで売っていた飲み物だ。恐らく私たちが気づかない隙を突いて、彼はコーヒーを買いに行った」その末、馮艾保は低く笑った。

 さっき王平安夫婦を警察署に連れ戻した時、この場面は確かに少し混乱していた。王平安は元から彼らが注目している相手ではないので、彼がこっそりと抜けて家に帰ったとしても、短時間内で誰かの注意を引くことはなかった。

 しかし、彼はよりによってコーヒーを買いに行って、しかもお金の節約のために、自分が持ち運んでいたエコカップを使った。それから警察署に戻って妻を待っていた。

 例え多くの栄養学者は否定の論点を持っていたとしても、多くの人は糖分が自分の気分を和らげ、気分を良くしてくれると思っていた。王平安の行為こそが典型的な自己満足だ。彼が飲み物を飲むスピードは非常に遅く、数分を経ってから一口を小さく啜って、口の中に暫く含んでからゆっくりと飲み込んだ。その眼差しは怖くて落ち着かないと言うより、何も感じられないまま、どこかわからない場所をぼんやりと見つめていた。

「確かに問題がある……」何思も何かおかしいと気づき、納得したようにうなずいた。茫然としている蘇小雅を見て、何思は優しく説明をした。「俺らの経験から見るに、王平安のような妻に対して強い信頼と保護欲を表した人において、自分の妻が事件と関わりがあると聞いた時、こんなにも平静として飲み物を飲みながら待つことは不可能だ。気立てが良い人であれば、廊下で歩き回って、自分の心の中の焦燥感と警察側に対する不満を発散する;気性が荒い人であれば、俺らと衝突することもあるし、もっと深刻なケースでは物理的な衝突も起きたことがあった」

「おう……」蘇小雅はうなずいた。「わかった。王平安は何もしていないし、更に第一に自分の情緒を安定させた。これは奥さんに容疑がある事実を受け入れ、もしかしたら奥さんのことを犯人だと思い込んだのかもしれない。彼はどのように対処すべきかを考えていた……では彼の情緒の中にある焦燥感は、奥さんが疑われたことに対するものではなく、恐らく弁護士の費用、もしくは別のより現実的な問題に対するものかもしれない」

「そうだ。眉ちゃんに十ポイント」馮艾保は窓シャッターを下ろし、大げさに拍手して褒めた。「真面目な話を言うと、あなたが一か月しか実習しないのは残念だ。本当に入職申請にサインする気はないのか?」

 蘇小雅は唇をすぼめて、馮艾保の問題を聞いていないふりをして、何思を見つめ続けて、「つまり、この夫婦は仲良く見えて、実はそうじゃないのか?でないと、何故王平安はすぐにこの事実を受け入れられる?」と尋ねた。

「どうだろう。彼らの夫婦関係は俺らが調べるべきポイントではない。まず、俺らは王夫人を尋問しなければならない」何思は肩をすくめ、この世で最も複雑でわかりにくい幾つの関係は:両親と子供、兄弟姉妹、夫婦と義理の両親だ。

 このような関係には当たり前のことなど何もなく、いつも予想を上回る所で争いが起こってしまうものだ。

「眉ちゃんに試してもらう?王夫人はミュートだから、良い練習相手にはなれそうだ」馮艾保は親指で両面ミラーの向こうにいる中年女性を指して言った。

「ダメじゃないけど……」何思は思案した。彼はやはり蘇小雅が警察の道を歩むことを見たくない。しかし前回アンドルーを尋問した結果からすれば、この子には才能があった。それに、確かに馮艾保も新しいガイドの相棒が必要だ……

「行きたい。僕に試させて」蘇小雅は積極的に手を上げて、目をキラキラと輝かせて何思を見て保証した。「まだまだ未熟だけど、失望はさせないよ!」

 何思はため息をついて、うなずいて同意した。

 若いガイドは楽しそうで、その表情は相変わらず乏しいが、目元は生き生きしており、こっそりと馮艾保に向けて顎を上げて、威勢を張っているように見えた。これはセンチネルにとって、自分に甘えているように感じ、股の部分が些か場違いになってしまった。

「馮艾保!」何思はすぐに気づいて、エンパスempathはさっと張られ、威嚇しているように、馮艾保に向けてパチパチとした音を出して、下半身の膨らみを今すぐに抑えるように警告した。

 幸いなことに、蘇小雅は既に監視室から離れた。でないと、紺が飛び出して、また暴れまわらないとは限らない。

 何思は本当に心身ともに極度に疲れていた!

 正直なところ、蘇小雅が自分の家の子供で、年が若いすぎるという事実がなければ、二人の明らかな生理と心理表現では、彼は絶対に二人にマッチ度鑑定し、パートナーになるかどうかを真剣に考慮するように勧めた。

 簡単に言うと、蘇小雅が馮艾保に対して敏感で、馮艾保はよく蘇小雅に対して場違いなのは、恐らく彼らのフェロモン素がお互いを惹きつけ合っていた。多分馮艾保は既に気づいて、だからよく蘇小雅をからかっていた。しかし、蘇小雅は比較的に鈍感な子で、明らかに馮艾保に対する感情を全て嫌悪感として見なしていた。

 馮艾保はどのように思っているのかわからない……もし彼は蘇小雅とパートナーになる気があるのなら、いつも蘇小雅を怒らせて、彼を挑発すべきではないはずだ。馮艾保は馬鹿じゃない、むしろ聡明すぎる人で、今の態度では、何思にも理解できなかった。

 蘇小雅が尋問室のドアを開けたのを見て、馮艾保も椅子を引っ張り出して両面ミラーの前に座った。何思は、この件をひとまず後回しにして、数日後に馮艾保と単独で話して彼の考えを確かめ、そして自分の対応を考えることにした。

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