猫と鼠はずっと、互いに愛し、殺し合う関係／黑蛋白

第二案：愛と血

29：繫栄した商業エリアの殺し合いは、時に血がたらたらと流れている。

　千（せん）羽（う）虹（ほん）区（く）は首都圏で最も繫栄した商業エリアで、オフィスビルが建っており、全国規模から国際企業まで、レストランやホテル、デパートなどが、全部このあまり広くないところに集まっていた。卵黄区の中の胚胎位置と言えるだろう。

　千羽虹区で七か八坪の小さい店を構えて商売ができれば、自分がこのビジネスで名を成したことを殆ど誇りに思っていもいい。

　昼食時間、歩道にはスーツ姿をしているサラリーマンたちが急ぎ足で行ったり来たりしていた。誰も足歩みを早くして、偶に道端のダイナーで暫く休憩を取り、適当にサンドイッチやホットドックなどのファストフードを注文した。余裕がある人なら弁当を買うかもしれないが、もっと忙しい人はコーヒーや熱いスープを注文するだけかもしれない。パッと見て、忙しないアリの群れのようだった。

　王（おう）平（へい）安（あん）のダイナーは非常にいい位置にあり、三本の幹道が交わる角である。左側は名高い国際的の投資会社、右側は国内で一位や二位を争う会計士事務所と弁護士事務所などがあるビルで、もっと多くのは王平安が聞いたことも、何をしているのか分からない会社だった。しかしこれらのOLがどれだけ鮮やかだろうと、多くの人は彼の食べ物の虜になっていた。

　王平安はこの点について誇りに思い、自分の仕事に時間を費やしたくなった。

　彼は二十年前からこの辺りで店を構えており、かなりの得意様を獲得した。そのおかげで毎回昼食時間になると、多くの人が彼のダイナーの前で列に並んで待っていた。

　今日も同じように、王平安は十時半に下ごしらえを終わらせた。彼が売っている食べ物は複雑ではない、サンドイッチ、サラダ、三種のスープとおにぎりだ。

　多くの得意様は基本的に十時四十分ぐらいから電話をかけて注文する。昼食時間に近づくにつれて、彼はいつも目の前の人の顔を見る余裕もないくらい忙しく、彼一人だけでは手に負えないから、彼の妻も手伝いに来る。

　午後三時くらいにならないと、一息つくこともできなかった。

　いつも通りの流れで、十二時半後に彼のダイナーの前に人混みが集まり、一部は先ほどに電話で注文した食べ物を取りに来たが、多くのは列に並んで注文し、料理を待っている人ばかりだ。彼はダイナーの中にいて、そして彼の妻はダイナーの外におり、二人は注文を確認する時以外に、何かを話す時間もなかった。

「お客さん、ご注文は決まりましたか？」

　王平安は妻の明るくて爽やかな声で客人に尋ねるのを聞いて、彼の顔には思わず笑顔を浮かべて、妻が注文を伝えに来るのを待っていた。

　しかし次の瞬間、外は訳も分からずに一か二秒くらい静かになり、その静寂さはこの繫忙な街に現れるはずもなかった。

　王平安が何かおかしいと察する前に、慌てる叫び声の中に混じっていた妻の悲惨な悲鳴が聞こえた。

　彼は酷く驚いて、卵を焼いている途中であることを気にする余裕もなく、直接に火を消して外に向けて駆け出した。

　外は混乱しており、あるスーツ姿の男が地面に倒れ込んで、地面には大きな血の跡があり、周囲は抽出された眞空のボールのように、彼の妻以外に全員は十数歩くらい離れているところまで下がって、道路の交通を妨げていた。

　一部の人は地面に座り込み、一部の人の顔色は青白くなって震えを止められず、あと数人は酷く吐き出した。その顔には涙、汗と穢れ物ばかりだ。まるで爆弾を投げ込まれたかのように、その現場を表現する言葉は混乱以外になかった。

「女房！」王平安は大声で叫んで、彼には他の人を構う余裕などなかった。空気の中は濃い血生臭い匂いに満ち、王夫人は彫像のように、地面に倒れ込んでいる男の前にぼーっと立っていた。王平安に背を向けているため、彼には一体何が起きたのかわからず、心臓がドキドキして自分の妻に何かあったのかと恐れていた。

「女房！」彼は駆けつけて妻の肩を掴み、彼女を自分に向かせた……

　王夫人の顔は血だらけになり、魂を失っているようで、恐らく驚かされていた。その眼差しは完全に焦点を失って、更に王平安が自分の前に立っていることにすら意識できなかった。

「大丈夫？どういうこと？」王平安もひどく驚かされて、彼は急いで袖を使って妻の顔についている血を拭き取り、その血の色は既に酸化し始め、非常に粘っていた。彼の袖では綺麗に拭き取ることが出来ず、かえって妻の顔全体を血で塗りつぶした。

「その人……その男性は……彼は急に……」王夫人は顔の温度と顔を拭き取る時の痛みによって、何とか我に返って、驚愕しながら瞬きをし、「旦那様……旦那様、その人は……その人は……血……」と滑らかに話せないまま叫んで言った。

　野次馬の中の誰かが気がついて電話をかけて通報したが、多くの人は驚愕した後に口々に情報を交換し始め、うるさいほどの声量になり、「吐血」、「まだ死んでいないよね」、「まだ血を流しているのか」などの言葉がうっすらと判別できた。

　王平安は妻を抱き寄せて、頑張って彼女を宥めようとしながら、地面に倒れ込んだ男を観察した。

　男の顔には深そうで浅い鮮血が付いており、五官はもうはっきりと見えない。口、鼻の穴、耳、更に毛穴が同時に鮮血を流れ出しており、タイルの上の血の跡は絶えずに外に向けて広がった。王平安はあまりの恐怖に、妻を抱きかかえたまま数歩下がった。

　夫婦そろって震えており、気が抜けているような顔をして、一瞬自分が何をすればいいのかわからなかった。

　※※※

「なぜ、人類はガラスのカーテンビルが好きなのか？」車を止めて、馮艾保は少し元気がない様子を見せた。彼は助手席の小物入れからサングラスを取り出し、ずるずると引き延ばす様子を見せながら、あまり付けたくなかった。「まるで大型の反射柱のよう、目が見えなくなる類のものだ」

「多分綺麗だからだろう」何思は彼の愚痴には慣れて、エンパス（empath）で彼のこめかみを揉んで、ガイディングしながら「後から降りればいい、俺は先に小雅を連れて見に行く？」と言った。

「それほどでもない……」馮艾保はため息をついて、振り返って黙り込んでいるガイドちゃんを見て、元気のない笑顔を出した。「誰かさんが私が仕事を怠けていると思わせたくない」

「うん」蘇小雅は遠慮せずに彼に向けてうなずいた。

　何思にはどうしようもない。最近は自分がお邪魔虫のように思い、偶に彼のエンパス（empath）で争いを解決しないといけなければ、彼は自分のことを目障りに思った。

「降りよう。当事者はもう病院に送った。俺らは現場で状況を確認し、目撃情報を聞き込もう」何思はその訳も分からない気持ちを振り払い、責任を持って蘇小雅に説明した。「これはあなたの初めての現場、靴カバーと手袋をしっかりと付けて、簡単に取っちゃいけない、わかった？」

「はい」蘇小雅は慎重にうなずいて返事をした。

「実はそんなに絶対的ではない。どうせ問題になったら、せいぜいレポートを書いて、警告を受けて、査定が減点され、将来の昇進に影響するだけだ」と馮艾保は傍でニコニコしながら口を挟んだ。

　蘇小雅は彼に構うことすらしたくなく、何思から差し出された靴カバーと手袋を受け取り、現場に入る前に装着し、直接にドアを開けて車を降りた。

　亜熱帯の国におり、この季節の日の光は苦しく感じるほどに眩しい。周囲の七割がガラスのカーテンビルばかりで、日の光がその上に照らした時、よく目に刺さるほどの光暈が反射され、遠くから見ればキラキラと輝いていた。

　彼はようやく馮艾保が言っている意味を理解できた。このエリアはセンチネルにとって、確かにあまり友好的ではなかった。しかしところで、千羽虹区で仕事しているセンチネルも少なくない。ホワイトタワー案で一面の面識がある舒璃似弁護士もこのエリアで仕事をしている。

　つまり、きっと馮艾保が特に脆弱で苦労を耐えられないからだろう？蘇小雅は密かにそう思った。

　何思も後をついて車から降りて、彼らは事件現場からそう遠くはなく、この方向から見ると、囲んでいる警戒ラインと何人か個人情報を記録している目撃者が見えた。

　昼食時間は既に終わり、殆どの人は例え衝撃を受け、好奇心がくすぐられたとしても、自分の席に戻って仕事を続けなければならないため、逆にあまり野次馬が居なかった。

「おう？ダイナーがいるよ！」グズグズしている馮艾保もようやく車から降りて、彼の顔には半分の顔を隠せるほどのサングラスをかけており、二つのブラックホールのように濃くて黒い、彼の麦色の肌が青白くなったように見えた。

　日焼け止めの効果はきっと抜群だ。

「なに？まさか食べたいのか？」蘇小雅は嫌味を言わずにはいられなかった。

「確かにちょっと腹が減った」馮艾保は腹を揉んだ。

　彼はイケメンで、整った五官をしており、サングラスをかけたら、見る人の顔が赤く染まるほどにかっこよかった。しかしどんなイケメンでも、食いしん坊の感じに破壊された。

　しかし、これはあくまでも蘇小雅の個人的な意見だ。

「さっき昼食を食べたばかりじゃないか？」蘇小雅はすっきりしないように呟き、なぜ兄さんが馮艾保のことを昔からの友人のように思ったのかわからない。その夜の会食以後、毎日兄さんは彼と何思のために弁当を用意する以外に、馮艾保にも一つ用意していた。

　馮艾保はタダで食べたわけではなく、実際はお金を払っているとはいえ、彼が自分と同じ料理を食べているのを見たら、蘇小雅はこの世界が早く滅んでしまえと思った。

「二人とも！二人とも！今は仕事中だから、良い子にして喧嘩しないで」何先生は再び争いを緩めないといけなかった。彼はれきっとしたS級ガイド、まさか年齢を超えた幼児園のベビーシッターになろうなんて思ってもみなかった。

　蘇小雅は口をすぼめて、大きな動きで何思の左側に近づき、馮艾保と遠く離れていた。

　センチネルはそれを見ても何とも思っておらず、ゆらゆらと二人のガイドについて警戒ラインの中に入っていった。

　タイルについている血だまりはぞっとするものだった。天気が熱いため、血の跡は日の光によって蒸発しており、鉄の生臭い匂いが空気の中に漂っていた。馮艾保は少し狼狽えながら吐きそうな声を出し、何思は急いで彼のためにより有効的なシールドを立てた。

「ありがとう……この匂いは鼻につく……」馮艾保の唇は微かに白くなり、精神もどんどん悪くなっていくのが見えた。「こんなに血を流して、その人はまだ生きられるのか？」

「俺はまだ病院と連絡を取っていない、後でわかる」何思は頭を振った。実は彼らの経験から見れば、例え病院に送ったのを間に合ったとしても、この血だまりの主はあまり治る見込みがなかった。

「あそこの二人は？」蘇小雅はすぐにダイナーの前に肩を並べて座っている中年夫婦に気づいた。

　妻の顔にはショックが収まらず、拭いきれない血の跡がまだ残っており、まるで一息しか残らず、いつでも気絶しそうだった。

　夫のほうの状況は少しマシで、妻をぎゅっと抱いて宥めていた。例えその目も彼のどうしようもなさと茫然とした状態を隠せないとしても、全体的に平静に見えた。

「彼らは目撃証人です」傍にいる警官が答えた。「妻のほうはちょうど当事者のために注文を取っていた。まだ話したばかりで、相手が妻の顔に鮮血を吐いて、そして空に向けてまた一口の血を吐いてから地面に倒れ込んだそうです」

「こんなに刺激的なのか？」馮艾保は口笛を吹いた。

「全く予兆がないですか？」と蘇小雅は尋ねた。

　警官は肩をすくめて、彼は十数人の目撃者の資料を記録し終えたばかりで、顔は日焼けで真っ赤になった。「まだ詳しく尋ねていません。他の目撃者も有用な証言がありません。ここはオフィスエリアで、休憩時間は短ければ半時間、長くても一時間しかないため、皆さん周りの人に構う余裕がありません」

　繁栄の代価は極端の冷たさ、それは特に意外に思うほどの事実ではないが、彼らの捜査に面倒事を増やした。

「いいだろう。その可哀そうな奥さんを尋ねよう！ついでに、チャウダースープの匂いがした。一杯はどれくらいかな？」

「なぜいつも余計な一言をするのか？」蘇小雅は本気でエンパス（empath）で馮艾保の口を塞ぎたかった！