猫と鼠はずっと、互いに愛し、殺し合う関係／黑蛋白

28：何か零れ出しそうなものがあったが、蘇小雅はそれを元のところに強く抑え込んだ。

　美味しい食事は確かに心を慰め、距離を縮める効果があると言わざるを得なかった。

　せめて晩ご飯を食べた後、馮艾保は自分と蘇經綸が十年も知り合った友達のように思えた。

　蘇經綸の腕前はあまりにも凄くて、馮艾保はこんなにもおいしい晩ご飯を一生食べたことがないと真摯に教えた。特にローストビーフの味わい、彼は何軒か有名なレストランを食べたことがあり、国内でも国外でもあったが、どのローストビーフも今晩蘇經綸が作ったのに匹敵するものはなかった。

　他の前菜、スープ、サイドディッシュ、そしてデザートも印象に残り、自分の胃がもっと食べれるほどに大きくないことが恨めしい。

　馮艾保は明日の朝ごはんも食べられるように、殆どこのまま残って夜を過ごそうとしていた。

　しかし何思と蘇小雅は彼が残るのを見たくないことを考慮して、思いやりのあるセンチネルは自然と胃袋に理性を把握されず、言いかけた言葉は結局口にしなかった……どうせ時間はたっぷりあるし、彼はどうやって蘇家に来てご飯を食べようかと少しずつにゆっくりと計画できる。一日中に三食を食べられなくとも、三食を集めることはできる。

　お腹を満たしたら、馮艾保は元々テーブルの整理や食器洗いを手伝おうとした。何せ食材を買うこと以外に、彼は何も手伝っていなかった。彼は快適に蘇家で一日中テレビを見て、更に何局かのゲームもやった。

　午後の時、蘇小雅は兄に要求されて果物を出して客人におもてなししたら、馮艾保が全くよそよそしくせずにソファに倒れ込んで、その口の中にどこに隠していたかわからないロリポップを噛んでいる。手元はスマホのゲームを操作しながら、消音モードになったテレビを見つめ、中にはドラマが放送されていた。

　嫌々ながらこのカウチポテトを見て、蘇小雅はフルーツプレートを置いた。そして、キッチンに戻り、こっそりとオニオンスープの中に三さじのタバスコを入れた。

　もちろん、このスパイスが効いたスープは最終的に出さなかった。蘇經綸はプロの料理人として、自然とどの料理も味見をするはずだった。だから蘇小雅は兄に叱られて、口を尖らせながらリビングルームまで追いやられたせいで、午後は馮艾保と一緒にドロドロなロマンスドラマを見なければならなかった。

　幸いなことに、これらのハプニング以外に、これからの時間に蘇小雅と馮艾保は仲良くやっている。二人が再びキッチンから追い出されるまでは。だって彼らはさっき食器を洗っている時に、それぞれ一つのお椀を割って、しかもちょうど蘇經綸がとても好きな食器だった。だから蘇經綸は自分の心臓が止まる前に、二人の疫病神を送り出すことに決めた。

「あなたたちはバルコニーで風を当てに行ったら？」と何思が提案し、彼は袖を巻き上げてキッチンに入って手伝おうとしていた。「もう喧嘩しないで！せめて經綸に二人の仲が悪いと思わせないで、凄く心配するから」

「眉ちゃんに注意すべきだ。私は一生懸命に私の善意を示していた」馮艾保は両手を上げて、その表情はホワイトフラワーのように無辜だった。

「ふん！」蘇小雅は顔を引き締めて馮艾保を睨み、棒読みで何思に向けて保証した。「僕は彼と仲良くして、隙を突いて彼を突き落とすようなことはしないよ」

「突き落としてもいいよ。あなたの家は三階だけ、この高さから落ちても足を挫くことすらもなかった」誰かがよりによって余計な言葉を言い出した。

「おう、わかった」蘇小雅はうなずいた。「なら今ここから飛び降りたら？センチネルの身体能力がどのようなものなのか見たことがないから、子供である僕に見させてくれ？」

「そんなに見たいのなら……」馮艾保はニヤッと笑った。「私は飛び降りないよ。何せあなたの楽しみを奪うわけにはいかないからね！私が自分で飛び降りるのを見るだけじゃつまらない、あなたが私を突き落とした方が面白い、違う？これも私のあなたへの思いやりだよ！」

　一人の男がどれだけかっこいいだろうと、口が悪いとそのかっこいい顔にニ発を殴りたいだけだ。

　蘇小雅はもう少しで抑えきれず、何思のエンパス（empath）が間に合ったおかげで、二人ともガイディングできた。

「頼むから、俺らが片付いてかつ食器洗いに大体半時間くらいかかるから、今日の午後のように半時間だけ仲良くしてもらえない？」何思は自分が幼児園の先生のようで、言うことを聞かない子供に根気よく接し、いつでも悪戯っ子が暴走するのを防げないといけない気がした。

「先生、安心して、私たちは大人しくする。私はいい子だよ～」馮艾保の語尾のチルダはまるで本当のように感じた。

　蘇小雅は冷たい顔を崩さずに何も話さなかったから、恐らく無言で応じてくれたのか？

　どうせ馮艾保は本当に蘇小雅に対して何かすることはない。それに何思も元からガイドちゃんのほうが心配だった。二人に深刻な言い争いがあることを心配しているわけではない。時に馮艾保の考えに付いて行けず、彼自身もよく不真面目な態度を取っていたが、実際ではしていいこととしちゃダメなことをよく知り、境界線をかなり掴んでいた。

　彼が本当に心配しているのは蘇小雅……何思は心配で気が気でないが、どうしようもなかった。

　恐らく蘇小雅は、何で馮艾保を相手にすれば、冷たい水が油鍋に落ちたようになるのか、全く気付いていなかった。完全に爆発していないのが礼儀であり、冷静になることは不可能だ。

　普通に考えればこれは……何思は心の中で頭を振り続け、もう考えるなと自分に言い聞かせた。本当にそこまで発展する前に、彼は知らないふりをしたほうがいい、自分のメンタルヘルスにも有益だ。

　だから何思は潔く犬猿の仲の二人を置き去りにして、キッチンに入って自分のパートナーと一緒に忙しくしていた。

「酒を飲むのか？」恐らく自分が主で馮艾保が客人であることを思い出したのか、蘇小雅は顔をこわばって、嫌々ながら口を開いて尋ねた。

「少しならいいけど、アルコール度数が12%を超えたのをお勧めしない」馮艾保は瞬きをして、「ビールはダメ、苦みが強すぎる。好きな人もいるけど、私は嫌いだ」とすぐに言葉を付け加えた。

「家にはビールと……」蘇小雅はリーチインショーケースを開けて、中の在庫を素早く捜索した。「桃味の発泡酒？梨味の発泡酒？イチゴ味の発泡酒？」

「シャンパンが見えたよ」馮艾保は近づき、彼は微かに身を屈め、背の高い体がガイドちゃんを自分の影の中に収めた。

　彼の体に淡い木質系の香りがあり、うっすらと蘇小雅の鼻先に漂った。悪くない香り、むしろかなりいい香りだった。

　蘇小雅の顔はさっと赤くなったが、彼は動けなかった。自分が動けば馮艾保の腕の中に入ることを恐れていた……このくそおじさん！

「シャンパンはダメ！」蘇小雅は凶悪な荒い声で断った。「それは兄さんが何思兄さんのためにわざわざ買ってきたものだ。フランスのシャンパンーニュの一番古いワイナリーで造られ、去年に出された最も品質のいいシャンパン、彼らの新婚記念のプレゼントだ」

「あなたの兄さんはかなりロマンティックだ」馮艾保は嘆いた。「なら桃味の発泡酒にしよう。確か普通は3％、5%しかなかったっけ？」そう言いながら、長い腕を伸ばして蘇小雅の左耳をかすって、ピンクのパッケージの金属缶を手に持った。まるで自分の長い指と大きい手のひらを強調するために、一度に二本を持った。「一本を分けてあげようか？」

「ありがとう、いらない」蘇小雅は肩を縮めて少し避けた。馮艾保が手を引っ込める時、冷たい発泡酒の缶が自分の耳たぶに触れるのを恐れていた。

　なぜ馮艾保は自分の左耳ばかり気にしているのかわからない……蘇小雅は心の中でブツブツと何句か愚痴って、言いかけた一番合理的な予想を強く抑え込んだ。

「僕はあるセンチネルと違って、アルコール度数がもっと高い酒を飲めるんだ」非常に挑発的と言えるだろう。

　馮艾保は面と向かって皮肉を言われたとしても怒ることなかった。気分がいいようにずっと小声で笑い続け、ようやく立ち上がって蘇小雅に息を整えるスペースを返した。

「私は先にバルコニーで外の空気を吸って行こうか？」何思は彼らにバルコニーで風を当てに行くと言ったので、馮艾保は喜んでそれに応じた。何せ長い間にカウチポテトをしていたから、少しは抑え込まないといけない。

「行けば？」蘇小雅はようやく背筋を伸ばすことができたが、彼は頬が熱いままに居るのを感じ、馮艾保のほうに向くことができず、リーチインショーケースの冷風で温度を冷やそうとしていた。

　そういう言葉があるよね？気合では誰にも負けないって！

　センチネルの非合理的で、ロジックに違反するような五感の敏感度によれば、恐らく彼が赤面していることが耳で聞こえた。だが、それでも自分の威勢を弱めるわけにもいかなかった。相手がそれをすっぱ抜いていないのなら、それをなかったことにして、自分をさらけ出さないようにしよう。

　馮艾保は二回くらい笑ったようだが、声が低くてかつ蘇小雅の耳の中は自分の鼓動しかなかったため、彼も聞き間違いじゃないのかわからなかった。

　しかし、どんどん遠ざかっていく足音が聞こえるにつれて、バルコニーの掃き出し窓が開かれた。馮艾保が室外に出てドアを閉めた後、蘇小雅はようやく胸を押さえて何回か深呼吸をして、鼓動を正常に戻せた。

　何となく何かがおかしいと感じた……蘇小雅はふくれっ面になり、リーチインショーケースの冷風に吹かれたまま、彼の顔はグースイエローの光に照らされて、真面目で可愛い顔になっていた。

　蘇小雅は自分が馮艾保を相手にする時はおかしくなることを知っていた。よく考えれば彼らも長い間に知り合ったわけではなく、例え秒単位まで正確に計算したとしても、たったの一週間しかなかった。レポートを書いており、全然顔を合わせていない数日と今日を除けば、二人が付き合った時間は合計で七十六時間しかないかもしれない。

　蘇小雅は子供の頃からひねくれていた子で、大人しく見えたが、実際は殆ど誰とも親しくならなかった。幼児園から大学まで、卒業アルバムでは証明写真以外に、完全に生活写真で彼の姿が見えなかった。本当のことを言うと、学生番号の順で証明写真を撮っていなければ、彼は恐らく顔を出すつもりもなかったのだろう。

　蘇小雅はクラスメイトと仲が悪いわけではなく、ただ何の交流を深めていなかった。彼がそれを拒否していると言うより、興味がないと言ったほうがいいだろう。人間関係は面倒くさい。更に同じ空間にいる全員がガイドの場合、少し近づいただけで、蘇小雅自身の情緒と考えが真っ裸に他人の前にさらけ出しているようで、どう考えてもぎこちない。

　その後にシールドを設けることを学んだとしても、蘇小雅は相変わらずに自分から距離を置くことに慣れていた。

　しかし、蘇小雅は人と接触することを好んでいないことは、義理人情と処世術がわからないとは限らない。クラスでは、蘇小雅の人気は悪くなかった。例え彼と接触することを恐れているクラスメイトもおり、裏で何か言うが、クラスのイベント、ゴシップや基礎的な交流は、彼を無視することなかった。彼が知ると接触すべきものは、一つも取り残されていなかった。

　クラス全員にとって、蘇小雅は人付き合いが苦手だが、人に対して優しいクラスメイトだった。

　しかしなぜ馮艾保を相手にすれば、蘇小雅は自分の気性をコントロールできないのだろうか？更によく考えてみれば、彼は馮艾保に対してかなり失礼だった。

　恐らく彼らは生まれつきで相性が悪いだろう？何せ彼の紺は猫で、馮艾保のネズミはゴールデンハムスターから。天地の始まりから食物連鎖上のライバル関係にあるから、遺伝的な拒否反応が現れたのも当たり前だよね？

　間違いない！きっとそうだ！

　答えを思いついたと意識し、蘇小雅の気分がよくなった。彼はリーチインショーケースのドアを閉めて、冷凍庫を引き出して一袋の氷を取り出した。それを開けた後にガラガラと一リットルの容量がした水筒に入れた。そして最近自分がかなり好きな梅酒を取り出して、半分を入れ、梅酒が完全に冷やされるまでにかき混ぜ棒で混ぜた。

　少し考えて、蘇小雅はまた二つのネイビーブルーのグラスを取り出した。このデザインのグラスはかなり重量感があり、自身のガラスも厚みがあり、底は海の中に隠れている氷山のように澄んでいる。酒を飲むために使うと、よりまろやかな味わいを感じ、蘇小雅が特別に愛用しているグラスだ。

　一つの酒と二杯のグラスを持って、蘇小雅はバルコニーの掃き出し窓の前に近づき、足で窓を叩いた。

　広いバルコニーの上、センチネルは柵に寄りかかっている。片手に桃味の発泡酒を持ち、片手は半分に吸った煙草を挟んでいる。黒い両目は半開きをしており、うたた寝をしているのか、それとも何か深刻な問題を考えているのかわからなかった。

　ガイドちゃんがガラスを叩く音が聞こえると、馮艾保は顔を上げた。一人にいる時は無表情で、まるで大理石の彫像のような男が、蘇小雅を見た瞬間に、その眉間に浅く優しい笑みが浮かんだ。

　蘇小雅は自分の心臓がドキッとした音が聞こえて、それが自分の頭に叩いたような気がした。どういうことなのかわからないまま、その情緒はまた瞬時に消えてしまった。

　馮艾保は前に踏み出して彼の代わりに掃き出し窓を開けて、そっと口笛を吹いた。「いいお酒、山崎ワイナリーの幻鶴なのか？」

「そう、一杯飲むのか？」蘇小雅は手に持っている二つのグラスを掲げた。幻鶴のアルコール度数は少し高く大体21%あるが、よく醸造されている。まろやかで刺激的ではない。更に彼は氷で希釈したから、センチネルでもギリギリ二杯くらいは飲めるだろう？

「もし私が酔っぱらったらどうする？責任を取ってくれる？」まるで彼を口説かないと、舌に穴ができるみたいで、馮艾保は手に持っている桃味の発泡酒を置いて、蘇小雅の手にある水筒を取って、少し鼻先を動かして深く吸った。「やっぱりいい匂いだ」

「酔っぱらったらバルコニーで一晩寝ろ、どうせ僕の家には客室がないから、寝るかどうかは勝手にすれば？」蘇小雅は彼に向けて白目をむいて、真っ直ぐにバルコニーに置いてある屋外用のテーブルの傍に近寄り、グラスを置いた。

「朝食付きなのか？」馮艾保は後に付いてきて、二つのグラスを満たしてから水筒を置いた。

「とっくに対策を練ってうちの朝食を食べようとしていないか？」

「ハハッ」馮艾保は彼に向けてウインクをして、一杯の梅酒を取って、注意深く一口を啜った。

　彼は謹慎そうに、または口の中の酒を大切に思っているように見えた。まず何秒間の間に口の中に含んで、幻鶴の酒の香りと甘美さを味わった後、少しずつ喉を通らせた。

「本当にいいお酒だ……」馮艾保のため息と幻鶴の酒の香りは殆ど混ざり合っていた。

　蘇小雅は他に言うこともなく、自分の分を持ち上げて、馮艾保と同じようにゆっくりと啜り始めた。