27:知ってる?七割を超えたセンチネルには何らかの依存症がある

 蘇經綸はかなりの客好きな人だ。彼は馮艾保という客を大切に思っているのが目に見える。警察署から大きな市場までは二十分程だったが、彼はとてもお喋りだった。

 まずは馮艾保にどの国の料理が好きなのかと尋ね、アメリカ、フランス、イタリア、スペイン、韓国、日本、インド、トルコなど、中国と台湾の料理も聞いた。ついでに情熱的に自分が立てたメニューをシェアし、馮艾保の意見を尋ねた。

「元々はさ、ローストビーフをメインディッシュにするつもりだけど、この料理は難しくないが、かなり手間をかける必要があって、更に良い牛肉を買わなきゃいけません。小雅と阿思は好きだけど、普段はあまり作る機会がなく、せいぜいクリスマスの時にだけ作るチャンスがあります!阿思はセンチネルの殆どは肉が好きだから、肉料理を作れば間違いないと言って、彼が提案してくれました」

「確かに、センチネルは一般的に肉好きです」馮艾保は同意したように頷いた。

「たまたま昨日、俺がよく知る牛肉専売店のオーナーが急に電話をかけてきて、品質が特に良い牛を殺したから、見てみないかと尋ねてきました。それはもちろんです!元々は既に肉を買ったけど、より新鮮で良い選択肢があるのなら、みんなに嫌な思いをさせるわけにはいきません」蘇經綸はそう言って、バックミラーを通して馮艾保を見つめ、その目には笑みが浮かんでいた。

「私はとても期待しています。前日に何思も蘇兄の料理の腕前が特にすごくて、以前は蘭園ランエンホテル のシェフをやっていたと言った。今は自分でプライベートレストランを開いていますか?」

 蘭園ホテルと言ったら、国際的に有名なワールド飲食とホテル集団だ。本社は国内にある。蘭園でシェフになれるから、蘇經綸の腕前が普通じゃないことがわかる。

「あれはもう過去の話、俺はやはり自由自在に生活を送るのが好きです」蘇經綸は笑ってため息をついて、馮艾保は彼が蘇小雅をチラッと見て、両兄弟の視線はすれ違って、ほんの一瞬だけ不自然な表情になったのを無視していなかった。

 馮艾保は見ていないふりをして、とりとめのない会話を続け、何人はすぐに目的地に着いた。

「そうしましょう!早く食材を買い集めるために、手分けして探しましょう?」蘇經綸が車を降りた途端 、表情が変わった。相変わらず笑っている様子だけど、その目はかなり鋭くなり、プロのようなアグレッシブさだった。

「おう」蘇小雅はショッピングバックを持って、大人しく頷いた。「あなたと馮……」

「小雅、あなたは阿保と一緒に行ってくれ!これらの物はあなたたちに任せた。もし阿保は何が食べたいものがあれば一緒に買って、絶対に遠慮しないでください」最後の言葉は馮艾保に向けて言った。

「しかし、兄さん……」蘇小雅はまた足搔こうとしていた。彼は市場を回るのは好きだけど、馮艾保と一緒に回りたくない!

「それじゃ、三時間後に駐車場で集まろう!兄さんが教えたことは覚えている?物は一番いいものを選んで、価格は特に比較する必要はないが、無駄遣いもするな。必要な時はあなたの能力を使って店の人の情緒を探って、絶対に騙されてはいけないよ!」今の蘇經綸は戦士のように、両目をキラキラさせながら弟に言いつけたら、振り返って後ろ姿が見えないほどにどこかに行っちゃった。

「違う!兄さん!」蘇小雅は怒りながら大声で叫んだが、市場という妖精に惑わされた大王を呼び戻すことが出来ず、兄が人混みの中に消えていくのを見るしかなかった。

「勝手にエンパスempathで他人の情緒を探知することは、法律に違反することを知っているよね?特に相手がミュートの場合、刑が重くなる」馮艾保は煙の箱を取り出して手のひらで少し叩いて、何事もなかったように尋ねた。

「知っている!精神力を使って値切るつもりはない!」蘇小雅は慌しく怒りながら足を踏み込んだ。「兄さんの言うことを聞くな!」

「わかったから怒るな」馮艾保は煙草を出して口に咥えて、「一本吸ってもいい?喫煙依存症がちょっと抑えられない」と尋ねた。

「吸え」蘇小雅は馮艾保を一目睨んで、ショッピングバックを肩にかけて、兄から渡された買い物リストを開けた。「あなたのようなセンチネルが喫煙依存症があるのか?」

「なんだ?あなたの学校の授業では、この点を教えてなかったのか?」二人は自動車の傍に立ち、馮艾保は車に寄りかかっていた。彼はいつもそのだらしない姿を魅力的な魅力に仕立てることができ、適当にその長い足を交差して立っているだけでも一つの美しい景色だった。

「センチネルには喫煙依存症を抱えているのか?」蘇小雅は気を散らして彼をチラッと見たら、ちょうど馮艾保の半分伏せたような視線と合わせた。

 馮艾保の瞳は純粋な黒色、不純物が全く含まれておらず、人を見つめていると、無機質な生命体と思われるような錯覚を与えてしまう。蘇小雅は以前に本で似たようなものを読んだことがあり、確か不気味の谷現象と呼んでいたっけ?

 人間は人間に似た物、例えば人形、ロボットのようなものに対して恐れ、更に拒絶反応が出てしまう。

 馮艾保は生きた人間なのに、蘇小雅はよく馮艾保から妙な恐怖感と排斥感を感じてしまう。一体どういう原因で、またどこからこんな感情を生み出したのか、蘇小雅はずっとわからなかった。

 しかし馮艾保が目を伏せて、無頓着の様子を見せている時、その純粋な黒い瞳はうっすらと水の光を帯びて、また違った極端な感覚を味わった。

 この人は自分を誘っていると思ってしまう。エデンの園の蛇のように、恐ろしいと感じながら誘惑に満ちた。しかし最終的に抗うことが出来ず、欲望の中に引きずられて飲まれていった。

 当然ながら馮艾保相手に蘇小雅はあまり欲望がないが、美人を眺めることは人類の天性と言える。馮艾保の視線に、蘇小雅は僅かに赤面にならずにはいられなかった。

「なに?」蘇小雅は先に声を出して馮艾保を圧倒しようとした。

「うん?」馮艾保は頭を傾げて、蘇小雅の質問に理解できなかった。

「さっきは喫煙依存症と言ったじゃないか?センチネルとガイドの授業では、特にそのことを話していない、何せ個体差の問題だし」蘇小雅は咳払いして、どんなに心がドキドキしても、彼の表情は穏やかだった。

 ふん!馮艾保を見て顔を赤らめた?彼は誰でもいいわけではない!

「喫煙依存症じゃない……」馮艾保は煙草を肺に吸い込んで、ニコチンが呼吸の中に一回りしたのを楽しんでからゆっくりと吐き出した。彼は微かに頭を傾げながら上げて、首の筋肉が引き締まって、明らかですっきりとしたラインが出来て、引き締まった琴の弦のようだった。

「一回で全部話すことをお勧めする、僕らは買い物リストを終わらせないといけないから、僕に手を出させないでくれ」蘇小雅も何で自分がイライラしているのかわからない、ただ心の中が怒りに占拠され、馮艾保に会った時に湧きあがってしまった。

 男は何回か低く笑って、まるでガイドちゃんの態度が彼を楽しませたようだった。

 蘇小雅は馮艾保の笑顔を見て危うく理性を失いそうになり、問い質そうとしたら、馮艾保は顔を蘇小雅の左耳に近づかせ、淡いニコチンの匂いが帯びた息が蘇小雅の耳元に熱く吹いていた。

「七割を超えたセンチネルはある種の依存症を持っていた。一部はアルコール依存症、一部は仕事依存症、また一部は刺激的な物に溺れていた……」

 蘇小雅は猛然と馮艾保に向けてビンタをして、センチネルは挑発的な笑みを浮かべながらすっきりと避けた。最後は強く煙草を一口吸って、顔を上げてふーと空に向けて吐き出した。

「僕の耳元で囁くな!」蘇小雅は怒りのせいで顔が真っ赤になった。「もう三度目はないと言ったはずだ!」

「中国語の中の三は虚数と言える。三と三以上を指していることもある。つまりあなたの警告は制限がないことに等しい。数字は無制限に大きくなることも可能だ」馮艾保は三分の一に残った煙草を携帯式の灰皿の中に消して、サングラスを取り出してかけた。「怒るな眉ちゃん、エンパスempathで私を殴るつもりがない限り、死ぬほどに怒ったとしても私を止められない~何もそこまでしなくてもいいだろう?」

「僕ができないとでも思ったのか!」蘇小雅は厳しそうな表情をしていたが、実際は弱気になって、彼は熱くなった耳を塞ぎながら言い放った。「待ってろ、いつかエンパスempathであなたをボコボコにする!」

「いいよ、待っている」馮艾保は大笑いした。前に出てガイドの肩に手を回して、ミサイルを防御できる戦車の装甲のように図々しい。「さあ、兄さんに見せて見ろ、買い物リストには何がある?早く買い物を始めないと、あなたの兄さんとの待ち合わせに間に合わない」

「おじさん」と蘇小雅は堅持した。彼は肩を揺らしたが、一センチでさえも肩にある手を動かせることができなかった。本当に馮艾保の顔に血痕が付けるように、紺を呼び出して引っ搔きたかった。

 いやいや、紺が本当に出てきたら、誰が血が出るほどに引っ掻けるのかわからない。何せあのロシアンブルーは完全に本体の意志を気にせず、誇り高い猫のはずなのに、馮艾保を相手にしていると、いつも恥をかかされて彼の言いなりになっていた。

「私の心の中でお兄さんと思っていれば、それでいいんだ」馮艾保は仕方なく蘇小雅の尖った鼻先を指でこすった。「ちょっと見せて、あなたの兄さんはオニオンスープ、キノコクリームソース、ほうれん草とフェタチーズのサラダ、ポテトグラタンを作るつもり?この季節だとホワイトアスパラガスもいいけど、あなたの兄さんは作れるのか?」

「できるけど、茹でるか焼くかのどっちがいい?」どうせ抗えず、公の場で人の目を引きたくないから、蘇小雅は怒りをこらえて我慢するしかなかった。まあ、馮艾保が自分の耳元で囁かない限り、完全に受け入れないわけではない。

「焼くほうが好きだけど、ドイツ風のホワイトアスパラガスクリームソースもいい。あなたは?」馮艾保は蘇小雅と肩を組みながら市場の中に行った。

 蘇經綸から与えられた任務は非常に合理的で、馮艾保と蘇小雅は野菜、果物とスイーツ関連の食材を担当して、肉類や海鮮はシェフの蘇經綸に任せないといけない。彼らが買った物なら、恐らく蘇經綸に心筋梗塞を起こさせるかもしれない。

「ホワイトアスパラガスは好きじゃない」蘇小雅はまた肩を揺らした。今回、馮艾保はようやく優しいおじさんになって、自分の腕を退かして、蘇小雅の腰に回しているような姿勢を取っていた。「これじゃおかしい。まるで僕らが何らかの親密的な関係があるようだ……」

 馮艾保の敏感なセンチネルの聴覚は物理的にシャットダウンして、蘇小雅がブツブツと愚痴ったのを聞こえなかった。初めて街に出て買い物をした子供のように、見る物すべてに興味津々で、ガイドちゃんを引きずって各屋台を見て回った。

 市場はとても混雑していた。買い物をしている客人はのんびりしていたが、店の人は非常に忙しくしていた。時に広いと言えない通路で移動するトレーラーがあり、引手が道を譲るように叫び、さっと走り抜けて瞬く間に人混みの中に消えていった。

 トレーラーが通り過ぎるたびに、馮艾保は蘇小雅の腰に手を当てて自分のほうに近づかせた。だが、何回かした後で蘇小雅は少し耐えられなかった。

「位置を変えよう!」有無を言わさずに馮艾保の後ろから片方に移動し、眉をひそめながら警告した。「もうその手で触るな!」

 馮艾保は笑みを浮かべながら蘇小雅を見つめ、手を上げて無辜の表情をした。「そんなことを言うな、まるで私たちの間に何か特殊の関係があるみたいじゃん」

 やっぱり一握りの唐辛子を買って、馮艾保の口を塞ごうと蘇小雅は思った。

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